開幕2連敗の名古屋は巻き返せるか。急場しのぎは得策にあらず。“ケチャップの蓋”を開けるためには...

22年ぶりの開幕連敗を喫した町田戦の試合後、いまだ無得点のエース、キャスパー・ユンカーは苛立ちを隠せないような口調でこう言った。

「成功体験が必要なんだ。そして最初のゴールが決まった後に、その成功が訪れることを願っている」

鹿島との第1節(0-3)も、町田との第2節(0-1)も名古屋は得点を挙げられず、計4失点を喫して敗れている。たしかに、現状のチームには成功体験が足りない。局面ごとの良い部分はふたつの試合から抽出できても、勝利に、得点につながっていなければどこか手応えが空虚なものになってしまうのもよく分かる。

それは、こうした序盤戦で好調なチームに往々にしてある「勝って反省」という好循環の正反対だと思えば理解もしやすいだろう。今の名古屋には、まずは結果が必要だ。

かといって、なりふり構わず闘うというにも段階が早すぎる。今季は大型補強と新たな攻撃の取り組みを昨季までのチームに上乗せし、より勝点を奪える懐の深さを手に入れるべくプレシーズンを過ごしてきている。

それが、キャンプ中に前線の軸のひとりとなっていた山岸祐也が負傷離脱し、キャンプ後のプレシーズンマッチでディフェンスラインの中心であるハ・チャンレも離脱、開幕週になって3バックの左でビルドアップを担っていた河面旺成まで負傷するという不運に見舞われ、開幕戦のディフェンスラインは3人中2人がJ1開幕戦初体験という若く経験の浅い構成になった。

そのフォローのために、各ポジションの選手起用にも手を入れながらの戦いはなかなかに厳しく、結果としては無得点、2戦4失点という結果となったが、この場をしのぐ戦いに打って出るのはやはり得策とは言えない。

今はスクランブル状態なのだ。ベースには手を入れず、できる限りの手当てをしながらという意味での結果優先の戦いをしなければ、ここまでの積み上げがそれこそ無駄になる。

ユンカーはまたこうも言っている。「良いところも悪いところも見て、改善していく必要がある。もちろん、ネガティブなことに目を向けたくはないけど、変えられることには目を向ける必要がある。それが重要だ。試合に勝つために、変えられることに集中するんだ」。

ネガティブな点についてユンカーは「僕からは言うことはない」と口を閉ざしたが、彼が無得点であること、チームも無得点であることが答えではあると思う。どうやって得点を挙げるか、今季いまだお目にかかれていない初得点をもぎとるためにはどうしたらいいか。

これは対新潟(3節)という部分にも関わり、何を策として長谷川健太監督が準備してくるかによって変わってくるとは思うが、ヒントはある。

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このチームは新潟や横浜、今季で言えば練習試合で対戦した浦和や札幌といった相手に対しては、マンツーマンに近いプレッシングのはめ方を採ることもしばしばだ。自分たちからフォーメーションを崩し、ボールを保持しようとする相手の一人ひとりに強烈な圧力をかけ、自由を奪う。

練度という点で今のチーム状態が適しているかは未知数だが、練度に不安があるのならば逆にマンツーマンは明確でもある。運動量とインテンシティにおいては現メンバーもかなりのものがあり、ベンチメンバーも豊富だからこそ“オールアウト”の覚悟で闘える。

ファストブレイクにもつながる前からの守備はビルドアップ不要の攻撃でもあり、瞬時の切り替えにおいてユンカーや森島司、山中亮輔らの慧眼は大きな武器にもなる。可変とビルドアップという言葉が独り歩きしている今季の名古屋だが、そもそもの闘い方を変えたわけではない。「前進する術をキャンプで構築しただけ」と米本拓司は言った。これが突破口ではないか。

あるいはシンプルな攻撃もそのひとつか。「まずは守備の背後を目ざすことから」と長谷川監督は繰り返してきた。今季にポゼッションの考え、あるいはポジショナルプレーも取り込み始めたのは、それができない時のため。

永井謙佑は「やっぱり裏に行くには、その手前も上手くならないとっていうのはもちろんある」と言う。「背後がないって思われたらガンガン来られる。背後があるから、相手もなかなか寄せづらくなって、こっちはうまくビルドアップができるっていう現象に持っていけない」とも。

現に、鹿島戦と町田戦の翌日に行なわれた練習試合では、控えメンバーたちがまずは背後を取る動きを意識して戦う姿が見られている。要するに、優先順位を間違えてはいけないということだ。

得点源がユンカーということを考えても、速攻が一番有効だというのは誰の目にも明らかなのだ。リーグトップクラスのアドバンテージを無駄にする必要性は、この状況でならなおさらにない。

必ず勝てる方法はなく、こうしたものは机上論にすぎない。だが、2連敗で無得点という現状に燃えていない選手がいるはずもなく、おそらくはそれ以上に指揮官の負けん気にも火が点いている。

その意味でのなりふり構わずという姿勢が、闘争心という形でピッチで表現されれば百人力。まずは1点、おそらく取ればすべてが変わる。追加点を狙うか、守り切るかはその後の判断だ。

シーズン初得点を、できれば先制の形で奪うこと。その“ケチャップの蓋”さえ開けば、数字も結果も自信も、きっとビンからあふれ出てくるはずである。

取材・文●今井雄一朗(フリーライター)

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