【霞む最終処分】(23)第4部「実証事業の行方」 農地実施に軟着陸 理解の広がりに危機感

長泥での除染土壌の再生利用事業実施に合意した(左から)菅野典雄村長、鴫原良友行政区長、伊藤忠彦環境副大臣(肩書はいずれも当時)=2017年11月、飯舘村役場

 2017(平成29)年11月22日、東京電力福島第1原発事故で帰還困難区域となっている福島県飯舘村長泥行政区と村、環境省は、長泥で除染土壌を再生利用し農地を造成する実証事業の実施に合意した。

 その2日前、住民から了承を得ていた村は、当時の環境相・中川雅治宛てに長泥の復興に関する要望書を提出していた。①村内の除染土壌の再生利用を含め、土地造成・集約化を通じた環境再生②園芸・資源作物の栽培などによる長期的な土地利用への支援―が柱だった。

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 環境省は2016年4月、除染廃棄物の減容化と再生利用に向けた技術開発戦略を決め、再生利用を本格化させる方針を明確にした。同年6月には除染土壌の安全な利用に関する基本的な考え方を公表した。道路の盛り土や廃棄物処分場の覆土材、農地など想定される用途を具体的に示した。

 「(食べ物を作る)農地での再生利用は最もハードルが高いのは明らか」。2017年秋、村職員らは3者合意に向けて、どのような方法で土を再生利用すべきか議論していた。風評の発生や造成後の土壌流出の懸念から、農地利用には抵抗感があった。しかし、後に「長泥には農地以外の選択肢がなかった」(村幹部)ことが判明する。

 長泥を縦横に走る主要道路の盛り土改修には、国や県との十分な協議が不可避だった。村には2017年度中に長泥の特定復興再生拠点区域(復興拠点)整備計画案を政府に提出する予定が控えており、関係機関と道路整備に関する協議が長期化するのは避けたいという事情もあった。用途のうち、廃棄物処分場整備などは住民の理解を得にくいと判断した。最終的に庁内議論は、選択肢として残された農地での実施に軟着陸し、行政区との協議を経て了承を得た。

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 環境省は2018年8月から、実証事業の進捗(しんちょく)や安全性などについての説明の他、住民らとの意見交換の場として長泥地区環境再生事業運営協議会を定期的に開いている。開催は現在までに15回に上る。

 「事業が科学的な数字上、安全だろうということは分かる」。協議会委員で前行政区長の鴫原良友は一定の理解を示す。だが、再生利用を国民が広く理解しているとは感じていない。「実際に花や野菜が流通しなければ、国民に安全・安心は分かってもらえない」と語気を強める。早期の農産物出荷を望むが、農地の一部で設備工事の完工時期が決まっておらず、覆土調達のめどが立たない場所もあるなど、営農再開時期は見通せない。

 「営農できる体制を早く整え、新たな理解醸成活動につなげるべきだ。このままでは長泥の取り組みが無駄になってしまう」と危機感を募らせる。(敬称略)

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