伝記は紙と相性がいい? 電子好調の中でも自叙伝本が堅調、 SNSとの意外な親和性と名刺代わりの需要

伝記は紙と相性がいい

電子書籍の需要が紙の本を逆転し、若い世代には本はタブレット上で読むものという意識が定着しつつあるが、紙の本の需要が一定数残ると考えられる分野も存在する。それは鉄道やコレクション系など趣味性の高い分野の豪華本であり、装丁や紙の手触りなどにまでこだわった本である。また、“自伝”なども残り続ける本の有力候補といわれている。

電子書籍では後々読めなくなる可能性が高いが、紙の本なら数百年後も残すことが可能となる。そしていくらでも装丁を豪華にして所有欲を満たす仕様にできるし、何より紙の記録性の高さとも相性がいい。

また、スマホで撮影した写真をバックアップをとっていなかったり、ネット上にブログを綴っていたらサイトのサービス終了とともに消えていたりした経験をもつ人は多いだろう。一昔前であればフィルムで撮影した写真をアルバムに残しておく文化があったが、現代人は写真をスマホで撮ってそのままにしてしまい、何かの拍子で失っているケースが多い。

現代人は自身の記録を残しているようで、案外、残していなかったりするのだ。電子は物事を記録する手段として非常に弱く、紙にかなわない。そんな過去の記録を失った人が、自伝を書くことで思い出をもう一度よみがえらせたり、自身の半生に向き合う機会になる。紙の伝記は今後、大きなビジネスに発展しそうなジャンルである。

生成AIを駆使した伝記作成が問題に

JB pressの小林啓倫氏の記事によると、著名人の訃報が出た瞬間に伝記を生成するという、“生成AIによるインスタント伝記”が誕生しているのだそうだ。曰く、ニューヨークタイムズ紙の元エグゼクティブ・エディター、ジョセフ・リーヴェルドが死去した際は、死の直後数日間のうちに、少なくとも半ダースの伝記がアマゾンで出版されていたのだという。

小林氏は、「AIに書かせたものかどうかに関係なく、実在の人物の伝記を勝手に執筆・出版することはさまざまなトラブルを引き起こす。それをめぐる訴訟も数多く起こされている」と指摘している。言うまでもなく、他者が勝手に著名人の伝記をまとめるのは、倫理的な観点からも問題が多発しそうだ。

その一方で、個人が、生成AIを使って自伝を書くのであれば問題ない。もちろん文章が書ける人は自ら書けばいいのだが、文章が書けないという人でも人生を活字にして記録を残したいと思う人もいるだろう。そういう人に向けたサービスとして、生成AIを活用し、自伝の執筆を代行するサービスが広がりそうだ。

具体的には、生成AIと何度もやりとりをしたり、いつ何があったのかなど細かい情報を打ち込んでいけば、しっかりとした文章ができあがっていく。これなら自費出版を行う出版社などで需要が生まれるのではないだろうか。

新たなサービスが発展する可能?

伝記や自伝はそれこそ出版文化が生まれた最初期の頃からある分野なのだが、デジタル化が進み、人間の生き方が問われるようになった時代だからこそ、確実に需要は広がると思われる。むしろ、AIが身近になればなるほど、人間は自分自身を見つめ直す機会が生まれそうだ。そうした風潮と自伝の相性はぴったりなのである。

自伝出版ブームは、SNSで自身の身の回りの出来事や、文化祭や旅行などの特別なイベントを発信する文化を満喫しているSNS世代が、一定の年齢になった時に爆発的に広がってもおかしくない。黒歴史といわれがちな過去のXのポストや、Instagramの投稿なども、時間が経つと微笑ましくみえてきたりするものだ。そういった記録を紙の本にまとめるサービスは意義がありそうである。

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