1930-40年代の版画運動を約300点の作品で展観『版画の青春 小野忠重と版画運動』町田市立国際版画美術館で開催

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画家が版下を描くだけでなく、彫りも摺りも自ら行い、自らの創意を反映した作品づくりを目指した明治末期の「創作版画」運動からほぼ30年。昭和初期の1930年代から40年代にかけて活動した「新版画集団」と「造型版画協会」による版画運動を、そのリーダーであった小野忠重の旧蔵品を中心に紹介する展覧会が、東京都の町田市立国際版画美術館で、3月16日(土)から5月19日(日)まで開催される。

小野忠重は、1909年生まれ。当初は画家としてプロレタリア美術に関わっていた。20代初めの1932年に、武藤六郎ら同世代の青年たちと「新版画集団」を結成し、「版画の大衆化」を掲げて版画運動を開始する。だがその運動のなかで、現代版画には絵画的な充実が必要だと実感した集団は、1936年にいったん解散。翌1937年に小野や清水正博らメンバーの一部が「造型版画協会」を結成して、版画運動を継続・発展させていった。

1930年代といえば、関東大震災からの復興をはたした東京が、新しい景観をもった近代都市へと変貌をとげ、映画やカフェなどの娯楽文化が流行したモダンな時代。その一方で、経済や文化面などへの国家の統制が強化され、戦時体制へと歩みが進んだ時代でもあった。同展は、その激動の時代にあって自らの表現を模索した2つのグループの版画運動の諸相を、小野忠重旧蔵の約300点の作品によって探ると同時に、誕生から30年に満たない創作版画がいかなる「青春期」を迎えたかに注目するものだ。

見どころのひとつは、約300点にも及ぶ多彩な作品を通じて、青年版画家たちの創作版画に対する考えがどのように変化していったのかがたどれると同時に、風景や都市の景観、そして社会風俗などが描かれたテーマを通じて、1930年代から40年代にかけての日本にタイムスリップするような体験ができることだ。

戦時下の国家による厳しい統制によって、美術家の制作や発表は抑圧されたが、造型版画協会の版画家たちは困難を乗り越えて、1943年まで展覧会を開催し続けたという。そのことが戦後の運動の継続にもつながっていくのが、展示からも見てとれるだろう。若き版画家たちによる創作版画の「青春期」を、この機会に見届けたい。

<開催概要>
『版画の青春 小野忠重と版画運動 ―激動の1930-40年代を版画に刻んだ若者たち―』

会期:2024年3月16日(土)〜5月19日(日) ※会期中展示替えあり
会場:町田市立国際版画美術館
時間: 10:00~17:00、土日祝は17:30まで(入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜(4月29日、5月6日(月)は開館)、4月30日(火)、5月7日(火)
料金:一般900円、大高450円 ※3月16日(土)、4月19日(金)は無料、毎月第4水曜日は65歳以上の方無料
公式サイト:
https://hanga-museum.jp/exhibition/schedule/2023-540

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