鈴鹿央士、奥平大兼W主演。『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』という面白いタイトルのeスポーツ映画! 【おとなの映画ガイド】

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eスポーツを日本で初めて題材にした劇映画、『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』が3月8日(金) に全国公開される。「全国eスポーツ選手権」に出場したチームの実話をもとに、『のぼる小寺さん』などの青春映画の名手・古厩智之監督が映画化。ゲームのヒットメーカーである広井王子が企画・プロデュースを担当した。ゲーム対戦の臨場感あるスリリングな映像と、鈴鹿央士や奥平大兼が演じる高校生たちのドラマが見事に融合した、おとなが観ても楽しめる作品だ。

『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』

汗も涙も、感動の押し売りもない。これが21世紀型のスポーツ青春映画だ。

eスポーツは、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦を、スポーツ競技として捉えるときの名称。IOC(国際オリンピック委員会)主催の世界大会も開かれ、今や正式なスポーツとして世界に認められている。

eスポーツがとりあげられた映画では、昨年公開されたアメリカ映画『グランツーリスモ』が記憶に新しい。カーレース・ゲームのチャンピオンがリアルなプロレーサーになった実話の映画化。ゲーム画面と実際のレース映像、ともに大迫力だった。

野球やサッカーのように、eスポーツにも高校の全国大会がある。2018年から23年まで開催された「全国高校eスポーツ選手権 」もそのひとつ。本作は、その第1回大会に参加し、全国大会まで進んだ徳島・阿南高専の実話をもとに作られている。

成績優秀、手首のけがでバスケットボールを断念し、うつうつとした日々を送るちょっと生意気な高専3年生、達郎(鈴鹿央士)が主人公。他人と交わることを嫌って、もっぱらオンラインゲームに没頭している。

ある日、ネットで「全国eスポーツ高校大会」の告知をみて、興味を持つ。大会の種目は「ロケットリーグ」。彼はそのゲームの世界では日本上位ランカーなので、ひとりなら優勝を狙えるのだが、問題は3人でチームを組む必要があること。仲間のいない達郎はチーム募集のポスターを作り、学校中に貼り出す。

このポスターを見て、応募してきたのが2年生の翔太(奥平大兼)。あとひとりは、これまでつきあいのなかった、同じクラスの亘(小倉史也)を強引に巻き込んだ。これでなんとかチーム結成にこぎつけたのだが……。

まずこのチーム3人のキャラがいい感じだ。天才肌でやや孤高の達郎、明るい性格で女の子にもてる翔太、アニメやVチューバーに熱中しているオタクの亘。映画の公式サイトがうまいこと言っている。「陽キャ×優等生×クセ強」の3人組。

試合はほとんど達郎がひとりで得点を稼ぐ。翔太はなんとかうまくアシストする。ほぼシロウトの亘が足を引っ張る。そんなことの連続だが、その亘の思わぬ活躍もあり、予選を突破。なんと全国大会まで駒を進める……というお約束の展開。

なのだが、これまでのスポ根ものや、ハードな部活ものとちがうのは、タイトルにもある「勝つとか、負けるとかは、どーでもよくて」の精神。青春とか、友情とか、そういうやや“ストレートなワード”から距離をおいた3人のスタンスが、逆に好感がもてる。学校の名前で参加するのだが、学校の名誉のためになんて、よもや考えてもいない。3人の関係もイイ感じにクールで、いかにもいまを生きている高校生だ。

古厩監督は、モデルになった元高専生3人にヒアリングをしたときの印象が面白くて、この映画を監督することを決めたという。

「彼らが実際に大会で東京に出てきたときに、1日フリーな時間があったらしいんですね。それぞれ別行動をしていたのに、秋葉原で鉢合わせちゃうんです。そこでお互いに気づいているのに、誰も声をかけなかった。僕は『何それ』と思うと同時に、すごく『ぽいな』と思いました。彼らはお互いに踏み込まないんですよね。 それは優しさでもあったりして。そこが面白いと思ったので、否定せずに描き、その距離感も大切にしました」

もうひとつ素晴らしいのは、ゲームのシーンの映像。

「ロケットリーグ」はカーレースゲームとサッカーが融合したゲーム。プレイヤーは3対3で対戦。ジャンプや飛行ができる車“バトルカー”を操作し、相手チームのゴールに巨大なボールを叩きこむ。

本作は、「サクラ大戦シリーズ」などヒットゲームを多く手がけた広井王子が企画・プロデュースに参加している。さらに「ロケットリーグ」のエキスパートであるkokkenとWaveがゲーム監修と俳優への指導を担当、そのこだわりがハンパない。

プロダクションノートによれば、当初は、プレイする人物をメインにして撮影し、ゲーム画面を画角に入れ込む程度で考えていたが、「観客をゲームの世界に没入させたい」という古厩智之監督の意向で、フルスクリーンでゲーム画面を映すシーンを多用するなど、臨場感のある、凝りに凝ったものになった。

リアルの3人とゲーム画面の動きもぴたりと決まって、とても自然。特に、最初はミスばかりだが、次第に習熟していく亘のプレイはつい思い入れて観てしまうほどだ。

古厩監督といえばPFF(ぴあフィルムフェスティバル)の出身。大学時代に応募し、グランプリを獲得した作品は『灼熱のドッジボール』。転校する高校のクラスメートとの最後のドッジボールを描いた青春映画だ。高校生のドッジボールなんだけど、見ているこっちも次第に熱くなった。久しぶりにあの作品をPFFで観たときの興奮がよみがえってきた。

バーチャルの世界に熱中する3人組の、それぞれのリアル家族、抱えている人間関係、住んでいる海辺の町のたたずまい、学校の様子……そういうディテールもこの映画にはきちんと詰まっている。おとなの役者では、達郎の母親役の俳優がどこかで見たことあるなあ、と思ったが…。TVドラマ『きのう何食べた?』で西島秀俊扮するシロさんがよく行くスーパーの、無口なお姉さん役を好演した唯野未歩子さんだった! この映画でも言葉少なめの、深い演技が印象的でした。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

(C)2023映画『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』製作委員会

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