豪快かつデリケートな料理だね。「グライ・アヤム」を作ってみた!

**「インドネシア料理を作っているところ」って、あまり目にすることがないですね。
ココナッツミルクを搾ったり、香辛料をすりつぶしたり、実際にやってみたことはありますか?
インドネシア人に、インドネシア料理の「基本のき」を教わりました。
お題はココナッツミルク入り鶏カレー、「グライ・アヤム」です。**

おいしいインドネシア料理に巡り会いたかったら家庭料理をご馳走になれ!というのが鉄則。インドネシアのカレーの作り方を有名なシェフに習う、という企画案もあったのだが、ここは敢えて、家庭料理で行くことに。レバランのご馳走の定番でもある「グライ・アヤム」を作ってみることにした。

「誰か、作り方を教えてくれる人はいないだろうか?」と編集会議で聞いてみたところ、「できますよ」「私もできます」と、たちどころに声が上がった。

「じゃあ、パサール(市場)へ材料を買いに行きましょう。香辛料は今日、買って来ます。でも、鶏は当日の朝、生きたアヤム・カンプン(Ayam Kampung)を買って、絞めてもらいましょう」

「えっ、生きた鶏を買うの?」

「そうです。その場で絞めて、機械で羽を抜いて、きれいにしてくれます。何等分にして、と言ったら切ってくれますよ」

「スーパーで買うのでいいんじゃ?」という声を打ち消し、「いや、当日朝、絞めたてを買うのでないと」と先生のLとSは譲らない。

結局、鶏は当日朝にパサールで購入し、アヤム・カンプンは高かったとのことで、アヤム・ヌグリ(Ayam Negeri)になった。アヤム・カンプンは放し飼いの地鶏。小ぶりだが、おいしい。ただ、肉は硬いので、料理するのに時間がかかる。アヤム・ヌグリは養鶏の鶏だ。大きくて軟らかいが、「味はアヤム・カンプンの方がおいしい」というのがインドネシア人のこだわりだ。

どーんと1羽、魚で言うと「尾頭付き」の鶏が、まな板の上に。魚の尾頭付きは平気だが、鶏はちょっと……。Hは以前、「アヤム・カンプン」と言えば通常は丸のままであるのを知らずに、スーパーで「アヤム・カンプン」を買い、パックの中からごろっと1羽が出て来て、泣きそうになりながら処理したことがある。

魚の頭が魚好きにとって一番のご馳走であるのと同様、鶏の頭はインドネシア人にはご馳走。ジョグジャカルタのアヤム・ゴレン店「ニョニャ・スハルティ」でも、まるまる1羽のアヤム・ゴレンを頭付きで出す。鶏の頭は最高部位なのだ。しかし、鶏の頭を見た日本人の子供が泣いてしまったため、「日本人には鶏の頭は出すな」というルールが出来たと聞いた。

さて、まな板の上の鶏を、Lはこともなげに、大きい菜切り包丁のような包丁で「ガン、ガン」とぶった切っている。「こ、これはインドネシア人なら誰でもできるの?」と聞くと、「できますよー」とのこと。魚をおろすように簡単にバラしていく。日本人が魚をおろすようなものか?

衝撃の鶏解体が終わった後、次のポイントはココナッツミルク。「ココナッツミルク」……ココナッツのミルクって何?ココナッツの中に入っているのはココナッツジュース、それがどうやったらミルクになるのか?と、はたと考える。紙パック入りのインスタントしか買ったことがなく、よく考えてみたら、ココナッツミルクの何たるかを知らないのだ。

ココナッツとはココヤシの実であり、中に入っているのは栄養分である胚乳だ。ココナッツジュースは液状胚乳、周りの白い果肉のような物は固形胚乳。パサールで買って来たのは、中の水を出し、薄い板状になった実。つまり、外側の硬い皮と中の液状胚乳を取り除いた「固形胚乳」ということになる。

板のようにパリン、と折り、白い実に付いた薄い茶色の皮ごと、チーズをおろす時のような長いおろし金ですりおろす。お菓子を作る時は、白くてきれいな方がいいので、茶色い皮をむく(かなり、面倒くさい)が、ココナッツミルクを作る時は茶色い皮ごとおろすので良いそうだ。色は真っ白ではなく、ピンクっぽくなる。ほぐしたカニの身のようだ。

水っぽい大根や持ちにくい山芋をおろすのに比べると、ココナッツはしっかりとした手応えで、「シャカ、シャカ、シャカ……」とおろしやすい。おろし金が長いので、つい、上から下まで「シャーッ」とおろしたくなるが、「はい、もっと短く削ってください!」と即ダメ出し。「長く削ると、ココナッツミルクが少ししか取れません」。

パサールでは、買ったココナッツを機械で削ってもらうこともでき、その方が簡単なのだが、削り片は長いそう。手で触って比べてみると、長い削り片よりも短い削り片の方が、しっとりしているのがわかる。長い削り片はパサパサしている。なので、できれば手で削った方が良い。面倒だが、小刻みに「シャカ、シャカ、シャカ」とおろす。

ボウルにココナッツの削り片が小山となった。ここからココナッツミルクにするのは簡単というか原始的な手順で、ボウルに水を入れて、白玉粉をこねる時のようにぐちゃぐちゃにする。「白玉粉」を手に取って、ざるの上でぎゅっと握る。搾れた汁が「ココナッツミルク(=santan)」だ。

手で取って、ぎゅっ。手で取って、ぎゅっ。

「あのさぁ、これはもうちょっと、ほかにやり方はないわけ? 布巾に全部取って、一気に搾るとかした方がいいんじゃないの?」と日本人からは初めて異論が出る。

しかし、少量ずつ手で搾るしかないので、布巾を使って搾っても、結局は同じことかもしれない。そして、「一気に搾る」のは無理そうだ。欲張ってたくさんつかんでも、あまり多くは搾れない。多すぎると、指と指の間から「ぴゅっ」とサンタンが飛び出してしまう。

一人で搾る場合は左手でざるを持ち、右手で搾る。誰かがざるを持っていてくれれば、両手で搾っても良い。しかし、それもやはり難しい。結局は、右手でぎゅっ、右手でぎゅっ、を繰り返す。

一番搾りのサンタンは別にしておいて、これは料理の仕上げに使う。搾ったココナッツの削り片に再び水を加え、サンタンが出なくなるまで搾り続ける。

次はいよいよ、香辛料のすりつぶしだ。道具はおなじみ、石臼のような、中央がわずかにへこんだ丸い台(チョベック=Cobek)と、先端が丸くなったL字型の石(ウルカン=Ulekan)。これらは、「旧石器時代、新石器時代の石器です〜」と展示されていたら、「なるほど」と思ってしまいそうな形状。「これも、もうちょっと何とか……もっと使いやすい形にできないのか?」と勝手に思ってしまう。しかし、これが絶妙な形であるらしいことはわかった。「たたく」と「すりつぶす」の両方ができる。たたいてつぶしたり、たたきながらつぶしたり、物によっては、たたくだけ。

「すりつぶす」のは、ゴマを擂る時のようにぐるぐるウルカンを動かすのではない。ウルカンは中央のわずかにへこんだ場所から動かず、手で上下に動かす。この上下運動で、ショウガもエシャロットもトウガラシも、あっという間にすりつぶされる。

見ているだけだと簡単そうだが、やってみると、難易度Aクラス。「この道具、どう使いこなせばいいのかわからない」とQがつぶやく。Hがやってもまったくつぶれない。Sが代わると、Hの5倍速ぐらいで手が動き、あっという間に香辛料がペースト状になる。エシャロットは滑らないように塩を加えるなど、「すりつぶす材料によってのコツ」もあるようだ。

香辛料が周りに広がり始めると、もう一人が「餅つきの補助役」のように、スプーンで真ん中へとまとめていく。粗くつぶせたのを見て「このぐらいつぶれていればいいのでは?」と思うのだが、まったく妥協せず、完璧につぶれるまですりつぶす。「ちょっと赤すぎる? 黄色を足そうか」とウコンを加えたり、色合いにも気を配る。「茶色」の多いインドネシア料理だが、実は、彩りも考えられている。出来上がり!

味見をしたL、「うーん、おいしい」。味見をさせてもらうと、ほんの少量を口に入れただけで、フレッシュな香辛料の香りと味が口いっぱいに広がった。これぞ、香辛料の真骨頂。

続いて、油でいためる。たっぷりの油の中に香辛料を落とし、油を含ませる。香りが出るまで、「matangになるまで(火が通るまで)」と言うのだが、加減がよくわからず、なかなか難しい。

「豪快かつデリケートな料理だね」とQ。

香辛料に火が通ったら、鶏を入れ、二番搾り以降のココナッツミルクを加える。「さぁ、ここから沸騰するまでは休んではだめです!」とS。沸騰するまで、ゆっくりとかき混ぜ続けるのだ。「かき混ぜる」と言うより、「ゆっくり動かしている」「揺らしている」程度だが、こうしていないと、ココナッツミルクの脂肪分が分離してしまうとのこと(インドネシア語で「壊れる」と言う)。

沸騰すれば、料理の峠は越えた、と言える。後は煮詰めたり、味を調える作業になる。最後に、一番搾りのとろっとしたココナッツミルクを加え、再び、沸騰するまで混ぜ続ける。

香辛料をすりつぶした段階ではトウガラシの赤が強く、かなり赤っぽかったのだが、煮込んでいるうちに、赤色はどこかへ行ってしまって黄色が勝ち始め、黄土色っぽい「カレー色」になった。鶏肉も縮んで随分、小さくなり、色が染み込んで黄色っぽく変わってきた。

フレッシュな鶏とフレッシュなココナッツミルク、フレッシュな香辛料を使ったカレー。味はどうか? 当然のことながら、「おいしい!!」と感嘆の声が上がった。

日本のカレーは出来合いの「ルー」やドライの「カレー粉」を使うが、インドネシアのカレーは生の香辛料を使うのが最大の特徴。その他の味付けは塩砂糖のみというシンプルさで、香辛料のうまみを最大限に味わう料理だ。

所要時間は約2時間。「面倒、大変だ」とも言えるし、「こんなのでできるの?!」「材料さえ揃えれば簡単」とも言える。トライする価値あり、と思う。

グライ・アヤムの作り方

材料

エシャロット 5〜6個
ニンニク 3片
ショウガ 5センチ大
ガランガル 5センチ大
ウコン 3センチ大
ナツメグ 1/4個
シナモン 2センチ
ウコンの葉 10センチ
サラムの葉 2枚
コブミカンの葉 2枚
赤トウガラシ 13〜14個
レモングラス 1本
コリアンダー 大さじ1
クミリ 5個
ココナッツ 1個半
鶏 1羽
塩 小さじ2半
砂糖 小さじ2
油 大さじ4

下準備

  • エシャロット、ニンニク、ショウガ、ガランガル、ウコンは皮をむく。
  • レモングラスは皮をむいて芯だけにし、根元を切る。
  • 赤トウガラシは長さ2センチぐらいに切る。

作り方

1. 鶏の頭と足を落としてから半分に切り、半分をそれぞれ6分割ぐらいにする。肉は加熱しているうちに縮むので、大きめに切る。頭と足も捨てないで取っておく。 2. ココナッツをおろし金で削る。削った物をボウルに入れて、その中に水を入れる。 3. 新しいボウルを用意し、ざるの上から、2のココナッツを搾る。水がなくなったら水を足し、ボウルを代えて、さらに搾る。ココナッツミルクが出なくなるまで搾る。「一番搾り」と「二番搾り」以降は別にしておく。 4. 香辛料をすりつぶす。硬くてすりつぶしにくい物から先につぶす。最初にコリアンダー、続いて、クミリ、ショウガ、ガランガル。エシャロットは皮がすりつぶしにくいので、小さじ1/2ほど塩を加える。ニンニクは時々たたきながら、ウコンはたたいてから、すりつぶす。ナツメグはたたくだけで良い。シナモンは中に入れるだけで、つぶさなくて良い。最後に、赤トウガラシをすりつぶす。レモングラスはたたいてから、邪魔にならないように縛っておく。 5. 中華鍋を強火で熱し、油を入れる。4の香辛料を入れて、油を含ませるようにして、いためる。ウコン、サラム、コブミカンの葉を入れ、一緒にいためる。最初は強火で、油が全体に回ったら弱火にし、香りが出るまでいためる。

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