熱狂の2日間。日台の間に新たな野球の架け橋をかけたジャイアンツ90周年の伝統

まさに台湾野球に新たな歴史を刻んだ2日間だった。

巨人が球団創設90周年を記念して、台湾に新設された台北ドームで台湾の人気球団、中信ブラザーズ(以下中信兄弟)と楽天モンキーズ(以下楽天桃猿)相手に行った国際交流戦2連戦が、計7万人という台湾野球史上最多の観衆を集め無事終わった。巨人は、初日の中信兄弟戦に勝利、2日目の楽天桃猿線はスコアレスドローで1勝1分けでこのシリーズを終え、宮崎、沖縄、台湾続いたキャンプ、遠征を切り上げ帰京した。キャンプからオープン戦に突入する大事な時期の海外渡航だったが、日本一の伝統球団として巨人ナインは、日本野球のレベルの高さを台湾のファンに示した。

◆ 熱狂の台北ドーム

このシリーズの開場となった台北ドームは台湾初のドーム球場である。構想から30年余り、着工から11年以上をかけてようやく完成したこのスタジアムは、まさに台湾の野球ファンがその完成を待ち焦がれていた施設であった。シリーズ中は雨模様で、早速その威力を発揮した格好となった。

通りに面した百貨店(未開業)と一体化した施設には、ドーム球場を見慣れた日本人も圧倒されるだろう。外野2層、内野最大5層という「メジャー仕様」のスタンドは収容4万人。そこにいると、アメリカのいるかのような錯覚に陥る。ソ―ルドアウトとなった初日の中信兄弟戦の観客数3万7890人は、これまで最大2万人規模のスタジアムしかなかった台湾の野球における動員新記録をマークした。翌3日は日曜ということもあって(野球シーズンの猛暑を避けるため日曜でもナイトゲームの台湾では日曜の集客は良くない)、少々客足は落ちたが、それでも3万890人。2日間合計で7万人近い動員は台湾野球にあって異例のことだった。

チケットの料金も異例の高さで、2層目バックネット裏の報道陣席の周囲で2300元(約1万1000円)。それでも2日間連続で来場したというファンもいるほど、巨人は台湾での人気の高さを示した。

しかし、試合となれば話は別。来場者は日本からやってきた名門球団にエールを送りながらも、プレイボールがかかれば、日本でも有名な大音響とチアに先導され、台湾チームを応援していた。チアについては、巨人ナインも楽しみにしていたようで、初日の試合後の共同記者会見では、阿部監督が、その日の試合終盤に許したライト線へのツーベースに関して、「(ファーストを守る)秋広がチアに見とれて打球に反応しそこなったのでは?」とジョークを飛ばしていた。

当初、市街地に位置するドームが満員になった際の交通機関の混雑と安全面が懸念されたが、日本のドームでは考えられないような通路の広さや隣接する地下鉄駅へのスムーズな導線の確保、それに台北駅への無料シャトルバスの運行などもあって、試合後の観衆の帰宅は問題なく行われた。

今月に行われるソウルでのMLB開幕戦では、WBCの会場ともなったのコチョクドームのキャパシティの小ささが取りざたされているが、台北ドームの完成後は、日本に次ぐ世界野球のアジアにおける中心地はこの台北になることを予感させた。

◆ 台湾野球に見せつけた日本野球のレベルの高さ

1勝1分けという結果だったが、その結果やスコア以上に日台の野球レベルの格差はいたるところで見られた。スコアポジションにランナーが進んだ際にヒットが出た時の外野手のチャージは、明らかに巨人勢の方が速かったし、調整段階とは言え、戸郷、菅野の両エースの投球には台湾勢は手も足も出ないという感じだった。

楽天桃猿の古久保監督は、日台のプロ野球の「格差」についてこう語ってくれた。

「やはり選手が足りない。監督の立場としては、1年にひとりづつレギュラーが入れ替わっていくくらいが理想なんですが、こっちでは一軍と二軍、同じ一軍でもレギュラーと控えの差があるんで新陳代謝が進まないんです」

「勝ちに行く」と言い、スタメンにはレギュラー選手を並べた古久保監督だったが、あくまで開幕に向けた「オープン戦」のひとつ。試合中盤には、新戦力を試すため、メンバーを次々と変えていった。これは巨人も中信兄弟も同じこと。それでも台湾チームにとっては、惜敗と引き分けという結果に終わったのは、両国のレベル差が縮まっていることを示していた。

毎試合後の記者会見では、中信兄弟、楽天桃猿両軍の選手は一様に巨人の選手の技術の高さを語り、このシリーズから学んでいきたい旨コメントしていたが、この国際交流戦かきっかけとなって、台湾野球が「憧れるのを止める」日が近い将来くるかもしれない。

◆ 日台のきずなを再確認する場となったシリーズ

今シリーズは日台の野球人にとって旧交を温め、また新たな出会いを提供する場でもあった。私自身、記者席、ネット裏で旧知の記者ライターと再会し、また国境を越えた新たなめぐり逢いにも遭遇した。

選手たちも、これまでの野球人生の中で経験した国際大会を通じて知り合った相手国選手、指導者との再会を喜び合ってた。

楽天桃猿の古久保監督は、「縁」という言葉を好んで使う。日本から韓国、台湾に指導者として渡った彼は、これまで様々な「縁」を紡いできた。今回のシリーズでもその「縁」を垣間見ることができた。

シリーズ開始の前日の共同記者会見の席上、巨人・阿部監督は中信兄弟・平野監督と、古久保監督は巨人・岡本と隣の席となったが、この両ペアがしばしば会見中にひそひそ話をしていた。阿部監督と平野監督は、学年がひとつ違いで、ともに首都圏の大学でプレーし、現役時代も同じセ・リーグで戦った仲なのでつのる話もあるだろう。しかし、プロの世界では全く節点のないように見える古久保監督と岡本に話すことなどあるのだろうか。

翌日、何を話していたのか尋ねると、古久保監督の学生時代の縁で野球を教えに行ったリトルリーグのチームが岡本のいたチームだったらしい。そのチームの野球道具にそれを寄付した岡本の名があったのを覚えていて、そのことについて話したのだという。

試合当日も、高校時代のチームメイトの教え子だという投手の近藤、楽天時代の教え子、オコエが次々と古久保監督のもとに挨拶に来ていた。とくに楽天時代「やんちゃエピソード」の常連だったオコエは、その時期に厳しく指導してくれた古久保監督に感謝しきりだった。

また、2日目の試合前には、黄金時代の西武を支えた「オリエンタル・エクスプレス」、郭泰源氏、始球式には、昭和の終わりに旋風を巻き起こした「アジアの大砲」呂明賜氏と2000年代半ばに2シーズンプレーした姜建銘氏の両巨人OBが阿部監督とともに登場した。

◆ 海を越えた野球の架け橋のもつ意味

2日目の試合後、楽天桃猿の選手たちは以下のようなコメントを残した。

「素晴らしい試合で投げることができ、勉強になった」

「日本野球は台湾が学ぶべき対象。この試合の経験を今後の自分の野球生活に生かしたい。それによって台湾の野球が強くなればいいと思う」

「この試合で見つかった課題をこれから克服していきたい」

楽天桃猿は、この試合後、キャンプ地の嘉義に戻り、最後の仕上げを行う。

この試合、リリーフで2イニングを投げ、無失点で切り抜けたベテラン左腕、元ロッテの陳冠宇は、今回の国際交流戦についてこう言う。

「今日の試合に投げるって言うことで昨日からワクワクしていました。まあ、開幕前で調整登板なんで、100%ではないんですけど、日本のチームと久々に対戦してすごく楽しかったです。若い選手にとっても有名な選手と対戦することはいい経験になるので、今後もこういう試合があればいいなと思います」

シーズン前の大切な調整の時期の海外遠征は、巨人ナインにとって決して楽なことではないだろう。しかし、名門球団を率いる身として、巨人・阿部監督はその意義を十分なほどわかっていることは以下のコメントが示している。

「監督としてこのような試合に来ることができるとは夢にも思いませんでした。感慨深かった幸せな2日間でした。このシリーズに来てくださった多くのファンに感謝します」

続けて彼は、台湾のファンに向けて、このようなメッセージを残した。

「ファンがあってのプロ野球です。お客さんが多いと選手もやりがいが出ます。立派なドーム球場ができて、台湾のプロ野球の今以上の発展を願います。球場に足を運んでください」

台湾プロ野球は、3月30日、この台北ドームの楽天モンキーズ対味全ドラゴンズの一戦で幕を開ける。

取材・文=阿佐智

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