大河『光る君へ』謎多き安倍晴明伝説ー出生にまつわる怪しげな噂と特異能力 識者が語る

NHK大河ドラマ「光る君へ」第9回目は「遠くの国」。このドラマでは、陰陽師・安倍晴明をユースケ・サンタマリアさんが演じています。藤原道長の父・兼家の密命を受けて、呪術でもって暗躍するという役どころです。

晴明の生涯は数々の伝説に彩られており、謎が多い部分もあるのですが、生年は延喜21年(921)だとされています。室町時代に編纂された系図集『尊卑分脈』の「安倍氏系図」によると、晴明の父は、大膳大夫の「益材」(ますもと)。晴明の母親については、不明です。同系図によって、晴明の先祖を見ていっても、陰陽師となっている者は誰もおりません。つまり、晴明は陰陽師を輩出する家に生まれた訳ではないのです。晴明の生涯のどこかの時点で、彼は偶然か必然か、陰陽師になる人生の「選択」をしたということになります。

先ほど、晴明の母については「不明」と書きましたが、彼の出生にまつわる怪しげな噂というものは伝わっています。室町時代の禅僧(臨済宗)・瑞渓周鳳の日記『臥雲日件録』(応仁元年=1467年10月27日条)には、晴明の出生に関する次のような記述があります。

まず、晴明は「天下無双の陰陽師」であり、彼に「父母はなく、化生の者」であると。そして晴明の墓は奥州にあるとも同書には記されています。晴明に父母は無いというのは、あり得ない話ではありますが、その特異な能力から人間ではない「化生の者」(化物)という「伝説」が室町時代には既に誕生していたのです。

ちなみに同書には、晴明が「天下無双の陰陽師」と称賛されるようになった所以を記しています。ある時、晴明は天王寺において、二羽のカラスが話すのを聞きました(筆者注・この時点で既に常人ではありません!)。一羽は祇園のカラス、もう一羽は本栖のカラスだったようです。その頃、天皇は病に倒れていたのですが、それに関して祇園のカラスが「内裏の北西の方角の地中に銅器が埋まっている。その銅器には霊が宿っていて、その霊の祟りが天皇の病の要因である」と喋ったとのこと。

これを聞いた晴明は上洛し、天皇の病の要因を取り除きます。この功績により、名を挙げた晴明は「天下無双の陰陽師」と称されるようになったというのです。この逸話もまた晴明伝説の1つではありますが、室町時代の人が晴明をどのように見ていたかを知る上で貴重なものではあるでしょう。

◇主要参考文献

・「臥雲日件録抜尤」(『史籍集覧』第35冊、臨川書店、1967)

・繁田信一『安倍晴明』(吉川弘文館、2006)

(歴史学者・濱田 浩一郎)

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