【漫画】実家を出て初めてわかった親のありがたみーー“毒親”のイメージが変わる「私の母と私の話」

実家を出てから身に染みる親のありがたみ。「毒親」という言葉が根付いた現代でさえ、そういったエピソードは少なくないだろう。そんな物語をリアリスティックかつノスタルジックな表現で描いたエッセイ作品が「私の母と私の話」として美代マチ子さん(@arinkochan08)がXに投稿した『かっちゃん』だ。

母を「かっちゃん」と呼ぶ主人公は、幼少期に彼女から受けたひどい仕打ちを思い返しながら地元に帰ってくる。しかし家を飛び出した2年前に比べ、親に対しての気持ちが変わっていることにも気が付いて――。

現在U-NEXT Comicで『診霊カウンセラーナナコ』を連載中の美代さんにとって、本作は創作する心を取り戻すターニングポイントだったという。その制作と現在の活動について話を聞いた。

――まずポストしたタイトルが「母と私の話」でないところが意味深に思えました。

美代マチ子(以下、美代):確かにそうですね。でも特に考えがあった訳ではありませんでした。一般的な母というよりも「私の場合の母」といった意味合いです。

――今振り返って本作は自身としてどんな作品ですか?

美代:もう4年も前ですか……。以前Noteにも書いたのですが、今読み直してみると、さくらももこさんのエッセイ集『さるのこしかけ』に収録されている「実家に帰る」に触発されたのが大きいと思います。あとは大学在学中に連載をしていて、就職してからは趣味の二次創作を作っていたんですよ。でも自分の創作漫画を描きたかったんですね。

だから創作活動を続けている友達と「コミティアに出よう!」と鼓舞しあって本を出そうと。コロナ禍のひどい時でイベント自体が何度も延期になって、なかなか完成しなかった記憶がありますね。何とか完成させてからは「また描いてみようかな」「漫画を描くのが楽しい」という気持ちになれたので、精神的に今の活動に繋がっていると思います。

――やはりハートに火が付くことは大事ですね。

美代:そうですね。就職した友人たちを見ながら、一度でも創作から離れてしまうと戻ってくるのは難しいだろうなと感じてはいました。本作は仕事ではない自主制作なので、モチベーションを維持するために戦いつつ、描き終えられてよかったです。

続けるのって本当に難しい。今の時代はSNSの使い方も大事ですし。私個人は苦手な分野ですが、連載している『診霊カウンセラーナナコ』の丸々1話を投稿したりと頑張ってはいます(笑)。この『かっちゃん』を転載したのも「何か載せたい」というSNS活動の一環ではありました。

――ビリー・アイリッシュの「いい出来じゃなくてもいい、発表しなかったら誰かが好きになってくれる機会すらない」という言葉を思い出しました。

美代:全部に反応がある訳ではないですが、描いたからには出さないと勿体ないなと私も思います。

――「難しい過去でも、それをどう考えるかが大事」というような展開については?

美代:好きな漫画を破かれたり、理不尽な言葉を投げかけられたりして、今で言う「毒親」な部分があったかもしれません。でも初めて家を出ると、それ以上のことに気付くんですよ。3人の子どもに料理を作るだけですごい手間ですし……。離れてみて理解できるありがたさ、ですよね。

――『診霊カウンセラーナナコ』の連載についても教えてください。

美代:今までは描く機会のなかった題材ですね。編集さんに「女の子のバディものを描いてほしい」と言われて、それと前々から興味があった死後の世界などを違和感なく組み合わせました。ホラーじゃない幽霊もの。リアリティのない設定もありますが、だからこそ可能な人情話があるんじゃないかなと。

楽しみながら描けています。だから、それだけで満足なんですよ(笑)。でも、せっかくなら多くの人に読んでもらいたいし、感想を聞いてみたい。今はそんな気持ちです。できるだけ長く連載していけたら。

(小池直也)

© 株式会社blueprint