【今週のサンモニ】畠中さん、ご都合主義とは一体誰のこと?|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。

『サンモニ』がそれを言いますか……

2024年3月3日の『サンデーモーニング』のトップニュースは、米国大統領選でAIによるフェイク映像がネガティヴ・キャンペーンに悪用されているというものでした。

アナウンサー:実は、今回の米大統領選は、AIで精巧な偽の動画や音声を作る技術、ディープフェイクによる情報汚染が懸念されているのです。見破ることはできないのでしょうか。

ハマス幹部の現実の画像をフェイク画像と認定したフェイクニュースを自信満々に流し、「フェイク画像に騙されてはいけない」と説教してしまった軽率な『サンデーモーニング』が、このようなニュースを報じるのは、正直ドキドキします(笑)

【今週のサンモニ】〈緊急寄稿〉AI画像をめぐる「フェイクニュースのフェイクニュース」|藤原かずえ | Hanadaプラス

トランプ・ヘイターにウンザリ

スタジオトークでは、トランプ氏に対して異様なほど批判的な藪中三十二氏が予想通り噛みつきます。

藪中三十二氏:もしトランプが(大統領に)なったら、ルール重視の世界とか、自由民主主義の社会とか全くなくなるわけだ。本当に力ずくの世界になってしまう。ところが困ったことに今数ポイント、リードしている。

トランプ氏と熱狂的支持者の陰謀論にはウンザリしますが、日本のテレビでトランプ氏を先験的に全否定するトランプ・ヘイターにも同様にウンザリします。

三権分立が確立している法治国家の米国では、大統領が好き勝手することはできませんし、たとえ現職大統領でも法を侵せば、法の支配によって裁かれます。「ルール重視の世界とか、自由民主主義の社会とか全くなくなるわけだ。本当に力ずくの世界になってしまう」というのは公正な推論とは言えません。

また、外国の選挙情勢とはいえ、日本のテレビ放送が、トランプ氏の優勢を「困ったことに」と肩入れすることは、自由民主主義によって制定された放送法というルールを軽視する力ずくの行為です。あくまでも、テレビ放送では、トランプ氏が大統領に当選した場合のメリットとデメリットを合理的な根拠に基づいて言及するのが妥当です。

青木理氏:トランプ氏自身が言っていることがそもそもフェイクではないのか。AIは脅威だが、我々はどこで本当の物を見抜いていくのか、リテラシー必要だ。そもそも政治家自身を見抜かなければいけない。

AIの関与に限らずフェイクニュースに対して本物を見抜くリテラシーが必要であるとする青木理氏の主張は至極もっともですが、福島第一原発処理水を汚染水とするデマをテレビ放送での確信的に拡散した青木氏自体、そもそも同じような脅威であることに留意するリテラシーが必要です(笑)。

「被害者が望まない行為のすべてがセクハラである」は俗説

話は変わって、女性職員らの頭をポンポン触るなど、セクハラを指摘された町長辞任のニュースで畠山氏が次のようにコメントしました。

畠山澄子氏:これは岐阜県の話ですが、他にもたくさんある。三重県議が同僚の女性県議にチャン付けして…(中略)。この手のセクハラの話になると「昔は許されたけど時代が変わった」と言われるが多分50年前も本当は許していない人がたくさんいた。いまだに男女には大きな不均衡がある

チャン付けは、年少者に対する親しみを込めた表現ですが、同時に不快に感じる人も存在します。ここで、厚生労働省によるセクハラの定義と判断基準は次の通りです。

定義:職場におけるセクハラは、「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応により労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されたりすることである。職場におけるセクハラには、同性に対するものも含まれる。

判断基準:セクハラの状況は多様であり、判断にあたっては個別の状況を考慮する必要がある。「労働者の意に反する性的な言動」および「就業環境を害される」の判断にあたっては、労働者の主観を重視しつつも、一定の客観性が必要である。
一般的に、肉体的接触を伴うセクハラを一回でも行えば、就業環境を害したと認定される。継続性または繰り返しが要件とされる行為であっても、「明確に抗議しているにもかかわらず放置された状態」または「心身に重大な影響を受けていることが明らかな場合」には、就業環境を害したと判断される。
また、セクハラには男女の認識の違いがあり、被害者が女性の場合には「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とし、被害者が男性の場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とする。

つまり、セクハラは「被害者個人が迷惑と感じたか否か」が問われるわけではなく、「平均的な労働者が迷惑と感じる可能性がある嫌がらせ行為を加害者が行っているか否か」が問われることになります。野党やマスメディアが強要する「被害者が望まない行為のすべてがセクハラである」というのは俗説です。

チャン付けを不快と考える当事者は、それを直接的に、あるいは担当部署を通して間接的に、本人に伝えることが重要です。このケースがどうであったかは、個別の状況によるので、軽々に第三者が非難するのは慎む必要があります。

「チャン」「オバサン」も否定されるものではない

そもそも『サンデーモーニング』の関口宏さんも、以前はスポーツのセグメントで柔道の谷口涼子選手を「ヤワラちゃん」、卓球の福原愛選手を「愛ちゃん」と呼ぶなど、チャン付けを連発していました。

ただ、関口さんにセクハラの意識など全くなく、親しみを込めて年少者にチャン付けしていたことは自明です。

ちなみに、東京五輪時の放送ではゲスト出演した谷亮子さんに「ヤワラちゃんと言っちゃうかもしれませんが」と可否を伺い、快諾を得ていました。チャン付けは一方的に否定されるものではないのです。

同様に、先日、麻生太郎氏が上川陽子外相の仕事ぶりを絶賛した際に、上川外相を「オバサン」と呼びましたが、自立した女性である上川外相が、発言を「ありがたく受け止める」と表明している以上、これがセクハラに当たらないことは明らかです。

実際、「オバサン」という言葉は、現在でもごく普通に使われています。例えば、麻生氏の「オバサン」発言を強く批判した朝日新聞ですら次のような記事を掲載しています。

朝日新聞 2023年11月25日 金子桂一記者
(惜別)扇千景さん 元参院議長・保守党初代党首・俳優
3月9日死去(食道胃接合部がん) 本名・林寛子 89歳
私にとって最初の出会いは半世紀ほど前。きらきらと輝く、元気なおばさんだった。

これは、扇千景氏に対する朝日新聞金子記者の親しみと尊崇の思いがストレートに伝わる素晴らしい記事だと思います。

畠山氏の主張は非常によく理解できます。私も支持します。

ただし、それとは別に、メディアが、快・不快を思うままに統制した上で、道徳主義や父権主義といった反リベラリズムの正義を振りかざし、言葉狩りで個人を断罪する方向性は、モラル・ハラスメントにあたると考えます。

麻生発言報道のダブルスタンダード 新聞に喝! ブロガー・藤原かずえ

人権問題を矮小化

さて、番組最後の「風をよむ」では「中国の今」と題して、中国の習近平体制を批判しました。

アナウンサー:いま中国では習近平体制の元、国民への締め付けが厳しさを増しています。(中略)。次々と自由が奪われつつある今の中国。周庭さんは動画をこう結んでいました

周庭氏:自分が今カメラの前で自分のことを話せる自由は当たり前のことではないと思う。

中国で深刻に自由が奪われている状況を紹介する説明VTRでしたが、『サンデーモーニング』のコメンテーターの観方は全く異なっていました。

畠山澄子氏:人権を中国だけの問題に矮小化するのはいけない。米国だってグアンタナモ収容所があるし、カナダも先住民同化政策、欧州では難民に対する人権侵害、日本も例外でない。ウィシュマさんが亡くなって3年になる。人権というのをご都合主義的に特定の国を批判する道具にしてはいけない。

この日の『サンデーモーニング』のVTRを含めて、誰も人権問題を中国だけの問題に矮小化などしていません。日米欧といった国民主権の民主主義国家において、人権侵害が存在すれば、確実に問題化されます。しかしながら、中国やロシアといった専制国家では、日米欧とは比較にならないほど大規模かつ強力な人権蹂躙が行われていても、まったく問題化されないのです。なぜなら問題化する人が消されてしまうからです。

このような明白な理不尽が存在するにも拘らず、中国の人権問題に焦点を当てただけで、人権問題を矮小化していると批判するのは、中国の国家規模の人権蹂躙を矮小化していることに他なりません。

ご都合主義とは一体誰のことでしょうか。

【今週のサンモニ】支離滅裂でバカバカしいダブスタの畠山氏|藤原かずえ | Hanadaプラス

青木理氏:一強政権の側近が「気に食わない番組は取り締まるんだ」みたいなことを言っている内部文書が出てきたり、為政者はそういう方向に行きがちだ。けっして中国やロシアだけの問題ではない。

『サンデーモーニング』の偏向報道に対する一政治家の単なる感想を根拠に論点変更し、多くの市民の生命にリスクを及ぼしている専制国家中国・ロシアの人権蹂躙を矮小化する番組コメンテーターの人権意識の低さには驚くばかりです。

まさに「強きを助け弱きをくじく」ものです。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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