日経平均が最高値更新も「家計が苦しい」の声。株価と暮らしぶりに乖離を感じる理由とは

日経平均株価が34年ぶりに最高値更新

2月22日、ようやく日経平均株価が過去最高値を更新しました。この日の終値は3万9098円。その34年前にあたる1989年12月29日につけた終値は、3万8915円でした。過去最高値更新の瞬間を見て、感慨深いものがあった人もいたのではないでしょうか。

1989年に社会人になった人たちは「バブル入社組」などとやゆされ、「就職活動が楽だったでしょう」などと言われるのですが、確かにおっしゃる通り、就職活動は楽でした。

しかし、問題はそれからです。1990年に入ってから株価は下げ始め、バブル経済の崩壊が始まりました。土地の価格も暴落し、土地を担保にして多額の融資を行った銀行は次々に破綻。加えてデフレ経済となり、物価がどんどん下がって、経済活動は低迷し続けました。

日本企業の特徴だった「終身雇用制」や「年功序列賃金」は過去のものになり、大企業は大規模なリストラを余儀なくされました。バブル当時、「銀行に入っておけば一生涯安泰」などと言われたものですが、大手銀行を中心に業界再編が進み、早期退職などで不安定な人生を送らざるを得なくなった人も、少なくないでしょう。

そんな34年間を過ごすうちに、バブル入社組もそろそろ定年を迎えます。改めて自分のキャリアを振り返った時、自分の親がそうだったように、キャリアや収入面、あるいは資産の額でも、ずっと右肩上がりに来られたという幸せな人は、果たしてどのくらいいるのでしょうか。

ちなみに筆者も典型的なバブル入社組です。最初に入ったのが証券会社だっただけに、日経平均株価の最高値更新は、少し感慨深いものがあったのは事実です。

日経平均最高値更新に街の声は?

では、この最高値更新について、街の人はどう思ったでしょうか。

案の定、テレビの街頭インタビューで、「日経平均株価が最高値を更新しましたが、あなたの暮らしは楽になりましたか?」「株価が最高値を更新した実感はありますか?」といった質問をしてマイクを向けるリポーターに対し、「もう景気が良くて大変です」「もうかり過ぎて笑いが止まりません」といった回答は、ほとんど見られませんでした。

メディアは自分たちに都合の良いコメントだけを使いたがるので、それも当然かと思うのですが、インタビューに答えた人たちのコメントは、「あまり景気が良いという実感はありませんね」とか、「インフレで家計が苦しいです」といった、ネガティブな声ばかりでした。

偶然にも、日経平均株価が最高値を更新した2月22日、内閣府が「消費者マインド調査」の集計結果を公表しました。

2024年1月21日から2月20日までの期間中、男女合わせて69名に聞いたもので、半年後の暮らし向き、1年後の物価上昇についての見方を集計したものです。

それによると、半年後の暮らし向きについては、

「悪くなる」・・・・・・30.4%

「やや悪くなる」・・・・・・30.4%
「変わらない」・・・・・・26.1%
「やや良くなる」・・・・・・8.7%
「良くなる」・・・・・・4.3%

という結果が出ました。

「悪くなる」と「やや悪くなる」を合わせて60.8%ですから、多くの人が半年後の暮らし向きについて、悲観的な見方をしていることになります。それが街頭インタビューの声につながったのかどうかは定かでありませんが、恐らくあのインタビューをテレビなどで観た人たちは、少なくともポジティブな気分にはならなかったと思います。

よく経済や株価の予測をする際に、「悲観的な見通しを出しておいた方が無難」という考え方があります。

悲観的な答えをしておけば、予想が外れて良くなったとしても、良い方に外れるので、外れたことに対して批判の声は上がりにくくなりますし、当たった時には、「言った通りになりましたね」と言えます。悲観論者は常に自分の意見が間違った時に備えて、逃げ場をつくっているのです。

そう考えると、テレビが悲観的なコメントばかりを取り上げる理由が、何となくわかってきます。悲観的なコメントだけを取り上げておけば、視聴者から「皆、景気がいいと言っているけれど、俺は全然ダメだぞ」といったクレームが入る心配がないからです。

日経平均最高値更新も実感がないのは当然⁉

でも、よく考えてみれば、株価が最高値を更新したからといって、いわゆる「庶民」の暮らしぶりもすぐに良くなるなどということは、あり得ない話です。

株価は期待先行なので、実体経済の動きは株価に遅行する傾向があるからです。

それに、街頭インタビューの声は、基本的に国内で生活している人たちの実感ですが、日経平均株価の値動きに影響を及ぼしている企業を見ると、日本企業とはいえ、主戦場を海外にしているところが大半です。

日経平均株価の寄与度ランキングを見ると、

1位・・・・・・東京エレクトロン
2位・・・・・・ファーストリテイリング
3位・・・・・・アドバンテスト
4位・・・・・・ソフトバンクグループ
5位・・・・・・信越化学
6位・・・・・・レーザーテック
7位・・・・・・SCREENホールディングス
8位・・・・・・TDK
9位・・・・・・トヨタ自動車
10位・・・・・・キッコーマン

となっています。

いずれの企業も、海外売上比率が高いグローバル企業ばかりです。こうした企業に勤めている社員は、ひょっとしたら株価の上昇と生活実感がリンクしている可能性はあります。持株会に入っていて、勤務先企業の株式を一定数持っていれば、なおのことでしょう。

でも、ご存じのように日本企業の99.7%は中小企業であり、働いている人の68.8%は中小企業勤務という数字があります。このような中小・零細企業で働いている人たちにとっては、グローバルマーケットでの売上増も、株価の上昇も、基本的にはあまり関係ありません。

こうした点を考えれば、株価の上昇と、人々の生活実感に乖離(かいり)が生じるのは、当然のことなのです。

株価上昇の実感を得るために必要なこと

株価上昇で「自分も豊かになった気がする」という実感を得るためには、株式や投資信託などを保有して、株価の値動きに自分の資産の増減をリンクさせるしかありません。

実際、それを実行した人は、この株価上昇によって自分の資産が増えた実感を得ていると思います。

第一生命経済研究所が2月15日に公表したレポートによると、日経平均株価が3万8000円で、家計が保有している上場株式・投資信託の含み益が80兆円に増えたと書かれていました。

もちろん、株価が下落すれば含み益が消え、下手をすれば含み損を抱えることにもなりますが、そのリスクを負っているからこそ、80兆円の含み益を享受できるのです。そのリスクを負わない以上、「株価が上がっているのに生活実感がない」のは、至極当然のことなのです。

参考:内閣府「消費者マインドアンケート調査(試行)の集計結果(令和6(2024)年2月分)」
参考:第一生命経済研究所「株価38,000円で家計の含み益拡大 ~上場株・投信は+80兆円増と試算~」

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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