攻守でグレードアップしたヴェルディ染野唯月。パリ五輪目ざす大岩Jの“秘密兵器”になれるか

[J1第2節]浦和 1-1 東京V/3月3日/埼玉スタジアム2002

強く逞しくなった。尚志高時代から注目を浴びてきた染野唯月が、ストライカーとして羽化すべく、五輪イヤーをスタートさせている。

ポテンシャルは一級品。高校時代から万能型のストライカーとして高い評価を受け、正確なポストプレーと決定力の高さで“大迫勇也(神戸)の再来”と称された。2018年度の高校サッカー選手権の準決勝では青森山田を相手にハットトリックを決め、PK戦で敗れたとはいえ、大きなインパクトを残した。

卒業後はジュニアユース時代を過ごした鹿島でプロのキャリアをスタートさせた。しかし、鈴木優磨らの壁に阻まれ、思うように出場機会を得られなかった。J1初ゴールはプロ3年目まで待たなければならず、その年の夏には育成型期限付き移籍で、当時J2の東京Vに赴いた。

東京Vでは16試合に出場して4ゴール。ブレイクの兆しを見せると、鹿島にレンタルバックした2023年シーズンも夏に東京Vにレンタルで加入し、18試合で6得点。そして、迎えた同年12月のJ1昇格プレーオフの決勝。0-1で迎えた後半アディショナルタイムに果敢な仕掛けでPKを奪い、これを自ら決めてチームをJ1昇格に導く活躍を見せた。

遠回りをしたが、ようやくプロの世界で結果を出し始めた染野。今季も東京Vにレンタルで加わり、チームのエースとして大きな期待を寄せられている。

実際にここまでの2試合のパフォーマンスを見ても、十分にJ1で戦える可能性を示している。

横浜F・マリノスとの開幕戦ではフル出場。1-2で敗れたものの、安定したポストプレーで攻撃を牽引。ロングボールに対して頭ですらすだけではなく、胸で落とすなど、多彩な技でチャンスを生み出した。

ゴール前でも存在感を示し、20分のプレーは圧巻の一言。ボックス内左でボールを受けると、2人を一気に外して左足でシュートを打ち込んだ。惜しくもGKポープ・ウィリアムの好セーブに阻まれたが、ひとりで局面を打開できる力を示したのも好印象だった。

迎えた第2節の浦和戦は1-1のドローゲームとなったなかで、序盤からアレクサンダー・ショルツとマリウス・ホイブラーテンのCBコンビに苦戦。フィジカル勝負で分が悪く、良い形でなかなかボールが収められなかった。それでも、わずかな隙を突き、正確なポストワークで攻撃の起点に。ボールを味方に繋いで存在感を発揮した。

その一方で得点はなし。特に浦和戦は1本もシュートを打てていない。「開幕戦と同じ。チームが苦しい時に得点を決められる選手にならないといけない。それがこの2試合を終えての感想です」という言葉からも悔しさが滲んだ。

もちろん、ポストワークでは手応えを感じており、「やれる自信はあったし、やらなきゃいけないのは当たり前。違いを生み出さないといけないし、もっとたくさんチャンスを作らないといけない。そこは増やしていきたいです」と意気込む。

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課題と収穫を得たなかで、触れるべき点が実はもうひとつある。それは守備での貢献度だ。

鹿島時代もプレスバックを頑張るタイプの選手であり、決してサボるようなことはなかった。だが、昨夏以降、守備に対する意識が大幅に変化。高い位置から積極的に相手を追い回し、2度追いをすることも珍しくない。

また、がむしゃらにプレスをかけるだけではなく、チームの戦術を頭に入れたうえで、行くべきところと行かないところを精査してプレーしている。

浦和戦でもディフェンス面での成長を見せ、その効果は絶大だった。「アンカーの11番を消しながら、センターバックのふたりに対して守備をしていくことは意識していた」という言葉からも、賢く守っていたことが窺える。

攻守で成長の跡を示しており、そうなってくると、期待したいのはU-23日本代表入りだろう。大岩剛監督が率いるチームは今年7月のパリ五輪出場を目ざし、アジア最終予選(U-23アジアカップ)は4月15日に幕を開ける。

昨季は大岩ジャパンに一度も招集されておらず、最後にメンバー入りしたのは一昨年の11月に行なわれた欧州遠征。現状ではラージグループのひとりに過ぎないが、まだまだチャンスはある。

浦和戦の視察に訪れた大岩監督も試合後に「90分の中で攻撃のクオリティを出せるようになってほしい」とリクエストしたが、門戸は開かれている。「今、何をしているかをよく見ている」という指揮官の言葉からも、今後の活躍次第でメンバー入りが不可能ではないことを予感させた。

守備の強度は高まっており、プレスの質も向上している。ファーストDFの役割を果たせる点は大岩監督が求める部分でもあり、U-23代表のやり方を理解できれば十分に機能するだろう。

また、エース格でA代表歴を持つ細谷真大(柏)や、コアメンバーでフィジカル勝負ができる藤尾翔太(町田)とは異なるキャラクターを持つ点も大きなポイント。ポストワークで勝負できる点取り屋の存在は、チームにとってプラスになるはずだ。

あとはクラブで結果を残すだけ――。「(開幕から2試合連続で)最後まで使ってもらっているので、信頼を失わないようにちゃんと結果で示したい」と言い切った22歳は、結果を積み上げた先に代表入りがあると信じ、3月22日と25日に行なわれる親善試合のメンバー入りに向けてアピールを続けていく。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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