「給与が半分以下に」50代での「再就職」の厳しさ…老後生活への強い不安

(※写真はイメージです/PIXTA)

「下流老人」「老後破産」…なんとも辛い言葉が多くなった昨今。老後に必要なお金、貯められていますか? 厚生労働省『賃金構造基本調査』(令和4年)などをもとに解説していきます。

年収1,000万円超「勝ち組サラリーマン」…退職のワケ

某食品メーカーに勤めていた原本さん(55歳・男性/仮名)。50歳のころ、新卒より勤め上げていた会社の退職を決意しました。

「20代~30代のときは、がむしゃらに働いていました。営業として一番の利益を出すために、朝から晩まで駆けずり回ったなあ……。そこそこ大きな会社でしたから、社内政治も激しかった。『会社のなかで絶対に生き残ってやる』という強い気持ちがありました」

「定年まで残り10年、勤め続けることももちろん考えました。ただ……50歳になって急に『このままいいのか』という気持ちに襲われたんです。部長として、年収は1,000万円を超えていました。満足するお金をもらっていましたが、一方で娘も大学を卒業して家を出ていき、肩の荷が下りていた」

厚生労働省『賃金構造基本調査』(令和4年)によると、男性の場合、「部長」の平均賃金は58万6,200円(年齢52.7歳、勤続年数22.1年)、「課長」の平均賃金は48万6,900円(年齢48.8歳、勤続年数20.5年)、「係長」の平均賃金は36万9,000円(年齢45.4歳、勤続年数17.8年)です。

原本さん、まさに「勝ち組サラリーマン」だったわけですが、勤続約30年、思うところがあったようです。

「まあ、怒られますよね、そりゃ……。なんの相談もしないで、『仕事辞めた』だけ伝えましたから。『一体どういうこと』と散々責められましたが『もう決まったことだから』で通しました。貯金もそこそこあったので、別にいいだろうと思っていました」

妻は激怒…娘から送られてきた、「物寂しいライン」

「娘からは『パパの人生だから好きにすればいいと思う』とラインで一言。ちょっと物寂しい気持ちにはなりました」

原本さん、周囲がひっそりと心配しているなか、「新しい人生の始まりだ」と意気揚々です。有給消化中は、ビジネス書を読んだり、今までしていなかった筋トレをはじめたりと、それはもう「水を得た魚」のようでした。

有休も終わり「完全無職」となった原本さん。奥さんの眼光もそろそろ鋭くなってきた手前、本腰を入れて次のステップを踏み出すことにしましたが、ふと、あることに気づきました。

「何か新しいことにチャレンジを」。張り切っていた原本さんでしたが、その「何か」が、自分でもよくわかっていなかったのです。

起業しようかな。――でも、何の?

飲食店でも開くか。――いやいや、料理なんてしたことないし。

前職と近い業種で働くか?――それだと、辞めた意味がない。

原田さん、趣味は登山と釣り。あくまで人生の息抜きとして楽しんでおり、仕事にはしたくない気持ちがあります。

慌てるにはまだ早いと自分を落ち着かせ、転職サイトを開いてみることに。多様な業種が表示されるなか、とりあえず目に入った「広告」業の詳細を見れば、おびただしい量の会社が並びます。新卒で入社し、そのほかを知らない原田さん。若い社会人が笑顔でアピールするその姿に、ちょっと尻込みしてしまいました。

「転職サイトを見たら、急に現実味が湧いてきたといいますか、『俺は、このなかから選ぶのか?』と。今になって正直に言えば、『我に返った』感はありました」

「やりがいとか、達成感とか、若かったあのころを思い出したいと考えていたんです。自分が求めていたのはそのワクワク感であって、じゃあ具体的に何をしたいんだと問われると、それは……」

父の背中を追ってみたものの…面接で放たれた酷い言葉

原本さん、とりあえず不動産業の求人に応募しました。今は亡き父が不動産営業マンとしてバリバリ働いていた姿を思い出し、「あの背中を追えたら」と考えたのです。実直に勤め上げた経験が評価されることを祈って、複数の会社に履歴書と職務経歴書を送りました。

結果、惨敗。面接にこぎつけても「経験ないんでしょ? 年齢的にもちょっとねぇ……。結構体力勝負な仕事ですけど、本当に大丈夫なんですか」と一蹴されてしまったのです。

不動産業界はダメだ、やっぱり趣味を仕事にするのもありなのかもしれない、と次はライフ系の雑誌編集部に応募。面接では今まで蓄えてきた「海と山の知識」を存分にアピールしましたが、これまた経験不足を理由に落とされてしまいました。

……結局原本さん、現役時代だったときのツテを利用し、食品メーカーの下請け会社に就職しました。現在の年収は400万円、ボーナスはなく、月の手取りは25万円ほどになります。あと5年もすれば定年です。

「今の給料ですら有難いと思わなきゃいけないのは百も承知ですが、やっぱり少ないと感じてしまいます。年収半分以下ですからね。本当に、一瞬の気の迷いだったと反省しています。5年後、どうすればいいんだろう。嘱託社員になるのかな。もっと給料下がりますよね。……不安しかないです」

「老後不安、もちろんありますよ。65歳からの年金を頼りにしています。貯蓄を切り崩すのは怖いじゃないですか。娘に子どもができたら教育資金だって渡したいので、お金の余裕は本当にないです」

最後に原本さん、どうしようもない本音を打ち明けました。

「あのまま会社を辞めていなかったら、ですか。2日に1回は思いますね。妻からの視線も冷たいですし」

「だからといって、今さら戻れるわけでもないので、どうしようもないんですけど。今の仕事の内容自体は、可もなく不可もなく、といったところです。そこまで横柄な人もいないですし、恵まれているほうなのかな」

「定年が迫っている身として老いは感じていますけど、それでもまだ人生20年以上ありますよね。恐ろしいな。このまま淡々と過ぎていくのはあまりにも悲しい気がしますので、やっぱり、人生を楽しむ『何か』を見つけたいとは考えています」

高齢者世帯「貯蓄がある」は 80.7%

厚生労働省『国民生活基礎調査の概況』(2022年)を見てみると、全世帯で「貯蓄がある」は 82.4%で、「1世帯当たり平均貯蓄額」は1,368万3,000円となっています。ちなみに高齢者世帯で「貯蓄がある」は 80.7%で、「1世帯当たり平均貯蓄額」は1,603万9,000円となっています。

年金についてリスク喚起をする記事は多いものの、どんなに少なかったとしても、老後に最も重要な収入になることは間違いありません。もらえる分は最大限もらっておきたいところですが、お金の専門家の間では、「年金」について意外なリスクを指摘する声もあります。

将来の年金不安はもちろんですが、現時点でもすでに、たとえ潤沢に貯蓄・年金があろうとも、現役時代の金銭感覚を変えられず老後破産に至るケースは多いものです。自力での計画的な資産形成が求められていることは間違いありません。

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