『デューン 砂の惑星PART2』で蘇った北米の映画市場 批評家&観客ともに前作超えの高評価

2024年最初の超大作がいよいよ登場だ。『デューン 砂の惑星PART2』が3月1日に北米公開を迎え、週末ランキング(~3月3日)でNo.1を獲得。3日間の興行収入は8150万ドルで、今年最高のオープニング成績を樹立した。興行規模としては、2023年10月公開『テイラー・スウィフト: THE ERAS TOUR』以来のスマッシュヒットとなる。

2023年の全米脚本家組合(WGA)、全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)によるWストライキ以来、映画館業界はきわめて厳しい状況に置かれてきた。製作の遅延による作品不足、また、公開に踏み切った作品でも俳優陣がプロモーションに参加できないために本来の興行的ポテンシャルを発揮できなかったのだ。

『デューン 砂の惑星』は、フランク・ハーバートの同名小説に基づくSF超大作で、2021年公開『DUNE/デューン 砂の惑星』の続編。名匠ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のもと、出演者にはティモシー・シャラメ、ゼンデイヤ、レベッカ・ファーガソン、ジョシュ・ブローリン、オースティン・バトラー、フローレンス・ピュー、レア・セドゥ、ハビエル・バルデム、デイヴ・バウティスタほか超豪華キャストが集結した。

本来は2023年10月の北米公開予定だったが、配給のワーナー・ブラザースは、シャラメ&ゼンデイヤがストライキのため稼働できないことから公開延期を決定。映画館業界の反発もあったが、その判断は正しかったというほかない。前作のオープニング成績(4101万ドル)の約2倍という強烈なスタートダッシュを決めたほか(前作の公開時はコロナ禍まっただなかで、公開同日に配信がスタートしていたことを忘れてはならないが)、ヴィルヌーヴやシャラメ、ファーガソン、バトラーにとっても過去最高の初動成績となったのだ。

もっとも、上映時間2時間46分のSF映画を大ヒットに導くのは決してたやすいことではなかった。ワーナーは予告編やテレビCM、SNS戦略、企業とのプロモーションなどを大規模かつ戦略的に仕掛けてきたが、公開直前でさえ「初動成績は6500万ドル程度の見込み」と控えめな予測を立てていたのである。業界内では7500万~8000万ドルは堅いと考えられていたが、ワーナーとしては「蓋を開けねば結果がわからない」プロジェクトだったのだ。

ヒットの要因は大きくわけて2つある。ヴィルヌーヴこだわりのIMAX上映と、前作以上の高評価だ。

劇場ならではの映画体験を重視するヴィルヌーヴは、本作でもIMAXカメラの撮影を実施し、IMAXをはじめとするプレミアムラージフォーマット(PLF)での鑑賞を望んできた。その結果、初動興収8150万ドルの48%がPLF上映、23%(1850万ドル)がIMAX上映であることがわかっている。現地で人気のIMAXシアターでは、今後数週間にわたってチケットが完売しているほどの熱狂ぶりなのだ。

作品への支持もきわめて大きく、Rotten Tomatoesでは批評家スコア94%・観客スコア95%を記録。観客の出口調査に基づくCinemaScoreでも「A」評価となった。前作がRotten Tomatoesで批評家83%・観客90%、CinemaScoreで「A-」評価だったことと比較しても、本作がSFファンや原作ファンだけでなく広い客層の心をつかんだことは明らかだ。

実際のところ、今年がはじまって以来、北米映画市場はその「広い客層」に訴求できる話題作・大作の不足に悩まされつづけてきた。2024年の累計興行収入は、2023年の同時期と比較して80%程度にとどまっていたのだ。しかし『デューン 砂の惑星PART2』の公開により、累計興収は昨年比86.5%にまで回復したという。

海外市場では71市場で9700万ドルを記録しており、全世界累計興収は1億7850万ドル。イギリスで1150万ドル、フランスで930万ドル、ドイツで840万ドルと、ヨーロッパでの人気が特に大きい。巨大市場・中国では3月8日の公開予定だ。

もちろん本作は、公開直後にコストをすべて回収できる規模の映画ではない。報道によると、製作費は1億9000万ドル、広報・宣伝費は約1億ドル。前作は製作費1億6500万ドルに対し、世界興収4億3379万ドルを稼ぎ出して黒字だったというが、今回はここから数字をどこまで伸ばせるか。ヴィルヌーヴの熱望するシリーズ第3作が実現するかどうかも、ひとえに興行の成否にかかっている。

『デューン 砂の惑星PART2』の日本公開は3月15日。これに先がけて、3月8日、9日、10日の3日間には先行上映も実施される。

なお、今週はほかに話題の新作がなかったため、ランキングの第2位は公開3週目の『ボブ・マーリー:ONE LOVE』で週末興収743万ドル(首位との金額差は約7400万ドルだ)。同じく3週目の『マダム・ウェブ』も第4位を守ったが、上映館数は897館減となった。前週2位で初登場した『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』は、前週比-82.1%という大幅下落により第7位まで急落している。

北米映画興行ランキング(3月1日~3月3日)
1.『デューン 砂の惑星PART2』(初登場)
8150万ドル/4071館/累計8150万ドル/1週/ワーナー

2.『ボブ・マーリー:ONE LOVE』(↓前週1位)
743万ドル(-44.8%)/3390館(-207館)/累計8277万ドル/3週/パラマウント

3.『Ordinary Angels(原題)』(→前週3位)
385万ドル(-37.5%)/3020館(変動なし)/累計1256万ドル/2週/ライオンズゲート

4.『マダム・ウェブ』(→前週4位)
320万ドル(-45.9%)/3116館(-897館)/累計4044万ドル/3週/ソニー

5.『The Chosen: S4 Episodes 7-8(原題)』(初登場)
315万ドル/2215館/累計391万ドル/1週/Fathom Events

6.『FLY!/フライ!』(↓前週5位)
250万ドル(-12.9%)/2204館(-230館)/累計1億2345万ドル/11週/ユニバーサル

7.『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』(↓前週2位)
206万ドル(-82.1%)/1949館(変動なし)/累計1570万ドル/2週/ソニー

8.『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(↓前週7位)
173万ドル(-29.4%)/1732館(-471館)/累計2億1676万ドル/12週/ワーナー

9.『ARGYLLE/アーガイル』(↓前週6位)
140万ドル(-48.9%)/2283館(-777館)/累計4396万ドル/5週/ユニバーサル

10.『The Beekeeper(原題)』(↓前週9位)
111万ドル(-42.8%)/1347館(-810館)/累計6492万ドル/8週/Amazon・MGM

(※Box Office Mojo、Deadline調べ。データは2024年3月4日未明時点の速報値であり、最終確定値とは誤差が生じることがあります)

参照

https://www.boxofficemojo.com/weekend/2024W09/
https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/dune-part-two-box-office-1235839660/
https://variety.com/2024/film/news/dune-2-box-office-opening-weekend-timothee-chalamet-1235928614/
https://deadline.com/2024/03/box-office-dune-part-two-1235842667/
(文=稲垣貴俊)

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