能登半島地震-識者に聞く/京都大学大学院工学研究科・高橋良和教授

◇耐震工学/各分野をつなげる横串に
□境界の構造物に被害多発□
能登半島地震の被災現場では、範囲が広いため耐震対策があまり進んでこなかった土構造物(盛り土、切り土など)での被害が目立つ。これまでは、道路ネットワークの弱点部となる橋梁など道路構造物の耐震対策を重要視し、土構造物は早期復旧が可能と考えられ、橋梁ほど対策が進んでいなかった。対策自体も自然が相手で難しい。こうした課題が顕在化してしまった。
道路構造物の耐震対策は橋脚が中心だった。一方、橋台やアプローチ部といった橋梁と道路の境界の構造物は、橋脚ほど耐震対策の議論が進んでいなかった。橋脚や橋梁自体が耐震化されたため、アプローチ部の被害が目立つようになってきた。実際に能登の被災地でもこのような傾向が出ている。調査した範囲内だが、橋脚自体が破損したのは烏川大橋(石川県珠洲市)くらいで、橋梁躯体に大きな損傷がない橋が多い。しかしアプローチ部で段差が発生し、通行不能になってしまった。

□性能と機能をつなぐ□
地震動自体は阪神・淡路大震災に匹敵する強烈なもので、対策された構造物でも被害を受けるレベル。橋脚が損傷した橋梁も壊滅的な破壊を起こさず設計の想定通りだったと言えるが、道路網は土砂崩れ、路盤崩壊によって寸断された。
非常時でもインフラのサービスレベルをどう維持するかが問われている。キーワードは「つなぐ」。例えば道路構造物の場合、橋梁の耐震性などの「性能」と、交通といった「機能」をどうつなげていくかだ。構造物の対策だけが効果を発揮しても、ネットワーク全体が機能しなくては意味がない。道路構造、道路計画の二つの専門分野をどうつなげ、連携させていくかを考えていかなければいけない。
道路だけでなく、他のインフラともつなげていかなければ駄目だ。さまざまなインフラ間でどんなガバナンスを構築していくかが今後重要になる。

□分野乗り越え議論□
道路網全体を考えるには専門分野が接続し、境界をなくしていく努力が必要だと強く感じた。道路をネットワークとして改めて捉え直し、土工と橋梁などさまざまな分野を総合的につないでいかなくてはならない。耐震工学は各分野をつなげる横串になり得る分野だ。
現在の土木教育は専門性が深まり過ぎて土木工学を総合的、俯瞰(ふかん)的に見ることができる人材が少なくなっている。大学でも総合工学的な知識を学ぶ機会が減っている。今の時代だからこそ、総合的な知識や視野を持つ技術者を教育するシステムをつくることが大事だ。専門分野を乗り越えて議論できる人材を育てていかなくてはいけない。地震のような非常時は、そうした人材が自治体にいることが重要になる。

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