【震災13年 イノベ構想10年】点から面への展開急務(3月5日)

 東京電力福島第1原発事故で被災した浜通りの産業再生を目指す「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想」は今年、検討開始から10年の節目を迎えた。企業立地補助金の採択は400件を超える一方で、スタートアップ(新興企業)を中心に資金調達が困難となり、撤退する事例も出ている。関係機関が総力を挙げ、事業者間の面的なつながりと生産供給網を県内に構築するよう求めたい。

 双葉郡8町村の2020(令和2)年度の域内総生産(GDP)は3705億円で、原発事故が起きた2010(平成22)年度を23%下回っている。復興需要絡みを含む建設業を除くと、73%の大幅な落ち込みとなる。2020年の製造品出荷額は282億円で、10年間で73%低下した。国、県は「復興需要が一巡した後も、全国同様のGDP成長を目指す」としている。生業[なりわい]回復に向けては国家プロジェクトのイノベ構想に基づく生産活動をどう本格軌道に乗せるかが問われる。

 立地補助金の採択は昨年9月末現在、原発事故の避難区域が設定されるなどした浜・中通りの計15市町村で計424件に上り、4796人の雇用が生まれた。ロケットの重要部品、高性能半導体、植物ワクチンなどの開発・実用化を目指す事業が含まれており、新たな産業の芽が生まれつつある。しかし、操業を開始したものの、資金繰りに窮して事業を断念する例があるという。

 創業間もない事業所への支援では、それぞれの技術力を地域の企業に売り込み、連携の輪を築いた上で新製品の研究開発や販路拡大に結び付ける努力が不可欠と言える。福島イノベーション・コースト構想推進機構はこれまで、両者の顔合わせの機会を設け、専門家によるマッチング事業などを展開してきたが、新興企業の定着に向けては取り組みをより充実させる必要があるだろう。

 被災企業の再建を後押しする福島相双復興官民合同チームを全面的に取り込んではどうか。2015年度の設立以来、事業者への訪問は約6千件に達する。約1600件の事業再開につなげた実績とノウハウは、イノベ構想を全県に波及させる上で大きな力となる。(菅野龍太)

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