啓蟄と花粉症

 草野心平さんの詩「春のうた」には、こんな端書(はしが)きがある。〈かえるは冬のあいだは土の中にいて春になると地上に出てきます。そのはじめての日のうた〉。カエルの喜びを詩はつづる。〈ほっ まぶしいな/ほっ うれしいな/みずは つるつる/かぜは そよそよ〉…▲きょうは二十四節気の一つ「啓蟄(けいちつ)」で、虫が春の気配を察して穴から出てくる頃をいう。春の陽気には少し早いが、虫たちも喜ぶ時分だろう▲人もまた、季節の移ろいを思う頃になった。公立高校の卒業式があり、大学入試の合格発表の時期でもある。うれしい、悔しい、別れが寂しい。思いが交差する▲一方で、カエルや虫のように初春の到来を喜べず、浮かない気分の人も多い。筆者もその一人だが、風に舞う花粉に悩まされる時節が巡ってきた▲これまで何ともなかったのに、にわかに発症する人もいる。マスクを着ける人が減ったためといわれ、花粉の飛散量が多い樹齢20年以上のスギが増えたためともいわれる▲〈病にも色あらば黄や春の風邪〉虚子。春の風邪に色があるとしたら黄色だ、と。現代の花粉症もそれに似ていて、心なしか初春の空気はかすんで見える。国民の半数近くに症状があるというこの時代、〈ほっ うれしいな/かぜは そよそよ〉の季節はもう少し先らしい。(徹)

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