乳がんを経験したからこそ 「ロカボ生活」の私が届ける低糖質スイーツ 両親が営んだカニ加工店舗は今

「低糖質お菓子のお店 loving」を経営する田淵香苗さん=香美町香住区上計

 週に2日だけオープンする兵庫県香美町香住区上計の「低糖質お菓子のお店 loving(ラビング)」には、砂糖や小麦粉、人工甘味料を使わないケーキや焼き菓子が並ぶ。糖質を80~90%カットしながらも、甘くてしっとりしたスイーツには、女性店主の「体に優しく、健康によいお菓子を届けたい」「食べてキレイで健康に」という思いが込められている。(長谷部崇)

 女性店主は、田淵香苗さん(62)。44歳と52歳の時に2回の乳がんを経験した。手術や放射線治療、ホルモン療法などの闘病生活で薬の強い副作用や手術による神経痛に苦しみ、「最低限の家事や仕事をこなすのも大変で、精神的にも体力的にもつらかった」と振り返る。

 2度のがんをきっかけに糖質を控える「ロカボ生活」を始め、タンパク質や野菜、海藻などをしっかり取る食生活を心がけるようになった。

 糖質の取りすぎは生活習慣病を招く原因となる。昔から料理や菓子作りが得意だったという田淵さん。60歳を迎えると、「自分の経験を世の中に役立てたい」という思いが強くなり、低糖質のお菓子を通じて、健康への意識を高めてもらおうと「loving」をオープンした。開店後も奈良県にある低糖質の菓子教室に1年2カ月通って腕を磨き、研究を重ねた。

 商品は「低糖質抹茶ケーキ」(糖質2グラム、390円)や「低糖質ころころシフォンケーキ」(糖質1.8グラム、450円)、「ダイエットおからパン生クリームサンド」(糖質3.4グラム、430円)など20種類以上。砂糖の代わりに天然甘味料ラカントを使い、小麦粉の代替でアーモンドパウダーやおからパウダー、大豆粉を使う。

 原材料が高くなるのが悩みの種だが、半年ほど前から地元食材とのコラボにも力を入れる。「低糖質クルミと味噌(みそ)のケーキ」(糖質2.6グラム、400円)や、「低糖質アーモンドと味噌のビスコッティ」(1本当たり糖質0.5グラム、6本入り390円)は「森新屋商店」(香美町香住区若松)の「甘口米味噌」を使う。

 柴山湾に面する店は、両親の宮本始さん、たけのさんが8年前まで営んでいた水産加工業「マルタケ商店」の店舗跡を改修した。ズワイガニやベニズワイガニ(香住ガニ)などを扱い、カニへのこだわりで都市部からの注文も多い人気店だった。

 始さんは84歳まで仲買人としてハマ(競り場)に立ち、たけのさんも79歳まで現役だった。田淵さんも20代のころに3年ほど店を手伝ったことがある。

 始さんは昨年2月、たけのさんは2022年10月に亡くなったが、「両親が長年働いたこの場所で柴山湾の同じ景色を見ていると、生きていることや両親への感謝がこみ上げてくる」と田淵さん。「乳がんを経験していなかったら、私がこのお店をすることもなかったと思う。低糖質のお菓子でもこんなにおいしいんだということを知ってもらえれば」

 店は柴山保育所の隣。営業は、日曜と木曜の午前11時~午後5時(売り切れ次第終了)。インスタグラムは「20220415loving」で検索。TEL090.5882.9622

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