すとぷり運営企業が事業急拡大、一方終了するサービスや事務所も バーチャル業界で相次ぐ“慌ただしい動き”

■STPRグループや『のりプロ』は急拡大へ? バーチャル業界で慌ただしい動きが続く

2月27日、マーク・ザッカーバーグが岸田首相のもとを訪れ、AI関連の話題を中心に会談を行ったと話題になった。物事がすぐに動くような出来事ではないと思われるが、Metaが日本を重要な市場と見ていることは、AIはもちろん昨今の『Meta Quest 3』の売り出し方からも、なんとなくうかがえる。そんな電撃訪問に呼応したのかは定かではないが、業界の各所で慌ただしい動きが見られた。

特に、人気配信者グループ「すとぷり」を手掛けるSTPRグループが、Gugenkaをグループ傘下に置いたというニュースはなかなかのインパクトだ。現在開催中の『SANRIO Virtual Festival 2024』を筆頭に、数々のXRコンテンツを手掛けてきた企業が、STPRとスクラムを組むことでなにが起こるか。以前にはSTPRバーチャルオフィス制作で手を組んでいたものの、今後の展開は正直予想しがたい。

そして、本稿を執筆中にも、Vライバー/VTuber事業を手掛けるボンドをグループ傘下に置いたというアナウンスが飛び込んできた。STPRは今年1月に、M&AやCVC事業を強化すると発表したばかりであり、大きな拡大路線に突入している可能性がある。『すとぷり』も6人体制が復活する見込みということで、今年の展開はさらに大きくなるかもしれない。

佃煮のりお率いるVTuber事務所「のりプロ」にも、新たに4名のタレントが加入すると発表された。昨年4名のタレントが卒業しつつも、今年から新メンバーが参加し、今回の新規加入で以前の所属人数を超えてきている。そして今回は、書道家としてもこの業界で活動してきたぴろぱるが、「字(あざな) ぴろぱる」として参加しているのも興味深い。顔ぶれを大きく変えてきたのりプロだが、2024年はどのような方角へ進むだろうか。

一方、英語圏VTuber事務所「PRISM Project」は3月31日付けで終了することを発表した。2022年から現在に至るまで2年ほど、ソニー・ミュージックエンタテインメント傘下で運営をおこなってきたが、このたび活動が終了することとなった。所属タレントは現在の名義・アバターなど、“ペルソナ”を維持したまま個人活動を続けられるのが幸いだろう。

このほか、VRゲームの大ヒット作『Beat Saber』を生み出したBeat Gamesの共同創業者が退任するという話が上がったり、MetaとLGが共同で新型ヘッドセットの開発を行うことが報じられたり、VRライブプラットフォーム「VARK」がサービス終了したりと、様々な動きが見られた。そして年度末に向けて、もう一波乱ありそうな予感もある。

■人気VTuber監修の衣装やプラットフォーム 新規参入が続くバーチャルファッションの世界

先ほど話題に上げた「のりプロ」の看板ともいえる犬山たまきは、興味深いものを手掛けた。『VRChat』向けアバター用衣装だ。

『きんいろモザイク』をテーマにしたワールドや衣装を手がけた株式会社Vより発売された衣装『犬山たまき戦闘服』は、犬山たまきがデザイン監修を手掛けているアバター向け衣装だ。ポップなかわいらしさの中に、カッコよさも込めたテック系のウェアとなっており、複数のアバター向けにセットアップ済みである。

「バーチャルタレントがデザイン・監修をしたアバター向け衣装」は意外と事例が少なく、著名どころではVシンガー・somuniaとYOYOGI MORIのコラボウェアが挙がる。『VRChat』向けアバターへの着付けは多少の知識こそ要するが、VTuberをフックにした商品は新規ユーザーの流入につながり得るだろう。

アパレルECのドットエスティは、にわかに「ファッション特化型メタバースマーケットプレイス」の設立を宣言した。詳細こそまだ不明だが、長らくメタバースファッションに力を注いできた同社だけに、いよいよ本腰を入れてきた感がある。早速、バーチャルファッションのクリエイターに向けた説明会も展開しているが、クリエイターとの協働を強めてきた同社ならば、その誘致力はかなり期待できるだろう。

昨年、3Dモデルの取り扱いを開始した「SUZURI」にも、にわかにバーチャルファッションブランドのショップ開設が相次いでおり、新顔のドットエスティ、老舗のBOOTHやVket Storeなど、いよいよこの領域もプラットフォーム側の競争が激化する予感がある。現状では『VRChat』との提携を結んでいるBOOTHが一歩進んでいる印象はあるが、それも今後の展開次第だろう。

なぜこれほどまでバーチャルファッションに熱狂する人や企業がいるのか、それを知る手がかりとしては、先日コミティアにて頒布されたバーチャルカルチャー ガイドブック『Vuide』第1弾が参考になる。筆者も冒頭のコラム執筆で参加しており、やや手前味噌感はあるが、業界の最前線を張るクリエイターへのインタビューや、バーチャルファッションのスタイリングページなど、バーチャルファッション文化を知る上で重要な内容が込められている。ぜひ手にとってみてほしい。

(文=浅田カズラ)

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