ノラ・ジョーンズ、4年ぶり新作『ヴィジョンズ』を語る

©Joelle Grace Taylor

少し前のことだが、私は偉大なアーティストとそれ以外のアーティストを区別するものは何かを知りたいと思い、ブルース・スプリングスティーンが楽曲で語る物語の変遷を調べてみた。数十年にもわたるキャリアの中で、彼はジョーゼフ・キャンベルの本から出てきたような英雄の旅を続け、最終的には、誰かと話をし、人間的な触れ合いを持つというのは、人間が追い求められる最大の宝物だという知識を得たのだった。自分の経験を雄弁に語ることで、彼はリスナーが自分の人生を理解するのに役立つ音楽という名の足跡を残したのだ。それは崇高な行為であり、彼が不朽の存在である理由のひとつである。

<YouTube:Norah Jones - Flame Twin

私はノラ・ジョーンズについても同じように感じている。2020年のアルバム『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』で、彼女は涙や、喪失感、迷い、苦難、そして失意について歌っていた。私はスピーカーに手を伸ばして彼女を強く抱きしめてあげたいと思った。カール・ユングが大々的に唱えたミッドライフ・クライシスのいくつかを、彼女が経験しているのは明らかだったからだ。私たちは皆それを経験するが、それに対処する準備はできていない。
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ドン・ウォズ (以下DW):「『ヴィジョンズ』について私が特別だと思うことのひとつは、過去にあなたは自らの音楽的なアイデンティティを様々な側面から表現したアルバムを作ってきたことです。ジャジーなアルバム、カントリー調のアルバム、実験的な音楽…。しかし今回のアルバムでは、あなたはこれらすべての感性をシームレスに織り込んで、独自の音楽的なアイデンティティを持つ有機的な作品に仕上げていると感じます。それはアルバム制作中に意識していたことですか?」

ノラ・ジョーンズ (以下NJ):「いえ、それはこのアルバムをプロデュースしてくれたリオン・マイケルズとの関係がとても心地よかったからだと思う。私たちは気軽にいろいろなアイデアを出しあってみて、その制作作業がとても楽しかったからほとんどのアイデアが採用されたの。彼は私ほどカントリー好きではないから、カントリーっぽい断片がちょっと飛び出してきただけでも、私たち2人にとっては驚きだったわ。」

DW:「このアルバムのプロダクションは、これまであまり聴いたことがありません。聴き慣れた要素もありますが、こんな風にまとめあげたものを聴いたのは初めてだし、アルバムに収録されている楽器のほとんどが、あなたかリオンのどちらかが演奏したものだということも、このアルバムをユニークなものにしていると思います。二人がどのようにこれらの曲を作ったのか教えていただけますか?」

そしてノラの新しいアルバム『ヴィジョンズ』の曲を初めて聴いたとき、彼女が嵐を乗り越え、悟りの境地に達したことは明らかだった。彼女は目覚め、踊りたいという感情、自由になれたこと、正しい道を歩むこと、そして人生を受け入れることについて歌っている。彼女は、4年前に自分を飲み込んでいたトンネルの先に光を見つけ、同じような岐路に立たされている人々に導き、慰め、喜びを与えているのだ。

自分の内面にある感情を深く掘り下げ、それを世界と分かち合うことは難しくもあり、不快でもある。その感情を幾重にも重なる歌詞と音楽の質感で包み込むのは、さらに難しい。ノラ・ジョーンズの『ヴィジョンズ』は、その芸術的理想を気高さと気品をもって達成している。

<YouTube:Norah Jones - Can You Believe (Lyric Video)

NJ:「リオンと初めて一緒に作った曲は、シングル「キャン・ユー・ビリーヴ」かな。ほとんどの曲は私がピアノかギターで、彼がドラムを叩いて、ジャムって作ったの。私がアイデアを持ち込んで完成させた曲もあれば、スタジオの中でゼロから思いついた曲もある。でも、素晴らしいバンド(ドラムにブライアン・ブレイド、ベースにジェシー・マーフィー)とスタジオでレコーディングした3曲以外は、すべて私とリオンでレコーディングした。私とレオンの間にあるスタジオの空気感、それがガレージっぽいけどソウルフルなサウンドになっていて好きなの。彼がベースを弾いて、私がギターを弾いて、そうやって曲を作っていった。」

DW:「リオンは素晴らしいキャリアの持ち主で、サックス奏者であり、プロデューサーでもあります。彼はシャロン・ジョーンズ&ザ・ダップ・キングスの一員でもあり、リー・フィールズ、メナハン・ストリート・バンドと共演しています。自身のバンド、エル・ミシェルズ・アフェアーでも活動し、ソウル・リバイバルのムーブメントに大きく貢献しています。彼とはどうやって知り合ったんですか?」

<YouTube:Norah Jones - Can You Believe (Lyric Video)

NJ:「リオンと初めて一緒に作った曲は、シングル「キャン・ユー・ビリーヴ」かな。ほとんどの曲は私がピアノかギターで、彼がドラムを叩いて、ジャムって作ったの。私がアイデアを持ち込んで完成させた曲もあれば、スタジオの中でゼロから思いついた曲もある。でも、素晴らしいバンド(ドラムにブライアン・ブレイド、ベースにジェシー・マーフィー)とスタジオでレコーディングした3曲以外は、すべて私とリオンでレコーディングした。私とレオンの間にあるスタジオの空気感、それがガレージっぽいけどソウルフルなサウンドになっていて好きなの。彼がベースを弾いて、私がギターを弾いて、そうやって曲を作っていった。」

DW:「リオンは素晴らしいキャリアの持ち主で、サックス奏者であり、プロデューサーでもあります。彼はシャロン・ジョーンズ&ザ・ダップ・キングスの一員でもあり、リー・フィールズ、メナハン・ストリート・バンドと共演しています。自身のバンド、エル・ミシェルズ・アフェアーでも活動し、ソウル・リバイバルのムーブメントに大きく貢献しています。彼とはどうやって知り合ったんですか?」

<YouTube:El Michels Affair - Iron Man (Official Music Video)

NJ:「リオンは私のアルバムで何回かホーン・セクションをプレイしてくれたことがあって、パンデミックの直前には私に何かで歌ってほしいと言ってくれてたんだけど、結局実現しなかった。その後私は何曲かシングルを出していて、一緒に演奏しないかと彼を誘ったの。それが2021年の初めのことで、スタジオに入って彼がドラムを、私がピアノを演奏したわ。コロナの影響でずいぶん時間が経っていたので、自分ではない人と演奏できるということが嬉しくて2人ともハイになっていた。「キャン・ユー・ビリーヴ」はその日にできた曲で、ほとんど全てのパートがその日に出来上がったの。その後、私はちょっとギアを入れ替えて、彼に私のクリスマス・アルバムを制作してくれるよう依頼した。そのアルバムを制作して、お互いのことをよく知るようになったという感じね。」

<YouTube:Norah Jones - Christmas Calling (Jolly Jones)

DW:「あなたのアルバム『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』を初めて聴いたとき、私はスピーカーに手を伸ばしてあなたを抱きしめたくなるような、本当に強い感情を抱きました。カール・ユングが唱えたミッドライフ・クライシスのいくつかを、あなたが経験しているのではと気づいたからです。そしてこの新しいアルバム『ヴィジョンズ』を聴いて、あなたがそのトンネルの先に光を見つけたことも感じました。楽曲の中で自らの奥底の感情をさらけ出すのはとても勇気がいることですし、同じことを経験している人たちがあなたの歌を聴いて、それを乗り越える方法を見つけることができるという意味で素晴らしいことだとも思います。アーティストにとって、これほど意義深いことは無いでしょう。繰り返しになりますが、アルバムを制作している時にこれらのことは意識していましたか?」

<YouTube:Norah Jones - I'm Alive

NJ:「いや、でもその考え方は良いと思う!本当にその通りだと思うんだけど、私はまったく気づいていなかった。私は自分の深い感情を隠すのが得意だと思っていたから!歌詞って必ずしもその通りの意味にはなり得ないから、普段はあまり変に変えたりしないようにしてるんだけど、でも感情って文字通りのものにもなり得るかもしれないって思ったし、あなたがそう感じ取ってくれたのであれば嬉しい。曲や歌詞を書いたりするときは、いつも自分ではそれが何なのか終わってみないとわからないの。だから、あなたの解釈を聞いて振り返ってみると、まったくその通りだと思うわ。」

DW:「偉大なアーティストとは、自らの内面に手を伸ばし、心の奥底にある感情を掬い取って形にして、リスナーがそれを感じて自身に投影できるような作品を作れる人だと思います。私も確かに似たような経験をしましたし、30年前にあなたのアルバムがあればそれを乗り越えることができたのにと思います!さて、音楽の話をしましょう。「ランニング」について教えてください。」

<YouTube:Norah Jones - Running

NJ:「このアルバムを『ヴィジョンズ』と名付けたのは、多くのアイデアが夜中や寝る前の瞬間に浮かんだからなの。この曲もそのひとつで、半分眠っているような状態で目が覚めたんだ。メロディと歌詞が頭の中を流れていたから、それをボイスメモに録音したの。それからリオンと一緒に曲を作ったときは、私がピアノ、彼がドラムだった。曲を仕上げるのには時間がかかったけど、最終的にはなんとか完成したわ。」

DW:「「ステアリング・アット・ザ・ウォール」についてはどうでしょう。」

<YouTube:Norah Jones - Staring at the Wall

NJ:「これはアルバムの中でもお気に入りのひとつで、アルバムの他の曲とは方向性が違う曲なの。リオンと一緒にギターを弾くのはこれが初めてで、ただ何か違うものを作り出そうとしていたところだった。 私がギターを弾いて、彼がドラムを叩いて、それでこの曲が出来上がったの。 曲をプレイするのが本当に楽しい瞬間ってあるけど、このアルバムにはそういう時間がたくさんあったような気がする。 彼は本当にクールなギターのサウンドを作ってくれたので、とても気持ちよかったわ。」

DW:「「アイ・ジャスト・ワナ・ダンス」についても聞かせてもらえますか。」

NJ:「この曲のアイデアはあったんだけど、これもまた思いつきのアイデアのひとつで、どう仕上げれば良いか長い間考えていたの。この曲にはホーマー・スタインワイスというドラマーに参加してもらってるんだけど、彼はダップ・キングスのメンバーでもあり、エイミー・ワインハウスとも一緒にプレイしていて、リオンとの繋がりが強かった。ある日3人でこの曲を軽くプレイしていて、私はウーリッツァーを弾いていた。この曲は”I don’t want to talk about it, I just wanna dance”という歌詞をを何度も何度も繰り返すの。プレイした後、リオンが「歌詞を少し変えてみよう」って言ったんだけど、私は「いや、このままの歌詞が良い!」って感じだった。それがこの曲を表す全てだから。この曲の面白いところは、ヴァースがないことだと思うから、グルーヴとヴォーカルが曲を支えてくれることを願っているわ!」

■リリース情報

ノラ・ジョーンズ AL『ヴィジョンズ』
2024年3月8日(金)発売
通常盤:UCCQ-1197 SHM-CD ¥2,860 (税込)
限定盤:UCCQ-9666 SHM-CD+DVD ¥3,630 (税込)
SACD:UCGQ-9057 シングルレイヤーSACD~SHM仕様 ¥3,960 (税込)
CD購入&デジタル配信はこちら→https://Norah-Jones.lnk.to/Visions

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