倒産企業の約7割が最終赤字、債務超過 人件費上昇に追いつかない実態が鮮明に

~ 2023年「倒産企業の財務データ分析」調査 ~

2023年に全国で倒産した企業のうち、約7割(構成比68.0%)の企業が直近決算の純利益が赤字だったことがわかった。また、倒産直前では債務超過の企業が約7割(同69.2%)に達し、 2年間で33.1%増加(前々期305社→最新期406社)した。
売上高の減収企業は、倒産企業が最新期で61.4%に対し、生存企業は44.3%で、17.1ポイントの差が開いた。業績回復の遅れが収益悪化の大きな要因だったことを示している。
コロナ禍で生じた“過剰債務”の解消が急がれるが、有利子負債構成比率(借入金・社債等÷総資本)は、倒産企業は前々期45.0%から最新期58.9%へ大幅に膨らんだ。ゼロゼロ融資などの資金繰り支援策で金融債務が増加した一方で、業績回復の遅れが足かせになっている。
2023年は新型コロナの5類移行に伴い、飲食業や観光業を中心に客足の増加やインバウンド消費が復活した。しかし、円安やロシアのウクライナ侵攻で原材料や資材価格が高騰し、人手不足と人件費高騰も加わり、コスト上昇が顕著になっている。このため価格転嫁が急務だが、中小企業は交渉力が弱く、コロナ禍で疲弊した経営を直撃した。
今回の調査では、倒産企業の大部分は業績回復が遅れ、赤字体質から抜け出せずに事業継続を断念した構図が浮かび上がる。過剰債務を解消するめどが立たない中小・零細企業は、金融機関からの新たな資金調達が難しい。2024年4月に民間金融機関のゼロゼロ融資の返済がピークを迎えるが、財務基盤の脆弱さは営業力の弱さと表裏一体だけに、今後の展開が注目される。
※ 本調査は、2023年の倒産企業(負債1,000万円以上)を対象に、東京商工リサーチが3期連続で財務データを保有する586社(個人企業を含む)と、生存企業38万4,900社の財務データを比較、分析した。

倒産企業の約7割が赤字決算

2023年の倒産企業(586社)の赤字企業率は、直近決算(最新期)で68.0%(前期61.2%)に広がった。前々期からは20.8ポイント悪化した。
一方、生存企業(38万4,900社)の最新期の赤字率は25.5%で、前期25.2%、前々期25.0%とほぼ横ばいで推移している。
倒産企業と生存企業の差は、前々期の22.2ポイントから最新期は42.5ポイントまで拡大しており、収益力は二極化がさらに進んだ。

倒産企業は約7割が債務超過

自己資本比率(純資産÷総資産)が0%を切る『債務超過』比率は、倒産企業が前々期52.0%→前期61.9%→最新期69.2%と右肩上がりの推移をたどった。
赤字企業率の増加に比例し、債務超過に陥る企業も増加し、倒産直前の決算では約7割が債務超過だった。
一方、生存企業は前々期15.5%→前期15.9%→最新期16.2%と、ほぼ横ばいで推移した。利益確保による財務内容の安定が、生き残りの明暗を分けたといえる。

生存企業 自己資本比率30%以上が約6割

最新期の自己資本比率は、生存企業では約6割(構成比58.5%)が自己資本比率30%以上に分布し、大半の企業が財務内容の安定を維持していることがわかる。
一方で、倒産企業でも4.4%が自己資本比率30%以上だった。一見、相応の自己資本を有していたとしても、急激な資金需要に応じられず、短期的に資金がショートする“黒字倒産”などに陥るケースがあるためで、自己資本比率だけで倒産危険度を測るのは早計といえる。

倒産企業の借入金依存度は高止まり

有利子負債構成比率【(長・短期借入金、社債など)÷総資本】は、借入金への依存度を示す。倒産企業は前々期45.0%→前期56.3%→最新期58.9%と、増加推移をたどる。特に、コロナ禍の前々期から前期への増加が顕著で、ゼロゼロ融資などのコロナ対応資金繰り支援の副作用とみられる。
一方、生存企業は前々期29.9%→前期29.8%→最新期30.3%と、30%前後で推移した。
過剰債務を解消できず資金調達余力を欠き、経営破たんを余儀なくされた様子がうかがえる。

倒産企業は6割以上が業績回復に至らず

売上高が前期比で減少した減収企業率では、最新期は生存企業が44.3%だった。一方、倒産企業は61.4%で、17.1ポイントの差があった。
最新期は、倒産企業も前期の64.8%から3.4ポイント低下し、業績回復の兆しはあったが、依然として6割以上が業績不振から脱することができなかった。収益改善に直結する売上回復が進まず、行き詰まった企業の多さを示している。

倒産企業はコロナ禍からの業績回復に遅れ

倒産企業の売上高増減比は、前々期→前期が▲7.3%の減収、前期→最新期が2.4%の増収だった。
一方、生存企業は、前々期→前期が3.3%の増収、前期→最新期が7.7%の増収だった。
生存企業は、コロナ禍が落ち着いた前期から業績回復に向かい、最新期はさらに拡大した。
だが、倒産企業は業績回復が遅れ、最新期での回復も限定的だった。

倒産企業は実質3期連続の営業赤字

営業利益率(営業利益合計÷売上高合計)は、倒産企業が前々期18.5%→前期▲1.3%→最新期▲2.4%と急減した。これは2023年4月に民事再生法を申請したユニゾホールディングス(株)が、前々期に不動産売却を進め、営業利益1,126億2,900万円を計上したことを含んでいるため。同社を除いた前々期の営業利益率は▲0.08%だった。実質的には、倒産企業は3期連続で営業赤字だったといえる。
一方、生存企業は前々期4.4%→前期5.3%→最新期5.3%と、対照的に収益力を維持した堅調な推移をみせた。

コロナ禍前より人件費負担が上昇

売上高人件費比率【(給料手当+役員報酬)÷売上高】について、今回の調査と2019年調査を比較した。2019年調査の倒産企業は、前々期14.6%→前期14.1%→最新期14.5%とほぼ横ばい推移だった。ところが、今回の調査では前々期15.8%→前期16.2%→最新期18.0%と上昇した。3期平均は2019年調査が14.4%なのに対して、今回の調査では16.6%で、2.2ポイントの差をつけた。
一方、生存企業も2019年調査では前々期14.9%→前期15.0%→最新期15.4%とほぼ横ばいで推移、倒産企業とほぼ同水準だった。対して今回の調査では、前々期27.6%→前期28.3%→最新期27.1%と高い水準で推移した。3期平均は2019年調査の15.1%に対し、今回の調査では27.6%で、12.5ポイントの差を広げた。倒産企業と比較しても、今回の調査では11ポイントの差をつけている。
今回の調査では、アフターコロナに向けて経済活動が再開すると同時に人手不足に見舞われ、人材確保のために賃金上昇を受け入れざるを得ない様子がみられ、特に生存企業では如実に現れた。また、倒産企業の売上高人件費比率が生存企業よりも小幅の上昇にとどまったのは、業績回復の遅れから収益改善が進まず、賃金上昇に応じる余裕がなかったためとみられる。

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