ALS嘱託殺人、医師の大久保愉一被告の判決は主文後回しに

京都地裁

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患う女性から依頼され、薬物を投与して殺害したとして、嘱託殺人などの罪に問われた医師大久保愉一(よしかず)被告(45)の裁判員裁判の判決公判が5日午後、京都地裁で始まった。川上宏裁判長は主文の言い渡しを後回しにし、判決理由の読み上げから始めた。

 起訴状などによると、知人で元医師山本直樹被告(46)=医師免許取り消し=と共謀して2019年11月30日、ALSを患っていた京都市中京区の林優里(ゆり)さん=当時(51)=の自宅マンションで、林さんから頼まれ、胃にチューブで栄養を送る「胃ろう」から薬物を投与し、急性薬物中毒で死亡させた。大久保被告は事件で主導的な立場だったとされる。

 これまでの公判で、大久保被告は林さんの殺害を認めた上で、「願いをかなえるために行った」と説明。弁護側は、林さんの依頼に応じた被告の行為に嘱託殺人罪を適用することは、自己決定権を保障した憲法13条に違反するとして、無罪を主張していた。

 検察側は、医療に見せかけて殺害することに関心を持ち、「死にたいと願う難病患者は積極的に殺害する対象」という思想を実践したと指摘。林さんの死期は迫っておらず、事件前に130万円を送金させていたことなどから、「正当行為には当たらず、刑事責任を問える」と強調した。

 一方、大久保被告は山本被告らと共謀し、山本被告の父親=当時(77)=を殺害したとする殺人罪や、別の難病患者の診断書を偽造したとする有印公文書偽造罪にも問われていた。

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