【特集:LEXUSの挑戦と熟成、そして革新①】次世代レクサス「LBX」は思い描いたとおりシームレスに動く・・・動的質感が物語る格上の誇り

2023年、立て続けに発表されたレクサスのニューモデルたちを、海外で試乗。「ヒエラルキー」を打ち破る小さなクロスオーバーLBXの大きな一歩は、果たして実感できたのだろうか。

エミッション、コストなど「強み」を生かして開発

レクサス・ブレークスルー・クロスオーバーの頭文字由来でLBX。既存の車格的なヒエラルキーを打破するクロスオーバー・・・という意のとおり、全長は4190mmと同ブランドがこれまで販売してきた全モデルと比べてもダントツで小さい。

ブランドのアイデンティティでもあるスピンドルグリルを刷新し、ユニファイドスピンドルへと進化した。外向きL字型のデイタイムランニングライトが点灯すれば、レゾリュートルック(=毅然とした表情)が強調される。

名前の力みからすれば、カテゴライズされるのさえ不本意かもしれないが、近しい寸法を持つクルマはBセグメントのTクロスあたりになる。が、全幅は1825mmと完全にCセグメント級だ。

開発陣の中で「鏡餅」と称されるその存在感はなるほど特異で、見る角度によってはポルシェ911ターボのような印象を伝えてくる。

お馴染みのドイツ御三家で唯一直接的ライバルと考えられるのはアウディQ2だ。が、欧州ではA1共々ディスコンになるのではという報もある。

あくまで噂の範疇だが、同様にメルセデス・ベンツやBMWもFFモデル群の縮小が囁かれるなど、プレミアム系ブランドにおいて、コンパクトカーの立ち位置が微妙になりつつあることは間違いなさそうだ。

理由は収益性の成立し難しさにある。排出ガス規制対応のためにディーゼルを用いることが難しくなる一方で、十分なCO2削減が期待できるガソリンのパワートレーンが手元にない。だからといってPHEV化では価格も高くパッケージも厳しく・・・と、コンパクトカー的な領域では商品が成立しづらくなっている。

その点、レクサスはコーポレートで1.5LからHEVのパワートレーンを有している。CO2的にもエミッション的にもコスト的にも戦闘力があるユニットを、コンパクトカーに搭載することが可能なわけだ。

エンジンもプラットフォームも同型式だが中身は別物

LBXはその1.5L 直列3気筒のHEVを搭載する。組み合わせられるバッテリーはバイポーラ型ニッケル水素電池とあらば、成り立ちとしてはアクアのそれに近い。

水平基調のシンプルで操作性の良いコックピットは、素材感や各部の質感も高い。「

しかしエンジン型式こそ同じM15A−FXEながら、中身は一次バランサーを搭載したほか、トランスアクスルユニットは駆動モーターとギアトレーンが一体化した最新世代のものが採用されている。このため、システム総合出力もヤリスハイブリッドやアクアよりも20ps大きい136psを発揮する。

同様に、LBXの車台はベースこそBセグメント用のGA-Bながら、中身はまったくの別物だ。Aピラー根元のインパネレインフォースからフロントカウル部の設計を変更したほか、フロントレインフォースメントやBピラーにはホットスタンプ材を採用、リア開口部の環状構造化や開口部のスポット短ピッチ化、構造接着剤を使い分け剛性と共に適切な減衰特性をチューニングするなど、強化策は枚挙にいとまがない。

フロントサスペンションは専用ジオメトリーでストラットアッパーマウントを3点支持化、ナックルにはアルミ鍛造材を用いるなど、軽量・高剛性化が推し進められている。

決して広くはない後席。くら型のヘッドレストを採用するなど後方視界にも配慮する。後席は6:4の分割可倒式で、シートバックの格納と引き起こしが可能。用途に応じて荷室の拡大ができる。

日本仕様のLBXはこの構成で3グレードを展開する。試乗したのは世界観をもっとも端的に表しているという「クール」。対して「リラックス」はシート表皮全面にセミアニリンレザーを配するなどラグジュアリー色が強い仕立てだ。そして表皮素材やステッチパターン、シートベルト色、内外装の加飾要素などを選べる「ビスポークビルド」が用意されている。

内装の仕立てはさすがにレクサスといったところで、直に触れる部分にはあらかたトリムが巻かれている。意匠的にはオーソドックスだが、物理的なスイッチ類があるべきところにあるという安心感は積極的に評価したい。

後席は広々とはいかないが、標準的な体型の男女4人ならきちんと座れるだけの空間は有している。加えて荷室容量も332Lと車格を鑑みれば及第点を与えられるだろう。

排気量を感じさせない質感。あらゆる水準が高いLBX

走り始めてまず気づくのは静粛性の高さだ。電動走行比率の高さを配慮してか、ロードノイズや風切り音の類もしっかり配慮されている。マウント類も専用チューニングされていることもあって、エンジンの稼働時にも振動由来のビビリ音などは感じられない。

横一文字のテールランプはボディサイドまで回り込んでいるので、実際のボディサイズ以上にワイド感が強調されている印象。

全開加速などではさすがに3気筒独特の音は耳に入るが、普通に走っているぶんにはエンジンの存在を強く感じることはない。

0→100km/h加速が9.2秒と、スペック上も必要十分な動力性能は、実際の運転でも常速域でのゆとりとして感じられる。緩やかな加速に対してはエンジンの稼働を抑えてモーターで積極的にぐんぐん押していくこともあって、ドライバビリティには排気量を感じさせない質感がある。

アクセルペダル操作のオンオフに対するトルクのツキの良さは、大電力の出し入れに強いバイポーラの特性にも助けられているのだろう。

ハンドリングは舵のギアレシオなどではなく、ホイールベース/トレッド比からなる素直なクイックさが印象的だ。中高速域での高い直進安定性と巧く調律が取れており、操舵に対してゲインが先走って強く立ち上がるようなことはない。

同様に制動のリニアリティもしっかり磨き上げられており、走る曲がる停まるを綺麗に繋げることができる。思い描いたとおりにシームレスに動く、その水準の高さがすなわちLBXの動的質感の高さといえるだろう。(文:渡辺敏史/写真:レクサスインターナショナル)

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