ロッテラー約9年ぶりの頂点/「胸が張り裂けそう」/予選での嫌疑はシロ etc.【WECカタール決勝後Topics】

 ハイパーカークラスに9社、この2024年シーズンに新設されたLMGT3クラスにも9つのブランドが参加し、計14社がコミットする“黄金時代”が到来したWEC世界耐久選手権。そのシーズンオープニングイベントが3月2日、中東カタールのルサイル・インターナショナル・サーキットで行われ、既報のとおり3台のポルシェ963がWEC初優勝をワン・ツー・スリー・フィニッシュで飾った。そんな今季開幕戦カタールの決勝後トピックをお届けする。

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■トップカテゴリーでの表彰台独占は2012年以来、12年ぶり

 ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツは、先週土曜日に行われた『カタール1812km』の決勝レースにおいて、ケビン・エストーレ/アンドレ・ロッテラー/ローレンス・ファントール組が駆る6号車ポルシェ963の圧倒的な走りで頂点に立ち、歴史的なWEC世界耐久選手権初優勝を祝った。

 これはポルシェにとってWECのレースで18回目となるトップカテゴリーでの勝利であり、ティモ・ベルンハルト/ブレンドン・ハートレー/アール・バンバーのトリオが『ポルシェ919ハイブリッド』をドライブして優勝した2017年のサーキット・オブ・ジ・アメリカズ以来、初めての総合優勝となった。

 優勝ドライバーのひとりであるロッテラーは、アウディチームの一員として出場した2015年のスパ・フランコルシャン6時間レースで勝って以来、約9年(3227日)ぶりに勝利を手にした。一方、ファントールはWECのトップカテゴリーで優勝した最初のベルギー人ドライバーとなっている。

 既報のとおり、今戦ではポルシェ勢がワン・ツー・スリー・フィニッシュを達成した。ウィル・スティーブンスとカラム・イロット、ノルマン・ナトが乗り込んだハーツ・チーム・JOTAの12号車ポルシェ963が2位、ミカエル・クリステンセンとフレデリック・マコウィッキに今戦のポールシッターであるマット・キャンベルを加えた3人がシェアした5号車ポルシェ963が3位に入っている。WECのトップカテゴリーにおける表彰台独占というリザルトは、ポルシェでは初。前回は2012年のスパでアウディが達成した。

 スティーブンスは、JOTAの12号車がレース中盤のダブルスティントを除き、タイヤを3スティント保たせてでレースを走り抜けたと説明した。「ここはタイヤにとって少し奇妙なトラックだ。ほとんどの人が最初のスティントで苦戦する傾向があり、2スティント目ではそれほどでもなかった。通常なら反対だ。ニュータイヤでプッシュし過ぎると、グレイニングが発生する可能性があり、それが僕たちを3スティントに駆り立てた理由だ」

「だから僕たちはピットストップごとにドライバーを交代していたんだ」とスティーブンスは付け加えた。「このコースでトリプルスティントをこなすのはかなりタフだし、僕はこのタイヤでの経験が豊富だったから、最初のスティントはいつも僕がドライブしていた。我々はかなり早い段階からその戦略にコミットしていたので、僕たちがやったことはすべて、その戦略をうまく機能させるためのものだった。しかし、ペンスキーはダブルスティントで超速かった。だから、それが僕たちにとって良かったかどうかはわからない」

 JOTAのペースがペンスキーポルシェに及ばなかったことについて、チームの共同オーナーのサム・ヒグネットはこう付け加えた。「彼らはタイヤのウォームアップに他の誰も持っていない何かを持っている。馬鹿げている(ほど速かった。アウトラップはレース全体で)数十秒の価値があるので、我々もそのためにやるべきことがある」

 JOTAの38号車は、ハイブリッド関連の電気系トラブルにより残り1時間を切ったタイミングでリタイアとなった。オリバー・ラスムッセンは、ピットレーン走行中にハイブリッドのセーフティランプが一時“赤”になったため、高電圧セーフティ・プロトコルに従ってマシンから飛び降りることを余儀なくされた。

総合2位となったハーツ・チーム・JOTAの12号車ポルシェ963 2024年WEC第1戦カタール1812km

■最初からカメ作戦だったキャデラック

 6号車をドライブしたエストーレは、レース終盤に3度にわたってLMGT3カーと接触してポルシェを破損させ、左側のナンバープレートを交換するためにレース終盤にピットストップを余儀なくされた。彼はレース中のトラフィックに「つねに苦労していた」と認めた。

 フランス人ドライバーは次のように語っている。「多くのGT3勢がこのトラフィックに慣れていないのは明らかだ。このコースでのギャップはかなり大きかった。おそらく他のコースよりも大きいだろう。誰かを責めるつもりはないけれど、トラフィックの中でとても難しいことがあったのは確かだ。次回はもっとクリーンなドライブになることを願っているよ。なぜなら、このレースほど多くの接触を1シーズンで経験したことはなかったからね」

 ポルシェ・ペンスキーの2台を含め、ハイパーカー勢の大半はレースを通してミシュランのハードコンパウンドを使い続けた。チームのマネージング・ディレクターであるジョナサン・ディウグイドによると、少なくともキャデラックとプジョーがミディアムを試したが、ポルシェのファクトリーチームが夜の涼しい時間帯にタイヤを切り替える判断をするには充分ではなかったという。

 ディウグイドは、レースの大半を2位で走行した後、残り2周を切ったところで燃料切れを起こした93号車プジョー9X8の力強い走りに敬意を表した。「プジョーは我々は正直にさせてくれた。彼らの最後を見て胸が張り裂けそうだった」と彼はSportscar365に語った。「彼らは本当に一日中スムーズなレースを展開していたのに、最終ラップ目前でトラブルが発生して表彰台を逃すなんて……私も、そして誰もそんなことは望んでいなかった」

スローダウンしてチェッカーを受けた後、フィニッシュライン先にストップした93号車プジョー9X8

 そのプジョーはEVパワーでフィニッシュまで辿り着き7番手でチェッカーを受けたが、“ERSの展開速度がBoP(バランス・オブ・パフォーマンス=性能調整)の定める数値を下回った状態であったにもかかわらずピットレーンに戻らなかったこと”と、レース後にジャン-エリック・ベルニュが“パルクフェルメにマシンを持ち込まなかったこと”を理由に失格となった

 キャデラックは、ライバルチームたちよりも1回少ない計9回のピットストップで4位まで挽回したが、これはチップ・ガナッシ・レーシングが最初から計画していたことだったとセバスチャン・ブルデーは述べた。「僕たちは計画を忠実に守った。すぐに他の人たちの戦略から離れていくのがわかった。そして、それを貫くことができれば、本当に良い結果が得られるだろうと話していたが、まさにそのとおりになったね」

チップ・ガナッシ・レーシングが運営するキャデラック・レーシングの2号車キャデラックVシリーズ.R 2024年WEC第1戦カタール1812km
2024年WEC第1戦カタール1812kmで使用されたミシュランのハードタイヤ

■クビアト、ランボルギーニSC63のデビュー戦を語る

 TOYOTA GAZOO Racingが表彰台を逃したのは2018年のシルバーストン以来、6年ぶり。当時、日本メーカーがポディウムに上がれなかったのは、車高に関する車両規定違反によって2台に失格処分が下ったためだ。

 8号車をドライブする平川亮は、カタールでチームを悩ませたグレイニングの問題はレースに向けて解決されたが、GR010ハイブリッドには究極のペースが欠けていたと語った。「11月のテストから自分たちが速くないことが分かっていましたが、結果は予想以上に悪かったですね。ライバルたちに大きく後れを取ってしまっているので、かなりがっかりしています。でも、これがWECの新時代なんだと思います」

 新たにフェラーリのファクトリードライバーとなったイーフェイ・イェは、ロバート・クビサ、ロバート・シュワルツマンとともに“黄色いフェラーリ”こと83号車フェラーリ499Pで総合5位入賞を果たした。彼はこの結果に満足しており「僕たちドライバー陣にとっても、チームの皆にとっても初めてのレースだったなか、ミスやトラブルなく10時間を走り抜けられたことは素晴らしい成果だ。我々の持てる力を最大限に発揮できたと思う」と語った。

 新車ランボルギーニSC63をドライブしたダニール・クビアトは、63号車のデビュー戦でトップから5周遅れでチェッカーフラッグを受けたことについて、イタリアのメーカーがSC63の素のスピードに集中できるようになったと感じている。「ここに来る前に何度も周回を重ねたことで、パフォーマンスが最優先事項ではないことはわかっていた」と元F1ドライバーは語った。「予選は僕たちにとって初めての予選シミュレーションだったし、レースは初めてのレースシミュレーションだった。それを考えると信頼性という点では大きな問題もなく、その基盤に満足できそうだ」

ミルコ・ボルトロッティ/エドアルド・モルタラ/ダニール・クビアト組63号車ランボルギーニSC63(ランボルギーニ・アイアン・リンクス) 2024年WEC第1戦カタール1812km

■リタイアのイソッタ・フラスキーニ「さらなる調査が必要」

 ハイパーカークラスでは、イソッタ・フラスキーニがサスペンションのトラブルで唯一完走を逃した。同ブランドのモータースポーツ・マネージャーであるクラウディオ・ベッロは次のようにコメントした。「問題は(ガレージ内で)修復可能だったが、さらなる調査が必要であり、リスクを冒す価値はなかった。今日我々のクルマを止めた問題を調査し、予選でのパフォーマンスを向上させ、レースではランキングトップに近づかなければならない」

 ハーツ・チーム・JOTAは、プライベート・ハイパーカーチームを対象としたFIAワールドカップにおいて、12号車ポルシェのエントリーが83号車フェラーリに11ポイント差をつけて首位に立っている。JOTAの両方ポルシェ963とAFコルセが運営する3台のフェラーリ499Pは、給油手順に違反があった可能性があるとして調査を受けていたが、いずれも予選での不正行為は認められなかった。

 WECのエントリーリストには国籍がセントクリストファー・ネイビス(カリブ海の島国)と記載されているにもかかわらず、マンタイ・ピュアレクシングのアレックス・マリキンはチームのLMGT3優勝後に、レーシングスーツにユニオンジャックが描かれているように、実際はイギリスのライセンスでレースをしていることを明かした。

 今大会のグッドイヤー・ウイングフット・アワードは、ビスタAFコルセのダビデ・リゴンに贈られた。この賞は、全車がグッドイヤータイヤを履くLMGT3クラスでダブルスティントを通じてもっとも安定した成績を収めたドライバーに贈られるものだ。

 プロトン・コンペティションの77号車フォード・マスタングGT3は電気系統の問題で予選に出走できず、18台がエントリーするLMGT3クラスの最後尾からの決勝レースをスタートすることとなったが、最終的にはクラス11位でフィニッシュした。ライアン・ハードウィックは、フォード・パフォーマンスが交換部品を空輸しなければならなかったことを明かした。

 LMGT3は2台がフィニッシュできなかった。ポールポジションを獲得したTFスポーツの81号車シボレー・コルベットZ06 GT3.Rは、スプリング交換の際に電気ハーネスの損傷が見つかり、リタイアとなった。アコーディスASPチームの78号車レクサスRC F GT3は、エンジントラブルの疑いにより戦列を離れている。

 12月18日のカタール建国記念日にちなんだ1812kmのレースは、最大時間の10時間を迎える4分前に335周の設定周回数に達した。予想以上にペースが速かったのは、フルコース・イエローが2回しか出なかったことと、セーフティカーが出なかったためと考えられる。

マンタイ・ピュアレクシングの92号車ポルシェ911 GT3 Rを駆り、LMGT3クラス最初のウイナーとなったアレックス・マリキン(左から3人目)
11号車イソッタ・フラスキーニ・ティーポ6-Cと51号車フェラーリ499P

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