『ユーミンストーリーズ』『おっさんずラブ』『鎌倉殿』 金子大地の芝居は“余韻”を残す

世代を超えて愛される“ユーミン”こと、松任谷由実の楽曲から着想を得た短編小説がドラマ化。夜ドラ『ユーミンストーリーズ』(NHK総合)の放送がスタートした。第1週(3月4日~3月7日)に放送されるのは、夏帆が主演を務める「青春のリグレット」だ。

ユーミンの歌詞は具体的でどこか短編小説のようだが、そこから浮かび上がってくる感情には普遍性があり、誰もが他人事ではいられなくなる。「青春のリグレット」なんて、まさにそう。〈私を許さないで 憎んでも覚えてて〉という鮮烈な歌詞は、多くの人が遠い記憶の彼方においてきた胸の痛みを迎えにいく。

そんな同曲にインスパイアされた本作は、主人公・菓子(夏帆)の青春時代の記憶がリグレット=後悔となって呼び起こされる、ほろ苦い恋の物語。キーパーソンとなる菓子の元彼・陸を金子大地が演じる。

金子といえば、『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)シリーズには欠かせない存在だ。演じていたのは主人公の春田(田中圭)が勤める「天空不動産」の社員“マロ”こと、栗林歌麻呂。2018年に放送されたドラマ第1シーズン、通称“初代おっさんずラブ”では、良くも悪くもイマドキの若者だったマロが蝶子(大塚寧々)という愛する年上の女性と出会い、成長していく過程を見せてくれた。

その続編となる『おっさんずラブ -リターンズ-』は先日最終回を迎えたばかり。蝶子と結婚し、さらに頼もしくなったマロの姿に驚いた人も多いことだろう。特に春田との結婚式前日にもかかわらず、夜遅くまで仕事をする牧(林遣都)に「この仕事は他に代わりがききますけど、春田さんには牧さんしかいないでしょ!」と喝を入れる場面には思わず泣かされてしまった。だが、お調子者なマロらしさは残した台詞回しで、その成長には決して唐突さがない。大事な場面だけど、シリアスになりすぎないギリギリのラインを攻める金子の巧みな演技がこの作品を下支えしている。

営業所から本社に異動し、出世を果たしているマロと同様に、この5年に金子自身も俳優として着実にステップアップしてきた。『腐女子、うっかりゲイに告る。』(NHK総合)ではドラマ初出演を務め、一回り以上年上の恋人がいるゲイの高校生・純役に挑戦。周囲に同性愛者であることをひた隠しにして生きてきた純の苦悩や葛藤を映し出すその感受性豊かな演技は高く評価され、第16回コンフィデンスアワード・ドラマ賞で新人賞を受賞した。

2021年には『バイプレイヤーズ ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~』『猿楽町で会いましょう』『サマーフィルムにのって』『先生、私の隣に座っていただけませんか』『私はいったい、何と闘っているのか』の5本の出演映画が公開に。語らずとも何かを訴えかけてくるような、金子の力強い眼差しはスクリーンにこそ映える。

ここ数年で最も注目を集めた役といえば、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で演じた源頼家だろう。鎌倉幕府初代征夷大将軍として、日本国初の武家政権を樹立した頼朝(大泉洋)の息子。そんな偉大な父の跡を継ぎ、2代目鎌倉殿となった頼家だが、未熟で暴君のごとき振る舞いの数々には視聴者も頭を抱えたものだ。だが、金子が演じることにより、頼家の若さゆえの焦燥感や痛々しいまでの純粋さが引き出され、憎めないキャラクターとなった。頼家が非業の死を遂げた後はしばらく引きずってしまうほど、金子の演技は後からじわじわと心に波紋をもたらす。

頼家の好演そのままに、翌年のNHKドラマ10『育休刑事』では主演として作品を牽引。“パパ”としてこれまでの役柄とは違う一面を見せた。『育休刑事』と同時期に放送され、そのギャップで話題を呼んだのがNHK BSプレミアムで放送された『犬神家の一族』。『鎌倉殿の13人』のキャストも多数出演した本作で、金子は物語の中心となるマスクを被ったスケキヨを演じた。マスクで顔が覆われているにもかかわらず、目の演技だけでスケキヨの心の変遷を巧みに表現した。

そんな金子に「青春のリグレット」で演じる陸はぴったりの役柄だ。主人公の菓子にとって陸は後悔の痛みとともに思い出される存在。金子の作品に余韻を残す演技が存分に生かされることだろう。

キャストの一人として名を連ねる映画『52ヘルツのクジラたち』も3月1日に公開された。同作では、主人公が移り住む海辺の町で働く大工の男性を演じるにあたり、髭を生やし、今までにないワイルドな姿を披露している。若さ溢れる役もまだまだ似合うが、大人の色気も出てきて、さらに多彩な顔を見せる金子から目が離せない。

(文=苫とり子)

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