お口ぽかん、口呼吸、いびき・・・放置しないで!気になる症状があるときに親がすべきこと【歯科医師】

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愛知県刈谷市のやまむら総合歯科・院長の山村昌弘先生は、子どもの口腔機能の低下を指摘し、予防のために必要な正しい知識を発信しています。なかでも「筋機能矯正」は、山村先生がとくに力を入れていてる、口腔機能を改善するプログラムです。今回は「筋機能矯正」を受ける前の検査の重要性について、山村先生に聞きました。『子どもをぽかん口にさせないために』をテーマに全6回でお届けしてきたシリーズの最終回です。

歯列矯正でも完全に治療できない「子どものお口のくせ」。習い事を始める前にしておきたいお口のケアとは?【歯科医師】

子どもの口腔機能の低下に危機感を覚えていたときに出会った、「筋機能矯正」という治療法

歯列矯正をしないで筋機能矯正のみで歯並びとかみ合わせが改善された例。(出典/やまむら総合歯科 矯正歯科)

――先生のクリニックで行っている「筋機能矯正」とはどんな治療方法なのでしょうか。

山村先生(以下敬称略) 私はこれまで約1万5000人の子どものお口を診察し、健康をサポートしてきました。そのなかで気になっていたのが、口腔機能の発達が遅れている子が増えているということでした。
口腔機能とは、食べ物を口に取り込む、かむ、口の中で移動させる、飲み込む、声を発するといった口の機能全般のことです。味覚や触覚、唾液の分泌にもかかわり、生きていく上で必要不可欠な機能です。

また、それと同時に歯列矯正治療でできることの限界も感じていました。そんなとき知ったのが「筋機能矯正」です。筋機能矯正とは、口やあごが本来持っている機能を伸ばす、口腔の筋力トレーニングです。専用マウスピースを使いながら、正しい呼吸法や食べ物の飲み込み方、姿勢などのトレーニングを行います。
専用マウスピースは日中1時間と就寝時に装着し、自宅で毎日マウスピースをつけながらトレーニングを続けます。月1回の通院と数カ月に一度の診察で様子見ながら平均で2年ほど続けます。

――筋機能矯正は「たまひよ」世代でもできるのでしょうか。

山村 筋機能矯正は自宅で毎日トレーニングを行う治療法です。そのため、「なぜトレーニングが必要なのか」という、治療の動機を理解できることが不可欠です。そのため私のクリニックでは6歳からのスタートを推奨しています。
口腔機能の成長がほぼ完成する10歳までには筋機能矯正は終えておきたいので、遅くても8歳までにはスタートしたいです。

6歳の時点で口腔機能が整っていれば、筋機能矯正は不要

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――筋機能矯正をしっかりと行えば、歯列矯正は不要なのでしょうか。

山村 6~8歳にスタートして、クリニックの指導どおりにトレーニングを続ければ、基本的には歯列矯正をしなくても歯並びと歯のかみ合わせを改善することができます。

私は、いちばん美しくて機能が高いのは自分自身で作り上げたお口だと思います。自分の舌や唇の機能を改善して得られた歯並びやかみ合わせは歯列矯正では得られないものです。それをサポートするのが「筋機能矯正」です。

――口腔機能を高めるために、6歳までにできることはありますか。

山村 生まれた瞬間から、口腔機能を意識した育児を行えば筋力を高めることは十分可能です。ただ、そのためにはママやパパに正しい知識を持ってもらうことが必要なのですが、まだまだその環境は不十分です。

現在、自治体での乳幼児歯科検診は、乳歯の奥歯が生え始める1歳半と乳歯が生えそろう3歳に行われています。そこではむし歯と磨き残しのチェックを行いますが、近年はむし歯がある子どもはかなり少ないです。それと相反して、あごが育ってない子が増えているのです。

ですから、私は生まれてすぐにでも歯科医師による口腔内チェックを実施するのが理想的であると思っています。遅くとも離乳食をスタートしたタイミングで歯科検診が必要です。そこで、赤ちゃんの母乳の吸い方、使っている哺乳びん、離乳食の食べさせ方や睡眠の様子をヒアリングします。そのうえで必要な指導を行うのです。正しい指導の下で子どものお口に向き合うことで口腔機能が整えば、歯列矯正はもちろん、筋機能矯正を行う必要もなくなります。現時点では自由診療になってしまいますが、いつか保険診療でできるようになってほしいと思います。

――小児歯科のあるクリニックなら1歳半前の歯科検診にも対応してくれるのでしょうか。

山村 小児歯科の診療項目のメインはむし歯治療で、口腔機能の治療に対応できるとは限りません。クリニックのホームページを見て、子どもの発育について情報発信がされているかどうかチェックしてみてください。その中に「ぽかん口」や「べろの使い方」といったキーワードがあるなら、子どもの口腔機能治療に力を入れているクリニックでしょう。ちなみに私のクリニックでは、定期的に子どもの発育や口腔機能についての教室を開いています。
気になるクリニックがあったら事前に問い合わせをして、口腔機能チェックをしてもらえるか相談してみてください。

今すぐにでも実現してほしい、就学前の口腔機能検査と、毎年の筋機能調査

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――先生は、就学前の口腔機能検査の必要性についても強く訴えていますね。

山村 本当に理想的なのは生まれてすぐ、そして離乳食前に口腔機能検査を実施して、ママやパパにも育児で気をつけたいことを指導することです。ただ、なかなかそれを自治体や保険診療で実現するのは近い未来では難しいでしょう。
今の国の施策としては、小学校入学前に実施する就学前健康診断が口腔機能の成長をチェックする最善のタイミングだと思います。就学前健康診断とは、公立の小学校に通学する子が半年くらい前の段階で、自治体の指定する場所、たいていは通学する小学校で受ける健康診断のことです。

現在の就学前健康診断でできる歯科検診は、見た目でわかるむし歯や乳歯、永久歯の数などをチェックし、明らかな異常があるときだけ記録される程度です。口腔機能の発達についてチェックする時間は設けられていません。

しかし、小学校入学時は口腔機能の未発達を判断して治療を開始する最適な時期です。筋機能矯正の適齢期は6~10歳です。この期間であれば口腔機能の成長を正すことができ、その子がもともと持っている能力や可能性を引き出し、最大限に伸ばすことができるのです。
小学校入学前に、すべての子どもの口腔機能をチェックすることは将来の日本のためにも喫緊の課題といえます。

――最後に、少子高齢化社会が加速するなか、今の子どもたちが将来大人になったとき、口腔機能が整っているかいないかで人生はどのように違っていくとお考えですか。

山村 平成元年から始まった「8020運動」を知っていますか。80歳の時点で20本の歯を残すことを目標にしたスローガンです。運動を始めた時は80歳で20本歯がある人は全体の1割にも満たない状態でしたが、現在、80歳の歯の数の平均は18本と大幅に改善されています。

80歳で20本歯がある人のなかに、かみ合わせが悪い人はいません。かみ合わせが悪いと、歯を失う可能性が高くなることは周知の事実なのです。かみ合わせが整っている人がトラブルを抱えても、治療は最小限で済みます。かみ合わせが悪いと歯科だけでなく、さまざまな健康被害が起きていることがわかっています。

――正しいかみ合わせは全身の健康にかかわってくるのですね。

大人になったときによいかみ合わせができているかそうでないかで、その先の人生に大きな差ができてしまうのです。
みずから自律的に健康状態をつくれることが理想的ですが、そのためには子どものころ、6~10歳に口腔の筋機能を整えることが非常に重要です。ですから、就学前の口腔機能検査、さらには小学校で毎年「筋機能検査」を義務化させることが私の目標です。
それまでは、周囲の大人たちが筋機能検査を受けさせるなどサポートをしていくことが大切だと考えます。

お話/山村昌弘先生 取材・文/岩﨑緑、たまひよONLINE編集部

【歯科医が注意喚起!】乳幼児のむし歯が減っている一方で、「あごが小さい」子が増える異常事態になっている!?

10歳を過ぎていたら筋機能矯正は無理・・・とあきらめてしまうママやパパもいると思いますが、そんなときもまずは相談して欲しいと山村先生は話します。ぽかん口、いびき、口呼吸など気になる症状があるときは、口腔機能の治療に力を入れている歯科クリニックを探してみてはいかがでしょうか。

●記事の内容は2024年1月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

山村昌弘先生(やまむらまさひろ)

PROFILE
歯科医、医療法人志朋会やまむら総合歯科・矯正歯科理事長・院長。大型歯科医院を経て愛知県刈谷市で開業。2023年に日本口育歯科医院認定。一女一男のパパ。

『自信のある子を育てるお口のトレーニング』

心身の健康における口腔機能の重要性や6歳から始める筋機能矯正について紹介。/1760円(幻冬舎メディアコンサルティング)

山村昌弘(やまむらまさひろ)先生

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