受取人の9割が「やめたい」約束手形…決済期限60年ぶり改正へ 期限短縮で日本のビジネスはどう変わる? 専門家が解説

モデル・タレントとして活躍するユージと、フリーアナウンサーの吉田明世がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「ONE MORNING」(毎週月曜~金曜6:00~9:00)。2月29日(木)放送のコーナー「リポビタンD TREND NET」のテーマは「約束手形の決済期限を60年ぶりに改正、120日から60日へ」。情報社会学が専門の城西大学 助教・塚越健司さんに解説していただきました。

※写真はイメージです

◆「約束手形」の決済期限を短縮 そもそも「約束手形」とは?

政府は、企業が取引に使う「約束手形」の決済期限を、原則120日から60日に短縮するとしました。中小企業の資金繰り改善につなげ、賃上げや設備投資を後押しする狙いです。

公正取引委員会は意見公募後、4月に運用方針を決定。周知期間を経て11月1日に施行します。そこで今回は、「約束手形」について、塚越さんに解説いただきます。

ユージ:塚越さん、まずは「約束手形」がどんなものなのか教えてください。

塚越:約束手形とは簡単に言えば、お金を借りた人が「将来、決められた日に決められた金額を払います」と紙に書いて約束するものです。多くの場合、発注する企業が取引先に支払いをする際、支払いに猶予期間を設けるものです。

発注する企業にとっては資金繰りの負担軽減になって、手元の資金が不足していても事業を継続できます。

一方で、この約束手形は多くの場合、発行するのが「大企業」で受け取るのが「中小企業」というケースが多いのが問題です。

ユージ:本来、大企業のほうが経済的な意味での体力がありそうですけどね。

塚越:そうですよね。そのため約束手形を使うと大企業は支払いを猶予されるのですが、中小企業はお金の受け取りが遅くなるので困るということで、それを変えようというのが今回のニュースの「核」になります。

約束手形の説明に戻すと、手形を発行した企業が期限までに支払えない場合は「不渡り」となって、半年間に2回不渡りを出すと、金融機関との取引ができなくなり、事実上倒産となります。支払いを遅らせるわけにはいかないので、約束手形の使用はそれだけ企業の「信頼」が必要になる行為でもあります。それゆえに、発行するのは大企業が多いです。

決済期限(支払期限)は120日(※繊維業は90日)というのが現在のルールですが、このルール運用は1966年に始まったものです。当時は高度成長期で、大企業でも銀行から迅速に融資を受けられないことも多く、資金不足を補うために約束手形の使用が許容されました。

ただ、バブル崩壊以降は手形の流通も減少。それでも卸売業や製造業では今も比較的多くの場面で利用されていて、中小企業に負担がかかっているために、何とかしようという話です。

◆発行側、受け取り側も「やめたい」慣習…なぜ今まで続いている?

吉田:ちなみに約束手形は、世界中で使われているものなのでしょうか?

塚越:約束手形による支払いは、世界でも日本や中国、韓国といった一部の国のみになります。欧米などとビジネスをする上で、多くは中小企業である取引先に負担を強いる慣習は見直されるべきとされます。

欧米は現金振込やクレジットカード決済が主流になっていて、日本企業も海外と取引する場合は振込が一般的です。一方で日本国内では、アメリカやドイツなどと比べて、売上代金の回収に1〜2ヵ月ほどかかっていて、ビジネスとしてもスピード感に欠けてしまっています。

ユージ:今回、約束手形の決済期限が120日から60日に短縮される狙いは何でしょうか?

塚越:中小企業への圧迫を回避することが目的です。多くの場合、大企業は支払いを猶予できますが、中小企業は数ヵ月も(売上を)現金化できないとなかなか厳しいです。

前倒しで資金を受け取る際は割引料が引かれるため、売上が実質的に減ることになります。早く現金化したいときには手取りが減ることになりますので、支払いを待っている間に運転資金を確保するために、借金するケースもあるとのことです。こうなると、資金繰りを気にして設備投資や賃上げができなくなってしまいます。

さらに、政府が2020年度にまとめた報告書でも、約束手形を「やめたい」と答えた企業は、受け取り側で9割。また、発行側(主に大企業)も、管理に手間がかかるとして8割弱は「やめたい」と回答しています。

それにもかかわらず、なぜ今も手形を使っているのかを発行側に聞いたところ、「長年の慣習」が55%で最も多く、「資金繰り」の39%を上回ったということです。つまり、時代に合わない古いシステムがそのままになっているということです。特に中小企業には負担も多いので、政府は2026年度までに約束手形を廃止することを目標としています。

◆よりビジネスのしやすい日本へ

ユージ:塚越さんは約束手形の2026年度での廃止について、どう思いますか?

塚越:労働者の7割は中小企業の従業員なので、この慣習を変えることで余裕ができて、設備投資や賃上げにつながるなら良いことだと思います。約束手形はアンフェアな慣習だなと思う方は、私を含め多いと思います。(約束手形のように)紙を使った決済の場合は、事務負担がかかりますし、災害などでの紛失リスクもあります。銀行間のやり取りは、ほぼ電子化されていますが、企業間のやり取りは紙が続いているということで、電子化を進めたほうが良いと思います。

ただ、システムを変えるためには企業もコストがかかると思うので、急ぎすぎず、負担にならない程度のスピード感で制度を移行するとのことです。急ぎすぎると(対応のために)そこで負担になってしまいます。ここを乗り切れば多くの場合、中小企業にとっては喜ばしいことになると思うので、頑張って古い習慣を少しずつ変えていって、日本全体でよりビジネスをしやすい環境にしていけるといいなと思います。

吉田明世、塚越健司さん、ユージ

\----------------------------------------------------
2月29日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)聴取期限 2024年3月8日(金) AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。
\----------------------------------------------------

<番組概要>
番組名:ONE MORNING
放送日時:毎週月曜~金曜6:00~9:00
パーソナリティ:ユージ、吉田明世
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/one/

© ジグノシステムジャパン株式会社