ひな人形、倒壊宅から探し祝う 珠洲・宝立の避難所

避難所で唯一の子どもの石山凛ちゃん(中央)と、倒壊家屋からひな飾りを取り出した高さん(左)。右は高さんの妻真由美さん=4日、珠洲市宝立町

  ●唯一の子ども、皆で見守る

 能登半島地震で住まいをなくした約30人が身を寄せる珠洲市宝立(ほうりゅう)町の避難所で桃の節句の3日、ささやかなひな祭りがあった。会社員高重幸さん(62)=同市宝立町柏原=が倒壊した自宅の中からひな人形を取り出し、避難所でただ一人の子どもである石山凛(りん)ちゃん(5)=つばき保育園年中=を祝った。ひな飾りを前に着物姿でちょこんと正座し、笑顔で写真に納まった園児の成長を周囲は温かく見守っている。

 同じ町内に住む高さんと凛ちゃんが生活している避難所にはお年寄りばかりで児童生徒はいない。子どもは凛ちゃんだけだ。

 ひな祭りのきっかけは2月3日の節分だった。高さんら住民7、8人が鬼の面を着けて凛ちゃんと豆まきをした。高さんは元気いっぱい豆を投げてくる凛ちゃんの姿を見て、今度はひな飾りで祝ってあげたいと思うようになった。

 高さんは妻の真由美さん(62)とともに3人の娘を育て上げた。娘が皆市外に出て十数年、ひな飾りは1階和室で木箱にしまわれたままだった。元日の地震で1階はぺしゃんことなり、腰をかがめて倒壊家屋に潜り込み、ひな飾りを探し出したという。被害が少なかった2階から着物を持ち出し、凛ちゃんに着せた。

 当日は紙を折って作った器にひなあられを入れて配られた。「うれしいひなまつり」の歌詞カードを手に凛ちゃんを囲んで手拍子を打ち「おはなをあげましょ もものはな」と歌う住民。撮影会の後はちらしずしを味わった。

 ひな祭りを振り返り「うれしかったし、楽しかった」と笑顔の凛ちゃん。物おじしない姿に高さん夫婦は「地震がきっかけとはいえ、ひな人形が再び役に立てて良かった」と目を細める。ひな人形は「片付けないと婚期が遅れる」(真由美さん)ので、すぐにしまわれた。多くの大人が5歳児の幸せを願っている。

© 株式会社北國新聞社