[社説]訪問介護の報酬減 必要なケア届ける額を

 このままでは国が目指す「地域包括ケアシステム」に逆行しかねない。必要な見直しを求めたい。

 来月から適用される介護報酬改定で訪問介護の基本報酬が引き下げられたことに対し、現場のホームヘルパーや事業所、利用者から抗議の声が上がっている。

 改定は3年に1度実施される。物価高騰や介護の人手不足を踏まえ政府は、2024年度からの介護報酬を全体で1.59%引き上げると決めた。介護従事者の待遇改善が社会問題になった09年度改定の3%増に次ぐ高水準だ。

 しかし、内訳を見ると特別養護老人ホームなど介護施設の基本報酬が増額された一方、訪問介護は減額されている。

 訪問介護はヘルパーなどが利用者の自宅を訪ね日常生活を支援する介護サービス。在宅介護の要であり、高いニーズを背景に事業所は年々増えている。

 厚生労働省は引き下げの理由として訪問介護事業所の平均利益率が、施設などに比べ高いことを挙げた。

 だが利益率は事業所の形態や規模によって大きな差がある。集合住宅併設型の大手は高い一方、一軒一軒を回る地方の小規模事業所は低い。

 批判を受け厚労省は急きょ説明の場を設け、手当に当たる加算を増やせば収入は増えるとしたが、事業所によっては加算しても改定後に収入が減る試算も出ている。

 基本報酬の減額は特に地方での事業継続を困難にしかねない。高齢者がサービスを受けられない「介護難民」が発生する恐れがある。

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 介護の人手不足は深刻化している。

 中でもヘルパーは慢性的な人手不足で、有効求人倍率は15倍(22年度)ととんでもない高さだ。若い世代が入らず60代以上が約4割を占めている。人材難を理由にした倒産も増えた。

 こうした背景にあるのが、利用者宅への移動や待機時間、急なキャンセルがあると報酬が支払われないなど、他の介護職員と比べても不利な労働環境だ。

 19年には東京に住むヘルパー3人が、国の報酬制度を問う訴訟を東京高裁に起こした。

 今年2月に高裁は訴えを退けたものの、判決では「賃金水準の改善と人材の確保など長年の政策課題が解消されていない」と厳しい現状を認めた。

 ヘルパーの待遇改善は急務であり、基本報酬の減額は理解に苦しむ。

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 厚労省は25年をめどに、高齢者が可能な限り住み慣れた地域で暮らせる包括的な支援・サービス提供体制の構築を進める。

 訪問介護をはじめとする在宅介護サービスはこうした「地域包括ケア」の柱だ。

 身体介護や生活援助などケア一つ一つに適用される基本報酬が減額されれば、利益優先で利用者を選ぶ事業者が増える可能性もある。

 必要な介護サービスを一人一人に届けることができる報酬改定こそが何より求められる。

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