年金夫婦で「月23万円」だが…「年金の繰下げ受給はやめたら」と妻が夫にアドバイスするワケ

日本の公的年金制度。細かな決まりごとが多く、知っていると知らないでは、大きな差となることも珍しくはありません。今回は「年金の繰下げ受給」の“損得”についてみていきます。

年金増額も実質目減り…何とか年金受取額は増やせないのか?

厚生労働省によると、令和6年度、国民年金(老齢基礎年金)の満額支給額は6万8,000円、また専業主婦世帯であるモデル夫婦の年金額は月23万0,483円です。

*平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)43.9 万円)で 40 年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準

これは2023年度と比較して2.7%の引き上げになるとか。しかし年金改定率が物価変動率に追いついていないため、実質的には目減りしています。

高齢者の暮らしにおいて、公的年金はなくてはならないもの。内閣府『生活設計と年金に関する世論調査(令和5年11月調査)』で「あなたは、老後の生活設計の中で、公的年金をどのように位置づけていますか。」と尋ねたところ、4分の1が「全面的に公的年金に頼る」と回答しています。

Q)あなたは、老後の生活設計の中で、公的年金をどのように位置づけていますか

A)

・全面的に公的年金に頼る…26.3%

・公的年金を中心とし、これに個人年金や貯蓄などを組 み合わせる …53.8%

・公的年金にはなるべく頼らず、できるだけ個人年金や 貯蓄などを中心に考える…11.7%

・公的年金には全く頼らない …1.6%

また「全面的に公的年金に頼る」の回答割合を年齢別にみていくと、「20代」で8.4%、「30代」8.0%と、年金以外の方法を探る割合が多いですが、「40代」16.7%、「50代」26.7%、「60代」28.0%と増えていき、「70代」では45.3%に達します。

さまざまな事情があるにせよ、70代以上では収入を得る手段が限られ「年金に頼らざるを得ない」という状況にあると推測されます。

このような状況を目の当たりにして、誰もが思うはずです。「年金の受取額、なんとか増やせないかな……」。そこで検討がおすすめされているのが「年金の繰下げ受給」です。

年金受取額が増える「年金の繰下げ受給」…本当にお得?

年金の受け取りは、原則、65歳からとなっていますが、希望により66歳~75歳までの間に受け取るのが「年金の繰下げ受給」。ちなみに60歳~65歳になるまでの間に受け取るのは「年金の繰上げ受給」と呼ばれています。

繰下げ受給では1ヵ月年金をもらうのを遅くするごとに0.7%アップとなり、最大84%の増額。たとえば、先ほどの65歳のモデル夫婦。専業主婦の妻の年金が満額だとすると、夫の年金額は月16万2,483円。75歳まで繰り下げると、29万8,968円になる計算です。さらに専業主婦の妻も繰り下げれば月12万5,120円。夫婦合わせて額面で月40万円以上になり、年間230万円以上も年金受取額が増えることになります。

――そんなにもらえるなら、繰り下げるしかない!

誰もが思うでしょう。しかし、ふと「本当にお得なんだろうか?」と考えるわけです。

年金の繰下げ受給に関していえば、よく「損益分岐点」について議論されます。これは、「年金を繰り下げた場合の受取総額が65歳で年金を受け取り始めたときの総額を上回るのはいつか」というもの。額面で考えると、「66歳」までの繰り下げると「77歳11ヵ月」、「70歳」まで繰り下げると「81歳11ヵ月」、「75歳」まで繰り下げると「86歳11ヵ月」。さらに手取りで考えると、居住地や家族構成などによって変わりますが、おおむね2年近く後ろ倒しになります(関連記事:『【早見表】年金はいつ受け取るのが得?「額面」と「手取り額」の損益分岐点』)。

生存率で考えると、男性の半数が亡くなるのは81歳~82歳。一方女性の場合は、87歳~88歳です。男性の場合は、68歳~69歳の間に、女性の場合は73歳~74歳の間に「生存率5割の壁」が立ちはだかります。女性に比べて男性のほうが、繰下げ受給による受取総額が65歳からの受取総額を下回り、“損”をする可能性が高いのです。

――私は年金を70歳過ぎまで繰り下げようと思っているけど……あなたはやめておいたら?

そんなアドバイスを妻からされたら、「男性は繰下げ受給で損をする可能性が高い」という事実に基づく冷静なアドバイスだといえるでしょう。

[参考資料]

厚生労働省『令和6年度の年金額改定についてお知らせします』

内閣府『生活設計と年金に関する世論調査(令和5年11月調査)』

© 株式会社幻冬舎ゴールドオンライン