働き方改革/クレーン建設業が回送含め時短実施、他工種・全体工程への影響懸念

移動式クレーンのオペレーターの働き方改革が発注者や元請企業、専門工事業者などにも影響を与えることになりそうだ。時間外労働の罰則付き上限規制の適用を受け、4月以降は現場への回送時間(往復平均2時間)を含めて定時の作業時間を設定する方向。現場での実稼働時間が短縮されることになれば、クレーンを使う他工種の歩掛かりのほか、全体の工程、工期にも影響が及ぶ。全国クレーン建設業協会(全ク協)の柴崎祐一会長は「オペレーターの健康と現場の安全を考えていただき、クレーン建設業界の実態に即した配慮をお願いしたい」と訴えている。
会員企業のオペレーターを対象にした全ク協の調査(2023年6月分)によると、クレーン車の置き場から現場まで往復する1日当たりの回送時間は全国平均で1時間47分。3大都市圏や北海道で2時間を超え、埼玉地区では3時間25分だった。同地区では道路渋滞の影響が特に大きかったという。月当たりの時間外労働は全国平均で57時間21分となり、月45時間の上限規制をオーバーしている。
回送時間のほか、出発前点検や現場でのアウトリガーの張り出し、ジブのセットなどといった準備作業や片付けにも時間を要する。
クレーン建設業という仕事の特殊性から業界側は、法令順守のため回送時間を含めた2時間程度の短縮と年間の時間外労働を自動車運転業務と同じ960時間以内とする特例措置を数年前から要望してきた。
しかし、国側が特例措置を認めないと結論付けたことを踏まえ、首都圏を中心に全ク協の各支部や建設重機協同組合が、法令順守への苦肉の策として、日本建設業連合会、建設業協会の会員企業らに対して、作業日当日に回送を行う自走式クレーンを対象に、基本作業時間を午前8時~午後3時(昼休憩は正午~午後1時)とすることなどを求めている。
国土交通省や元請団体・企業に対して作業時間の短縮などへの協力を求めてきた全ク協の幹部は、「われわれの窮状に理解は示してくれるものの、具体的な対応が見えてこない。多くの工種・工程に関わるクレーン作業の時短による影響は小さくない」と危機感を募らす。
時間外労働を抑えるための交代制については、オペレーターの要員不足に加え、機種の大きさや性能などの違いで不慣れな車両を交代で乗り回すのは難しいとされる。現場や顧客も日々変わる中、「月後半の現場では時間外労働が上限に達しているため残業ができない」(全ク協幹部)ことを得意先に理解してもらうケースも考えられる。
昨今の物価上昇の影響も深刻だ。燃料のほか、タイヤなど消耗品も高騰し、4月以降は稼働日減少も想定され、1日当たりの機械損料は上昇傾向にある。車両本体の値上げやオペレーターの賃上げなども重なり、クレーン建設業の経営環境は一段と厳しさを増している。
全ク協の幹部らは「現場での作業時間を短くしつつ、単価を上げることに得意先から理解を得るのは容易でない」と口をそろえる。発注者、元請企業、専門工事業者ら関係者の協力が求められている。

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