DXにおける黒魔術とその取得方法

DXへの抵抗は様々な形で現れます。そんな時は魔法使い、あるいはCIOがトリックを使って解決しなければなりません。

新しいことに挑戦して運用方法を変えるよう、社員や中間管理職を説得する必要が出てきます。権力や規則に縛られ苦境に陥ったり、「社内で構築されたものではない」という考え方と闘わなければならないこともあります。おそらく、自身の縄張りを守ろうとする熾烈な企業政治家にも出くわすことでしょう。

ここでは、(あまり多くの)敵を作ることなく、無関心や無知、無気力、テクノフォビア、ありきたりの強情さなどを克服しなければならないということです。

それを実行する方法は通常、業務管理ガイドには記されていませんが、Book of SpellsNecronomiconは多少参考になるかもしれません。周りの反対を押し切ってIT戦略を実現するコツについて、トップのITリーダーに聞いてみました。

1.反対勢力を魅了する

確固とした意見を持ち、さらには強いエゴを持っていなければ、大企業のトップにまで上りつめることはできません。しかし、これらの人たちに耳を傾けてもらうのに、まじないをかけたり呪文を唱える必要はありません。

チョコレートの中におもちゃが入ったお菓子だけで十分なこともあります。

男性優位の世界において、153センチの小柄な女性、ジョアナ・フリードマン氏は、自身のキャリアを通して周りの関心を引くためにより努力する必要がありました。彼女の魔術とは、キンダーサプライス(中におもちゃが入っている卵型チョコレート)のプレゼントです。

「チョコレートは私が大好きな経営ツールです」とトロントを拠点とするITアドバイザリーグループ、ConnektedmindsでスマートマニファクチャリングのCEOおよびプリンシパルを務めるフリードマン氏は語ります。製造業界のベテランである氏は、これまでにIBM、ブリストル・マイヤーズスクイブ、また大手製薬会社のグラクソスミスクライン、およびセレスティカでキャリアを積んできました。「CIOとしてミーティングに参加している時に誰かがやる気を見せなかったり、機嫌が悪そうな時は、キンダーサプライズをあげるんです。もらった人がチョコレートを食べておもちゃで遊び始めると、部屋全体の雰囲気が変わるんですよ」

氏は、このチョコレートの入った箱をオフィスにキープしています。それを聞いた経営幹部たちが午後チョコレートを求めて部屋に来ることもあります。程なく彼女は主要関係者たちとの関係を育み、彼らの懸念事項について学び、ビジネス目標の達成に向けてITがどのようにサポートできるかについて話し合いました。

それから数か月後、製造業者のPLMシステムの見直しにさらなる40万ドルを求めた際、予算外の支出であったためCFOは強く反対しましたが、会議に参加していた他のビジネスリーダーからはサポートが得られました。氏は最終的に本プロジェクトに60万ドルの予算を勝ち取ったのです。

「私は身長が153センチしかありません。ゴルフはどんなに頑張っても上手になれませんが、チョコレートがたくさん入った箱を持って会議室に入り、『誰がどのおもちゃをもらえるのでしょうね?』と尋ねることはできます。とっても喜んでもらえるんですよ。CIOができる最高のトリックは、思いがけないことを前向きな方法で実行するということです」と氏は述べています。

子どもが窒息する可能性があるために、FDA制限により、残念なことにキンダーサプライズはアメリカでは販売されていません。アメリカ在住のCIOは何か他のスイーツのお守りを見つけなければならないということです。

2.戦略的提携の確立

トロールやゴブリンに勝ちたければ、エルフとドワーフの助けが必要になります。エンジニアリング効率化プラットフォーム、SleuthのCEOおよび共同創立者であるディラン・エトキン氏は、組織の優れたテクノロジーリーダーになるには、組織内で適切な同盟者を得ることが不可欠であると述べています。

「エンジニアリング分野でリーダーシップを取るためには、製品分野に強力な同盟者がいなくては成功しません。開発者は時に、管理者は必要ないと考えたり、技術以外の側面を低く見ることがあります。そのような考えでは絶対に何も達成できないのです」と氏は語ります。

Jiraのオリジナルアーキテストであり、Atlassianでの勤務経験がある氏は、同僚との協力関係の構築に苦労したこともあると述べています。作業の進め方についてかなり異なる考え方を持つ同僚たちと同じ認識を持つ方法を見つけなければならなりませんでした。それを実現するには、たくさん質問してその答えに耳を傾けることが必要でした。

「同僚はあなたの仕事を促進してくれる人たちであり、彼らとある程度足並みを揃えていくことが必要なのです。彼らの取り組みが理に適っていないと思う場合でも、十分緊密な関係を築いていれば、彼らの決定事項にある程度影響を及ぼすことができます」と氏は述べています。

氏がAtlassianでBitbucketチームを先導していた際、同社の設立者たちが好んで使用していた分散型バージョン管理システム(Mercurial)をやめさせ、市場の80%を占めるGitへの移行するよう説得することができました。

「GitHubで競合優位性を高めるには、技術的負債を負うことに対する経営幹部の懸念にも関わらず、Gitのサポートが必要であることは明確でした。その分野で競争力を得るためには、彼らの同意を得ることが重要だったのです」と氏は述べています。

その他には、法的部門と人事部門との連携が必要だと氏は付け加えています。

「こういった部門の人たちはいつの日かあなたを救うか苦しめることになるでしょう。私は彼らとは常にフレンドリーな関係をキープするようにしています」

3.敵の救助

あなたが制圧しようとしている勢力はあなたに反対している個人ではなく、彼ら自身が閉じ込められているシステムであるかもしれないという可能性を忘れてはなりません。

特定の方法で運用が成功している組織は、物事を大きく変える理由があまり見出せないかもしれません。破壊的な新規参入者による競争の激化や、革新的テクノロジーの出現などで変更が必要になった場合でも、社内の慣性の克服にあなたの魔法の力をすべて使い果たしてしまうかもしれません。

フルスタックDX企業であるRise 8の創立者兼CEOのブリオン・クローガー氏は、真に妨害しているものが何であるかを識別して、適切なターゲットに向けて取り組まなければならないと述べています。

「何かを変えようとしているあなたの努力が妨げられていると感じる時、その敵が個人や集団であるかのように感じることがよくあります。確かにそういう時もありますが、ます『抵抗しているのは人なのか、それとも社風なのか』を考えることが重要です」

LinkedInで 「官僚制度のハッカー」の役職名を使っているクローガー氏は、10年間アメリカ空軍に勤務していました。米空軍のアジャイルソフトウェア開発ラボであるKessel Runの共同創立者でもある氏は、階層構造が根強い組織への対応に長けています。

Kessel Runを構築している際、クローガー氏と彼のチームは、米空軍のガバナンス、リスク管理、コンプライアンスの膨大なプロセスと対立することが往々にしてありました。氏のチームは監査役を敵として扱うのではなく、時間をかけて彼らのペインポイントの理解に努めました。その後、監査プロセスを自動化・合理化し、コンプライアンスチームがリアルタイムでレポートを得られる新システムを設計しました。

「1年に1度レポートを提出する代わりに、彼らのリスクコンプライアンスフレームワークを全く却下することなく、継続的なコンプライアンスを実現できたのです。4半期ごとにセキュリティスキャンを実行するのではなく、すべての確定ごとに1日複数回スキャンしたのです。最終的には、デリバリーのスピードを遅らせることなく、必要なことをすべて実行できました」と氏は述べています。

彼らの成功への鍵は、「共感」という言葉に要約されます。

「まず共感を育むことが必要です。相手の仕事をより楽に、より速く、より効率的にできるようにするにはどのようにすればいいか考えます。真の意味での共感とは、何かが変わることを期待せずにその人の立場を理解することなのです」

4.大胆不敵になる

改革を推進する時は必ず、様々な方向から攻撃されます。松明や槍を抱えたオークがあなたの城の扉を壊そうとするのです。それが競合企業の場合もありますが、多くは隠れた意図を持ったり、変化に抵抗する組織内の同僚であったりすることが多いのです。

コードレスアプリケーション開発プラットフォームであるUnqorkの創立者兼CEOのギャリー・ホバーマン氏は次のように語っています。「CIOだった頃は、私をトラックでひいてやりたいと思ってた人が少なくとも15人はいました。それが15人未満になったら、私は自分の仕事をきちんとしていないと感じたものです」

氏はUnqorkの創立前、ウォールストリートで25年間働いていましたが、そのほとんどはフォーチュン50金融サービス企業にてテクノロジー担当の専務取締役を務めていましました。敵を作ることはこの業界では避けることができません。

「CIOとしての私の役割は組織全体の改革でした。顧客は私のビジネスパートナーではなく、会社のお客様であると信じていましました。つまり、私は常に常識に逆らい、自分を拒絶しようとする抗体と戦っていたのです」と氏は述べています。

2000年代の中頃、ホバーマン氏は、Eコマースのプラットフォームを開発し、社全体で広く採用されました。当時のトレーニング担当者から、新規採用のトレーダーがより早く仕事に慣れるためのソフトウェア開発を依頼されました。当時はトレーダーにコンピューターとアカウントを提供するのに2週間も要し、その結果、会社は何百万ドルもの損失を被っていたのです。ホバーマン氏のチームは1か月以内にすべてのプロセスを自動化し、トレーダーはすぐに仕事に取り掛かれるようになりました。

これがうまくいったとたん、企業の官僚主義が働いて、『いいね、これから4年間かけて、毎月、建物ごとに展開していこう』と言われたんです。だから私は『そんなのクソくらえだ。君たちは私に追いつく方法を考えてくれ』と言ってやったんですよ」とホバーマンは述懐しています。

このソフトウェアのおかげで、この金融サービス会社の生産性が年間およそ3億ドル向上したと氏は見積もっています。

「テクノロジーのリーダーは大胆不敵であることが必要です。『私はチームをサポートし、変化を推進し、物事を破壊していくんだ』と怯むことなく言えなければなりません。それが成功への秘訣です」と氏は述べています。

5.戦いをせず、平和を作る

状況が不利な場合、通常は武器を置いて交渉する方がいいのです。Wake County, N.CのCIOであるジョナサン・フェルドマン氏は、社内政治はテクノロジーリーダーに忌み嫌われることが多いものだけれども、代替案よりはましだろうと語っています。

「IT関係者は従来から『反政治的』立場を取ってきました。しかし私は、いつもスタッフに、政治に代わるものは戦争だと言い聞かせています。戦争は誰の利益にもならず、必ず誰かが傷つくのです」と氏は述べています。

ある程度社内政治に関わることでより理解が深まり、相互に利益のある協力につながると氏は付け加えています。

内心、経営陣が誤った判断をしていると思っても、時には「反対だけれどコミットする」ことが必要だとエトキン氏は述べています。例えば、氏のスタートアップ企業がアトラシアンに買収された直後、エトキン氏はシングルサインオンシステムを導入しなければならないと言われました。

「移行だけでほぼ一年かかり、当社の顧客にとってはほとんど価値がないことはすぐわかりました。最終的には移行しましたが、投資する価値はありませんでしました。しかしそれは会社の賭けであり、私たちはそれに従わなければならなかったのです」

適切な質問をし、耳を傾け、経営管理者の視点を理解するよう務める必要があるとエトキン氏は述べています。そして、その見解をチームに擁護することに最善を尽くすのです。

「経営陣がなぜそのような決定をするのか、完全に理解することはできないかもしれません。しかし最終的には私たちは実行者であり、支配者ではないことを覚えておかなければならないのです。私たちの仕事は、首を切られることなく自分たちの領域で適切な仕事をすることなのです」と氏は述べています。

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