“自分らしく住まう”「住宅のリノベーション」がブームだが…中古住宅市場では〈こだわりリフォーム物件〉ほど売れにくい「納得のワケ」【住宅のプロが解説】

長年暮らす自宅の住みやすさを向上させたり、中古住宅を購入後、自分の理想の仕様にするために、「リフォーム」や「リノベーション」を施すケースが増えています。しかし、「こだわりのリフォームは、将来的に売却する際の売れにくさにつながることがある」と住宅コンサルタントの高橋正典氏は言います。日下部理絵氏、高橋正典氏、畑中学氏による著書『絶対に失敗しない! 中古マンションの見極め方』(ビジネス教育出版社)より、詳しく見ていきましょう。

こだわりのリフォームは売れるのか?

不動産業界には「リセールバリュー」(再販価値)という言葉がある。先々に、売れやすいか、それとも売れにくいか、という視点である。最近は、リノベーションブームで「自分らしく生きる」「自分らしく住まう」、そんな価値判断が重要視されている。アメリカのように、数年に一度買い替えをする文化とは違い、まだまだ日本では「一生の住まい」という意識は高いようだ。

それでも住み替えを行なった人のうち、住み替え前の住宅が「戸建」の人よりも、「集合住宅」の人の方が圧倒的に「売却した」割合が高い(図表)。このことから、マンション購入における将来的な「売却」という選択は、かなり視野に入れておくべきことである。

[図表]住み替え前の住宅の処分方法 (注)「その他」には、他人に貸している、親族が住んでいる、空家になっている、取崩して空家になっている、今後売却予定、別宅として利用、その他、無回答を含む
出所:『絶対に失敗しない! 中古マンションの見極め方』(ビジネス教育出版社)より抜粋

「間取り」にこだわりすぎると売れにくくなる

「こだわりのリフォーム」と一口にいっても、何にこだわるのか? によっても違いがある。こだわりをここでは「間取り」「意匠」「設備」「性能」と分けて考えてみよう。一番「売れにくさ」につながるのは「間取り」である。

次の購入者の家族構成も生活習慣も違う前提で考えれば、極端な間取りが相手を選ぶことは想像できる。そして、間取りはその変更に大規模な工事を要することもポイントになる。

次に影響があるのが「意匠」である。いわゆる壁紙やフローリング等の色やデザインのことを意味する。その部屋の印象を決める影響力の大きいものだ。このうち、フローリングについては簡単に交換ができないこと、また色合いが時代によって流行り廃りがあることから、あまり極端なものにすると「売れにくさ」につながる。ただし、壁紙についてはフローリングまでは交換費用が多額にはならないことから、それほどの影響はないといえる。

続いて「設備」についてだが、風呂やトイレ、洗面台等、比較的金額が高いもののことだ。設備の耐用年数はもともと15〜20年である。それくらい住んでからの売却であれば、そもそも交換時期にさしかかっていることになる。こだわりの強い設備であっても、それほど大きな影響は出ないと思われる。

売却時の価値を高める「リフォーム」とは?

そして、もう一つの「性能」については、こだわりがプラスに影響する時代になっている。昨今のエネルギー価格の高騰で、省エネに対する意識の高まりもあって、「内窓」に代表される省エネ性能の向上は、将来的な売却においても価値を高める要因になる。

実際の不動産市場で売りに出される「こだわりリフォーム」物件の状況を紹介しよう。

先ほど、「間取り」のこだわりが一番売りづらいと指摘したが、端的に言えば、そのこだわった間取りを、同じように好む人がどれくらいいるかがポイントになる。不動産の価格や売れ行きは「需要」と「供給」で成り立つので、一つの物件(供給)に対して購入したいと思う人(需要)が何組いるかで価格が決まり、売れ行きも比例する一方で、一つの物件を購入する人は一組であることもまた事実である。その一組が運よくマッチングすれば、予想以上に早く、しかも良い価格で売れることもある。従って、あくまで総論という考え方が正しいだろう。

また、「設備」のこだわりについて、ある程度住み続けてから売りに出すのであれば影響はないと書いたが、実際にはリフォームしてから数年という早い段階で売りに出される物件も多い。その理由としては、「いざ生活してみたら、使い勝手が悪い」という理由が多く聞かれる。

物件選びと良いリフォームがつながるような業者選びを

こういう理由で売りに出されると、まだ返済も進んでないことも多い。当然、販売価格も高くならざるを得ず、結果的に売りづらくなるという流れになる。

では、なぜせっかく練りに練ったこだわりの住まいが、想像と違う結果になり、売りに出すことになるのだろうか?

売却相談から見える傾向として、まず一つは、家族の中でのこだわりの温度差から生まれるものがある。たとえば夫婦の間でも、その温度差は違う。こだわりの強い方の意見がどうしても色濃く反映されがちなため、妥協側の不満に繋がるパターンである。

もう一つは平面上のイメージと実空間とのズレである。本来リフォームを提案してくれる業者さんの力量に頼りたいところだが、こだわりの強さから業者さんもいえなくなることがあるようだ。

そして、最後は不動産的視点が不足していることだ。当然ながらリフォームを提案する側は、すぐに売って欲しいとは思っていない。施主の希望にできる限り応えようと考えてくれる。それが結果的に売りづらい現実につながってしまうことになる。

こうした事例を踏まえると、「物件選び」と「良いリフォーム」は一つの流れとして、つながっていることがわかる。しかし、その両者を担当する業者が別々であることに課題がある。まさに、「業者選び」が重要であるといえる。

日下部 理絵

マンショントレンド評論家、住宅ジャーナリスト

高橋 正典

不動産コンサルタント

畑中 学

不動産コンサルタント、武蔵野不動産相談室株式会社代表取締役

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