【霞む最終処分】(24)第4部 実証事業の行方 再生利用埋まらぬ溝 決め手欠ける「具体策」

福島県外での除染土壌の再生利用拡大に向け、環境省が埼玉県所沢市で開いた説明会。住民からは安全性や風評を懸念する声が上がった=2022年12月

 「除染土壌の福島県外最終処分は国の責務。県外での再生利用に関し、丁寧に説明していきたい」。2023(令和5)年6月、就任後初めて福島県飯舘村長泥を訪れた環境相・西村明宏(当時)は報道陣に対し、県外での最終処分という「約束」の履行を強調する一方、再生利用を全国に広げていくための具体策には触れなかった。

 環境省は2019年度から長泥で、東京電力福島第1原発事故に伴う除染土壌の再生利用実証事業に本格的に取り組んできた。成果を基に県外での実証拡大につなげるシナリオを描くが、受け入れてもらうために欠かせない安全安心への理解醸成には高い壁が立ちはだかる。

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 2022年12月、環境省は県外での実証事業の候補地に茨城県と埼玉県、東京都の省関連施設3カ所を選んだ。しかし、それぞれの施設がある地域の住民から反対の声が相次ぎ、実施に至っていない。安全性を理解してもらうため、使用する予定の土壌に含まれる放射性セシウム以外の核種の有無を追加調査するなど情報収集を急いでいる。環境再生事業担当参事官の中野哲哉は「まずは寄せられた意見や懸念の声を整理し、改めて説明の場を設けたい」と着実に進めていく考えだ。

 長泥での事業実施が決まった際、環境省内には「安全な農作物が作れると証明できれば、他地域でも除染土壌を使いやすくなる」との見方もあった。ところが、安全性を示しても実証事業の候補地の住民から反対意見が上がる現状に、原発事故対策に携わる政府関係者からは「現状ではどの取り組みも決め手に欠ける。今後の道筋は不透明」との声も出ている。

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 長泥での成果を発信するため、環境省は再生利用の必要性などを説明しながら参加者の疑問に答える対話フォーラムを2021年5月から全国各地で開催してきた。長泥での現地視察も積極的に進め、2023年末までに延べ約1400人を受け入れた。

 しかし、毎年実施している除染土壌の再生利用などに関する全国アンケートでは理解が浸透していない現状が浮き彫りとなっている。2022年度の結果では、再生利用について「知っている」と答えたのは県内で42.4%、県外ではさらに低く14.4%にとどまる。

 中野は「県外最終処分を実現するには、再生利用の現場視察などを通して、除染土壌を社会全体の問題として捉えてもらう取り組みが大切だ。だからこそ県外で実証事業を進める必要がある」と訴えた。(敬称略)

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