親が遺したまさかの「2億円」…50代男性が「使っても減らない資産」と引き換えに失ったもの

「資産運用をしながら取り崩せば資産寿命が延びる」という話を聞いたことはないでしょうか。特に老後資金ではそのように説明されます。

確かにその通りですが、筆者はもし運用がうまくいかなかった時のことを考えると、“老後までに資産寿命が延びない前提”で必要額を全額準備しておくべきだと思っていました。しかし、あるご相談者の家計状況を見て「必ずしも全額準備する必要はないかもしれない」と、考えが変わりました。

その方の家計はどのような状況だったのでしょうか? 当時の驚くべき状況をお伝えします。

「2億円」を手にした50代・会社員男性の悩み

吉岡さんは地方の中堅企業で働く会社員、50代です。相談内容は「早期退職をしても、その後の生活は成り立つか?」という内容でした。もともと吉岡さんは、今の会社で定年まで働くつもりでいました。しかし2年前に状況が一変します。

親の財産を相続することになり、その金額がなんと「2億円」という大金だったのです。吉岡さんの年収は700万円。これから吉岡さんが退職までに稼ぐであろう金額をはるかに超えた金額です。

大金を手にしてガラリと変わった生活水準

相続財産2億円の内訳は、約5000万円が株式、1億5000万円が投資信託です。これだけの財産があれば、使ってもなかなか減らないだろうと思います。実際、収支を確かめてみると吉岡さんはしっかり“浪費”をしていました。

例えば、中学生と高校生のお子さん2人と妻の4人の家族で外食に行くと、回らないお寿司で1回10万円は普通のこと。3泊4日の京都旅行ではまさかの90万円も使ったと言います。さらに、今年は豪華なグアム旅行も予定しているようで、予算はなんと400万円……! このぜいたくぶりから分かる通り、普段の生活においても惜しみなくお金を使っていました。

「使っても減らない資産」のカラクリ

吉岡さんの生活は、相続前はごく一般的な水準でした。吉岡さん自身も毎月コツコツ投資信託を積み立てして老後に備えていました。しかし相続後、使っても減らない資産を見てお金の使い方が大きく変わったようです。

これら娯楽費の資金源は、相続した株の配当金や投資信託の取り崩しです。「使っても減らない」とはどういうこと? と思われるかもしれませんが、株式からは毎年約3%、150万円ほどの配当金が入り、他方、投資信託は運用で増えていきます。一定の資金を引き出したとしてもむしろ増えていくと言うわけです。

吉岡さんの場合、昨年は400万円取り崩したそうですが、それでも去年より1割ぐらい増えていたようです。1億5000万円の1割ですから1500万円。400万円取り崩したところで資産が減らないのは当然でしょう。

大金と引き換えに失ったのは「仕事への意欲」

なんともうらやましい話ですが、吉岡さんは働くモチベーションを保てないことに悩んでおり、退職も視野に入れていると言います。一方で、この生活水準のまま仕事を辞めてしまって本当に大丈夫だろうか? という不安もあるようです。

吉岡さん自身も「退職して、お金がなくなったとしてもぜいたくしなければいいだけのことですよね? 外食1回10万なんて高すぎだと分かっています。家族4人2万円あれば十分おいしいものが食べられますから」と、ぜいたくしている自覚がありました。

その後、退職した場合も含めてキャッシュフローを作成。100歳までの収支をシミュレーションしたところ、もちろん問題ありません。終始黒字です。仕事はやめても金銭的には問題なさそうでしたが、ただ、それで吉岡さんが幸せになるのかは分かりません。

人は人の役に立つことで幸せを感じるようです。少なくとも仕事をすることで人の役に立てます。筆者は吉岡さんと趣味やお子さんの話をしながら、仕事をやめるのなら、それ以外でも何か生きがいを見いだしてほしいとお伝えしました。

●2億円までいかずとも、「使っても減らない」資産の状態を目指したい! 実現に向けて考えるべきことは何か? 一体いくら必要か? 後編【資産を「使っても減らない」状態にするにはいくら必要? FPが教える「意外と現実的な金額」】で詳説します。

前田 菜緒/ファイナンシャルプランナー

FP事務所AndAsset代表。ファイナンシャルプランナー(CFP、1級FP技能士)。大手保険代理店に7年間勤務後、独立。子育て世代向けにライフプラン相談、セミナー、執筆などを行っている。子連れでセミナーに行けなかった自身の経験から、子連れOK、子どもが寝てから開催するなど、未就学児ママに配慮した体制で相談やセミナーを実施。経済的理由で進学をあきらめる子をなくしたいとの想いを持ち、活動中。

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