『リビングの松永さん』美己が初めて経験した大きな別れ 大久保桜子が抜群の存在感を発揮

人生において、別れは案外予告なく訪れる。けれども、その別れが次の章への扉を開くものならば、心からの応援を贈るべきだろう。『リビングの松永さん』(カンテレ・フジテレビ系)第9話で描かれたのは、高校生の美己(髙橋ひかる)にとって、初めて経験した大きな別れだったのかもしれない。

重要な仕事を諦めてまで、自分のために尽くしてくれた松永(中島健人)に、幸せと同時に申し訳なさを感じた美己。前回のエピソードでは、松永が向けてくれた優しさに、思わず「私は松永さんのことが好きです」と心の内を明かしたのだった。

だが、予期せぬ告白に松永は動揺し、その後のシェアハウスでの二人の間には、かえってぎこちない雰囲気が漂うことに。この絶妙なチグハグ感に、初回放送を思い出して温かい気持ちになった視聴者も多いのではないか。とはいえ、第1話とは関係の深さが全然違う。松永と美己の物語は、ゆっくりでも確実に前に進んでいるのだ。

しかし、そんな2人の微妙な空気感を凌(藤原大祐)が見逃すわけがない。美己が松永に告白したことを知った凌は、松永に決断を迫る。「俺、ここに越してきたのは園田さんのことが気になったからで……」と松永に正直に話した上で、正々堂々と松永を焚き付ける凌は、寡黙ながらに、やはりどこまでも真っ直ぐな人だと思わされる場面だった。

一方、美己はあかね(大久保桜子)がインド人の恋人・サンジェ(加藤諒)からプロポーズを受けたことを耳にする。しかし、カレー屋になる夢を諦めてまで結婚するサンジェの決意に納得できず、あかねはプロポーズを断ったのだった。

夢と恋愛……どこかで聞いたことのある話だと思えば、やはり松永の視点では「サンジェには、サンジェの人生を大事にしてほしいの」と訴えるあかねの姿が美己に重なった様子。互いの想いを打ち明けたあかねとサンジェは、結婚を改めて決意し、カレー店を開く準備を始める。

美己のことを「みこっぺ」と呼ぶ変わり者のあかねだが、その抜群の存在感は、演じる大久保桜子の手腕によるものだろう。これまでも、あかねのまとう“不思議な空気”を確かな演技力で醸し出してきた大久保。美己と朝子(黒川智花)が考えた、手作りの結婚式では、クラシックなウェディングドレス姿を披露した。

「なんか……寂しくなっちゃって」と涙を流す美己につられるように、卒業式でも送別会でも泣かなかったあかねの“別れの涙”は、第9話の大きな見どころである。シェアハウスという場所の特性上、別れはつきものであるが、それでもやはり寂しいものは寂しい。それは、このドラマの最終回が近づいている今、視聴者が感じている松永たちとの別れの寂しさにも似ている感情かもしれない。

さらに今回は、夏未(若月佑美)とのバトルにもついに決着が。「純とやり直したい」という夏未に、「ごめん、小夏の気持ちには答えられない」「好きな人がいる」と返した松永。美己の気持ちを思うと、一刻でも早く返事をしてあげてほしいところだが、どうやらもう少しだけ、告白の返事はお預けのようだ。次週、リビングを飛び出して水族館でダブルデートに向かう松永は“好きな人”にどうアプローチを仕掛けるのだろうか。

(文=すなくじら)

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