『正直不動産2』ディーン・フジオカの痛ましい過去が明らかに 永瀬と美波に別れの予感?

嘘のつけない不動産営業マンが活躍する痛快お仕事コメディ『正直不動産2』(NHK総合)。第9話「神木という男」では、営業成績ナンバーワンに異常なほど執着する神木(ディーン・フジオカ)が、サブリース契約を結んでいるオーナーたちから法を逆手にとったやり方で利益を得ようとしていた。花澤(倉科カナ)はそんな神木に危うさを感じ、神木を止めるために月下(福原遥)に協力を求める。そして永瀬(山下智久)と月下は登坂(草刈正雄)から、神木がナンバーワンにこだわるきっかけとなった出来事を知る。

15年前の神木は「お人よしで、口下手で、ノルマ達成もギリギリで営業に全く向いてなかった」と登坂は語る。15年前の神木は柔和な顔つきをしていた。家族写真に映った表情はとても優しげで、妻の香織(藤井美菜)と息子の翔太(石塚陸翔)に向けるまなざしはあたたかい。幼稚園のかけっこでビリになり落ち込む息子に、神木は「パパも今月、会社で1位になる。だから翔太もパパと一緒に1位になろう」と励ました。神木が「見せたいものがある」と言って披露したのは、神木を印象づけるあのタップダンスだ。どこかたどたどしさはあるが、息子はそのダンスを気に入り「ねえ、パパ、もう一回踊って」とせがむ。かつての神木は平穏で幸せな日常を過ごしていたのだ。出かける前、息子とハイタッチする神木の穏やかな面持ちが忘れられない。

突然の事故により、神木は妻と息子を失う。事故の現場を目の当たりにした神木の悲痛な叫びに心が痛むが、それ以上に心苦しいのが登坂が見た神木の姿だった。神木は誰もいない食卓に向かって「パパ、頑張ったら1位になれるってこと、証明するから」「嘘じゃないって、ママ、信じてよ」と独りごちる。あまりにもつらい現実を受け入れ難い神木は、もういないはずの妻と息子を見ているのだ。「翔太、パパ、絶対1位になるからな」と決意を新たにする神木の目つきに、営業成績ナンバーワンへの執着心、その始まりを見た。神木は本当にその月から営業成績1位を取り、永瀬に抜かれるまで9年間1位を取り続けた。

彼の心の傷は癒えていない。神木は事故現場に花を手向けると、妻と息子に話しかける。神木はこれまでにないほど幸せそうな笑みを浮かべている。神木は息子を抱き上げるとこう言った。

「パパは今月も来月もその先もずっと1位を取り続ける」
「だからパパは誰にも絶対負けない」

そう笑いかける神木はパパの顔をしていた。神木の異常なほどの執着心が、家族への思いゆえだと分かるとやりきれない。神木は息子とタップダンスを踊るが、その前を1台の車が横切り、妻と息子を消し去っていく。たった1人でタップダンスを踊り続ける神木の姿に胸が締め付けられる。

物語終盤、神木は花澤に言った。

「妻と子どもが死んだあと、一度だけ1位を取れなかった。そしたら……消えたんです」
「2位になったら香織と翔太がいなくなってしまった。でも、また1位を取り戻したら私のところにまた現れたんです」

今の神木は15年前の神木とは違い、妻と息子を亡くした現実を受け入れている。けれど、自分の目には確かに見える2人との別れを望むことはない。「ほら、そこにいる」と神木は誰もいない空間にしゃがみ込んだ。その背中はあまりにも優しく、神木の目の前に息子・翔太がいるように思えた。

これまでの神木は紳士的な微笑みとは裏腹に、営業成績ナンバーワンのためならライバルのみならず顧客をも陥れる、嘘をいとわない悪魔的な営業姿勢が特徴だった。だが、「もう二度と、2人を失いたくない」と口にした神木のまっすぐなまなざしが、嘘偽りのない神木の心情を物語る。1位に強く執着するのは家族に会いたいがため。1位へのこだわりはやめないと言った神木は、物語の終わり、十影(板垣瑞生)に狙いを定める。家族以外に向ける笑顔は相変わらず悪魔のように映るが、苦しみにも感じられる神木のこだわりが最終回ではどのように描かれるのか期待が高まる。

第9回は永瀬と美波(泉里香)の恋路に進展も。美波曰く、永瀬は“最終選考”の段階にいるが、美波の心は決まっているように思える。神木の過去を知り、複雑な胸中を抱く永瀬を美波は「お風呂行きましょうか?」と外に連れ出した。「今日ちょっといろいろあって……」と乗り気ではない永瀬に、「だから行くんです」と美波は言う。美波は永瀬の心に踏み込みすぎない絶妙な距離感をとりつつも、その心情に寄り添う。そんな美波との何気ない会話が永瀬を少しずつ元気づけた。美波が永瀬の手を繋ぎ、微笑むのを見て、永瀬はぎゅっと手を繋ぎ直した。言葉のないやりとりの中にお互いを思う素直な感情が伝わってきて心があたたかくなる。

永瀬は近々、美波にちゃんと思いを伝えようと思っている。そんな折、美波はニューヨークへの異動を言い渡されていた。最終回で描かれるであろう2人の行く末も気になるところだ。
(文=片山香帆)

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