社説:NHK開示判決 説明責任の自覚あるか

 公共放送のトップが外部からの圧力に同調して表現の自由をねじ曲げたのではないか。そう疑われているNHKに対し、説明責任と自己改革を迫る判決といえよう。

 かんぽ生命保険の不正販売を報じた番組に関し、NHKの最高意思決定機関である経営委員会が当時のNHK会長を厳重注意した問題を巡る訴訟で、東京地裁が先月、NHKに経営委議事の録音データ開示を命じた。

 放送法はNHK経営委と委員が「番組編集の自由」に干渉するのを禁じており、経営委の議事録を遅滞なく公表しなければならないことも明記している。

 NHKはこの2点で違反が強く疑われている。NHKは控訴したが、データを公開し、問題の全容を明らかにすべきだ。

 NHKは2018年4月、「クローズアップ現代+(プラス)」で不正販売を追及する番組を放送し、同年7月には情報提供を呼びかけるネット動画を公開した。

 しかし、親会社の日本郵政グループから抗議を受け、NHKは続編の放送を延期。動画を削除した上で、当時の上田良一会長が日本郵政側に謝罪した。

 報道でこの経緯が明らかになる中、経営委による上田会長への厳重注意や、委員長代行だった森下俊三氏(後に委員長)が取材方法に関し「極めて稚拙」と発言したことが問題になった。元職員や市民団体が正式な議事録や録音データの開示を求めて訴えていた。

 NHKは議事録ではなく「粗起こし」を開示し、裁判では「議事録は作成せず、録音データは消去した」と主張していたが、東京地裁は録音データは存在するとして開示を命じた。

 削除の証拠はないとし、粗起こしにとどめているからこそ、その正確性を担保するために録音データを消すわけがない、と指摘したのは、もっともではないか。

 理解に苦しむのは、この問題を通じてのNHKの対応だ。森下氏は職務上の違法行為が疑われる事態が明らかになったのに互選で委員長になり、先月末までその地位にあり続けた。

 経営委は執行部を監督し、会長の任免権もある。委員は国会の同意で首相に任命される。安易に制作現場に口を出す人物がどうしてトップに据えられていたのか。

 NHKには自主自律が求められる。外部の圧力や介入を許さないことが、よって立つ国民の信頼につながる。自ら問題を検証し説明する責任がある。

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