オーロラ見学ツアーに自宅リフォーム…定年後〈退職金1,000万円〉を使い果たした60代・元一部上場企業サラリーマンが“老後破綻回避”のために画策した年金〈繰下げ受給〉の裏ワザとは【FPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

定年を迎えた柴田さん(仮名)。1,000万円の退職金は、旅行や自宅リフォーム、長男の結婚資金などで、気付けば底をついてしまい、企業年金を受け取ることができるものの、この先、老後資金が尽きることは明白です。そこで柴田さんが考えた、年金「繰下げ受給」プランとは?ファイナンシャルプランナーである長尾義弘氏の著書『運用はいっさい無し! 60歳貯蓄ゼロでも間に合う 老後資金のつくり方』(徳間書店)より、詳しく解説します。

退職金の残念な使い方が招く「老後破綻」の危機

<柴田さん(仮名)のケース>

柴田(仮名)さんは、一部上場企業で働いてきました。妻の佳枝さんと3人の子どもの5人家族。営業部長を務めていたので給料はよく、佳枝さんのパート収入(103万円以下)もありました。

高額所得者に近いのですが、それでも50代はやりくりに苦労しました。大学生が2人に高校生が1人。大学の学費だけで年間100万円が消え、そのほかを合わせると子どもたちに年間300万円はかかります。住宅ローンも毎月23万円(年間276万円)払います。入ってきたお金はすぐ出ていく状態で、とても貯蓄にまで手が回りません。

子どもたちが無事に就職し、ほっとしたところで60歳の定年を迎えました。退職金は1,000万円出ました。仕事に明け暮れてきた柴田さん、定年後にやりたいと思っていることが山積みになっています。まずは柴田さんの昔から夢だった豪華オーロラ見学ツアーに出かけました。費用は2人で100万円です。

購入してから一度も手を入れていない自宅の傷みも気になります。これから先も住み続けるつもりのわが家です。高齢になっても快適に暮らせるようにバリアフリー工事やキッチンの取り換えなど、700万円をかけて思い切ったリフォームをしました。

うれしいことに長男の結婚が決まり、100万円を援助します。さらに、100万円で車を買い替えました。気がつけば、退職金はスッカラカンです。

ただし、柴田さんは退職一時金のほかに、企業年金がありました。月額6万円の年金が10年間は受け取れます。

70歳まで働いて老後の準備をしても、83歳でゼロに

企業年金があるとはいえ、これだけではとうてい足りません。柴田さんは再雇用で働くことにします。いままでのようにはいきませんが、給与は毎月35万円入ってきます。佳枝さんもパートを続け、年収は100万円です。

60歳~65歳までのプランニング

夫婦の月額支出 約33万円(年400万円)

柴田さんの月収 約35万円(年420万円)

佳枝さんの月収 約8万円(年100万円)

企業年金の6万円(年72万円)

収入合計は月額約49万円(年592万円)

ということは、毎月、約16万円の貯蓄が可能になります。

65歳まで5年間あるので、960万円の貯蓄ができそうです(16万円×12ヵ月×5年=960万円)。柴田さん夫婦は65歳まで給与も企業年金もあるので、暮らしていくには問題ありません。しかも、貯蓄までできます。ただ、その後の年金暮らしになると、一気に老後資金がなくなってしまいます。ここはもう少し働いて、資産寿命を延ばす必要があります。

柴田さんの再雇用は65歳で終わりですが、会社から再雇用を延長する制度があると伝えられました。ただし、勤務は週に2〜3日間で、給与が月額13万円に下がります。

年金は65歳から受け取ることにしました。妻の佳枝さんが5歳年下なので、5年間加給年金を受け取ることができます。

さて、プランニングをしてみると、残念ながら83歳のときには、老後資金が尽きてマイナスになってしまいます。

これだけでは、安心した老後をおくれないでしょう。

企業年金とはどんな制度?

「企業年金なんて聞いたことないぞ」と、首を傾げた人もいるでしょう。企業年金はすべての会社にあるわけではありませんが、サラリーマン・公務員のかなり多くの人が該当します。企業年金制度は会社によって異なりますので、一概に言うことはできません。ここでは大まかなしくみについて解説をしていきましょう。企業年金には、大きく分けて「確定給付企業年金」「企業型確定拠出年金」「厚生年金基金」の3つがあります。

確定給付企業年金(DB)

「確定給付企業年金」の加入者は911万人と、もっとも多いタイプです。

労使同意のもと、企業が実施する企業年金制度です。原則的に掛金は企業が負担します(一部個人負担の場合もあります)。企業が負担した掛金は、年金資金として管理・運用されます。

年金は確定給付ですので、受け取れる年金額が決まっています。受け取れる期間は、原則として終身、または5年以上の有期です。しかし、実際には終身年金は減ってきており、10年や15年といった有期年金の形が多くなっています。

企業型確定拠出年金(DC)

基本的にはiDeCo(個人型確定拠出年金)と同じしくみです。iDeCoは個人が掛金を出しますが、企業型は会社が掛金を負担します。加入者は805万人。

運用先は個人が指図します。ですので、運用実績に応じて年金額や一時金額が変わってしまいます。運用がうまくいくかどうかは、加入者の自己責任です。拠出金の上限は決まっているものの、加入者が拠出できるマッチング拠出やiDeCoに加入して増額することもできます。

厚生年金基金

基本的には確定給付企業年金と同じように、会社が掛金を負担して年金を管理・運用する制度です。ただ、国の老齢厚生年金の一部も代行し、厚生年金基金の独自の上乗せをします。しかし、厚生年金基金を解散、または確定給付企業年金への移行が進み、加入者は12万人と少なくなっています。

加給年金があるので「基礎年金」だけ繰下げ受給に

柴田さんは、まず年金の繰下げ受給を考えました。しかし、柴田さんの年金を繰下げ受給すると、加給年金が停止してしまいます。加給年金は年額39万円と、けっこう大きな額です。繰下げ受給と加給年金、どちらを選ぶべきか……。

迷った末、柴田さんは基礎年金部分だけを繰下げることにしました。

繰下げ受給をする場合には、基礎年金と厚生年金のどちらか一方だけを繰り下げることもできますし、両方を繰り下げることもできるのです。加給年金は、厚生年金に上乗せする制度なので、基礎年金とは関係がありません。ですので、基礎年金を繰下げ受給しても、加給年金は受け取ることができます。

厚生年金に加入しながら働いているので、65歳で受け取る年金額が少し増えています。65歳まで働くと、11万5,101円のプラスです。

国民年金の加入が40年に満たなかったのですが、経過的加算で年金の受給額が増えました。経過的加算とは、厚生年金の定額部分と老齢基礎年金の差額を埋めるためのものです。国民年金を40年間支払っていない場合でも、60歳以降も働けば、そのぶんを支払うことになります。それを基礎年金ではなく、経過的加算として上乗せした年金です。

65歳から70歳までのプランニング

夫の厚生年金 65歳からの受給額131.5万円

夫が70歳まで働くので厚生年金は4.2万円の増額

夫の基礎年金 70歳まで繰下げ受給をすると70歳での受給額は約111万円

夫の70歳からの年金受給額 約247万円

このプランでは70歳以降の年金を増額でき、90歳までの赤字額が減っています。しかし、老後資金がゼロになる状態が、たった1年しか伸ばすことができません。やはり基礎年金だけでは金額が少ないため、その効果も限定的になってしまいます。

長尾 義弘
ファイナンシャルプランナー

© 株式会社幻冬舎ゴールドオンライン