日本一TVに出るスーパー「アキダイ」が業界大手の傘下に。会社と従業員の未来を守るM&Aとは

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年間テレビ出演本数300本、日本一TVに出るスーパーとして有名なスーパーアキダイが、2023年に神奈川県を中心に展開する大手スーパー・ロピア(株式会社OICグループ)からのM&Aを受け、傘下に入ったことが明らかになった。

アキダイは1992年に創業し、東京を中心に10店舗を展開。一部報道によると、株式会社化したアキダイの株をロピアが取得する形でM&Aは成立。傘下に入るにあたり「既存店舗を残す」「若い従業員を他県に単身赴任させない」などの条件を提示したとのことで、アキダイの屋号もそのまま残るようだ。

アキダイ・秋葉弘道社長は、後継者問題に悩んでいたそうで、1月に放送されたTBSテレビ 「サンデージャポン」で、「アキダイ自体は黒字で、(自身の引退後)仲間が困らないようどうすればいいか考えたとき、M&Aすることが一番のいいことだろう」と語っている。

M&A=乗っ取りというイメージもあるが、「従業員の将来のためにM&Aを受ける」とはどういうことなのだろうか。事業承継問題に詳しい岩永悠税理士に聞いた。

●経営維持はもちろん、従業員にとっては給与や福利厚生面でのメリットも

ーー今回アキダイは株式譲渡によるM&Aをされたそうですが、アキダイにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

アキダイの創業者及び経営側にとっては、以下のようなメリットがあります。

・秋葉弘道社長の創業者利得の確保(株式譲渡金額)
・アキダイというブランドを維持したまま経営を続けることができる
・親会社資本力により出店スピードやPB(プライベートブランド)開発がより盛んになる
・大手傘下となったことで採用がしやすくなる

一方従業員にとっては、会社の存続危機となる社長の死亡リスクを回避でき、会社が将来に渡り継続していくこと(ゴーイングコンサーン)が期待できます。さらに、給与水準や福利厚生の充実が図られる可能性があるほか、親会社出向といった出世のチャンスも得られます。

●M&Aの手法によって、従業員の処遇は異なる

ーー通常M&Aにより買収された側の従業員の処遇はどうなるのでしょうか。

M&Aにはさまざまな類型や手法があり、それにより従業員の処遇も異なります。ここでは、「救済型」「業界再編型」、そして今回のアキダイの事例が該当する「独立型」の3つについて、それぞれの手法と影響を解説します。

1つめは「救済型」です。ヤマダ電機が大塚家具に出資(第三者割当増資による救済)し、実質子会社化した例が挙げられます。

大塚家具は出資を受け入れることで財務状況の改善を図るとともに、ヤマダ電機は顧客層および家具などの商品ラインナップを獲得しました。ライフスタイル分野でのシナジー効果は高い一方で、赤字スタートのため、効率化に向けた人員や店舗整理を行われることが多く、解雇リスクは大きくなります。

2つめは「業界再編型」で、マツモトキヨシホールディングスとココカラファインの経営統合が挙げられます。

この手法のメリットは、仕入先を共通化することでロット勝負ができるといった「スケールメリット」、NB(ナショナルブランド)よりも一般的に粗利益率が高い「PB(プライベートブランド)の拡充」、粗利益率の改善が図れる「オペレーションの共通化」などがあります。

バックオフィスなどの統合により人員整理される可能性はゼロではありませんが、基本的に大手同士の再編の場合は継続雇用が大前提となるため、従業員側としてはやり方やルールの統一化などのストレスがあることぐらいがデメリットだと考えます。

●独立型M&Aはアキダイにとって最良の選択

3つめは「独立型」で、今回のアキダイの例が挙げられます。これは事業承継М&Aに多い事例といえます。

創業者の圧倒的なリーダーシップで成長してきた企業は、成長に重きを置くため、後継者育成が後手に回る傾向があります。その結果、気付いたときには部署ごとに任せられる責任者はいても、成長を前提とした全体を統括できるメンバーが育っていないというケースも多い印象です。

創業者は50歳を過ぎると自社の今後を考え始める一方で、まだまだ前線で頑張りたいと考える方も少なくありません。そのため、相乗効果があり、かつ自由に経営できるスタンスが確保できる前提でM&Aを受け入れるパターンが増えてきています。

また、M&Aにより創業者の死亡リスクを回避でき、いざというときの資金力(親会社の資金調達能力)も確保することができます。さらに、より強固な経営基盤となることで、従業員の心理的安全性が高まり、給与水準や福利厚生の充実が図られる可能性も高くなります。

アキダイの場合は社長がまだお若いので、従業員にはそこまでの不安はなかったと思いますが、創業者が後継者を定めず65歳前後まで前線で働いていると、従業員は今後の企業経営について不安に感じるものです。若い層を採用していくアキダイにとっては、最良の選択肢だと考えます。

●従業員の生活を前提に、形骸化したМ&Aが増加しないよう注視すべき

事業承継は承継者によって大きく、親族内承継・社内承継(MBOやEBO)・М&Aの3類型に分けることができます。親族内承継の割合は年々減少する一方で、М&Aという言葉が市民権を得た現代において、事業承継の選択肢としてМ&Aが占める割合は拡大しつつあります。

これは情報があふれる社会において、家業を継ぐ親族内承継の手法だけが是ではないと、経営者も後継者も理解してきているからでしょう。ゴーイングコンサーンを前提に考えると、適切なメンバーに会社を任せるべきであり、企業は成長していくべきものであると仮定すると、М&Aを実行し形を変えてでも成長企業へと変革していかねばなりません。

М&Aで最も重要なことはPMI(当初計画したМ&A後の統合効果を最大化するための統合プロセス)であり、中小企業のМ&AはPMIが上手くいっていない事例が多く、シナジー効果が充分に発揮できていないケースも多く見受けられます。

М&Aは企業継続や成長のために行われるものであり、その中には「働いている従業員の生活」があります。不動産取引のように“買った売った”だけでは済まない事情が多分にあるため、М&A業界全体として形骸化したМ&Aが増加しないように注視すべきと考えます。

【取材協力税理士】
岩永 悠(いわながゆう)
アイユーコンサルティンググループ代表/税理士法人アイユーコンサルティング代表社員。
西南学院大学卒業。京都大学経営管理大学院 上級経営会計専門家(EMBA)プログラム修了。2007年中堅の税理士法人に入所。26歳で税理士登録後、国内大手税理士法人に入所し福岡事務所設立に参画。13年独立開業、15年法人化。「日本のミライに豊かさを」をビジョンに掲げ、全国10拠点体制でグループを運営している。
24年1月には事業承継専門部隊「承継アドバイザリー部」を設立。主な著書「事業承継を乗り切るための組織再編・ホールディングス活用術」(23年改訂版発刊)。
・事務所名 :
アイユーコンサルティンググループ
税理士法人アイユーコンサルティング
・URL:https://bs.taxlawyer328.jp/

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