スイス中銀ジョルダン総裁退任へ 後任は外部から?

スイス国立銀行(中央銀行、SNB)のトーマス・ジョルダン総裁(61)は1日、今年9月末で辞任すると発表した (KEYSTONE/© KEYSTONE / ENNIO LEANZA)

スイス国立銀行(中央銀行、SNB)のトーマス・ジョルダン総裁(61)が1日、今年9月末で辞任すると発表した。後任には、SNBに必要な改革を遂行できる外部有識者を充てるべきだとの声が上がっている。 SNBのジョルダン総裁は、物価の安定・インフレとの闘いで高い評価を得ている。SNBの金融政策に関する民間シンクタンク「SNBオブザバトリー」のイヴァン・レングヴィラー(バーゼル大経済学部教授)は「金融政策家として、彼は非常に良い仕事をした」と語る。 一方で、ジョルダン氏が去ってもSNBがうまく機能し、中銀の経営を改善するためには、改革が必要だと指摘した。 SNBオブザバトリーに属する著名経済学者3人は、重要な決定について発言権を持つ人間を増やすことを提案する。 例として、政策金利やフラン相場への関与を挙げる。SNB理事会は現在3人で構成され、各理事は連邦内閣(政府)が任命する。レングヴィラー氏は「中銀の決定は、すべての国民に直接的な影響を与える。このため、もっと幅広い支持を受けたものであるべきだ」と話す。 経済・金融の重要な転換点では、開かれた議論を促すことが極めて重要だという。その一手段として、ジョルダン氏の後任には外部からの人材を起用するよう求めた。 「(後任は)SNB出身者以外の人物でなければならないと考えている。異なる経験を持ち、新しいアイデアをもたらすことができる人でなければならない」。外部から新たな専門知識を取り入れることで、SNBは時間のかかる改革を迅速に進めることができるとみる。 ジョルダン氏は1997年に経済顧問としてSNBに入行。2007年に理事に就任。妻のインサイダー取引疑惑で辞任したフィリップ・ヒルデブラント前総裁の後を継いで12年に総裁に就いた。欧州通貨危機やパンデミックで揺らぐ金融市場を治め、昨年3月にはクレディ・スイス危機への対応も指揮した。 SNBは後任についての情報を開示していない。 政府・州への分配は可能 中銀が国民に還元すべき利益に関しても、長い議論が必要となりそうだ。SNBオブザバトリーは「SNBが過去2年間と同じように赤字を計上したとしても、前期の利益を州・連邦政府に納めることは可能だ」と述べる。SNBは4日、2023年は32億フラン(約5400億円)の赤字だったと発表した。フラン全面高で580億フランの為替損失が生じたことが響いた。 レングヴィラー氏は「SNBが分配できる資本は間違いなく存在する。SNBは手放したくないだけだ」と話す。 ただSNBは2025年までの利益分配に関して連邦政府と合意しており、SNBは手厚い準備金を用意することになっている。通年決算が600億フランを大幅に超える黒字とならない限り、今年もSNBから連邦政府・各州には納付金を納める必要がない。 SNBが新総裁の下で金融政策を変更するかどうかはまだ分からない。またSNBが天文台の他の改革提案を単純に実行する可能性は低い。そして尋ねられたところ、彼女は3人の独立した専門家からの最新の報告書についてはコメントしなかった。 ドイツ語からの翻訳・追記:ムートゥ朋子

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