試合の節目を読んだ日比野菜緒、傾いた流れを止めた本玉真唯が、女子テニス「BNPパリバ・オープン」予選突破!<SMASH>

日比野菜緒(世界ランク80位)と、本玉真唯(同120位)の二人が、3月3日開幕のテニスツアー「BNPパリバ・オープン」(アメリカ・インディアンウエルズ/WTA1000)で、予選を突破し本戦へ進出した。

予選決勝では両者ともに、フルセット勝利。ただその内訳は、試合中に節目を読み“流れ”に乗った日比野に対し、相手に傾き出した流れをせき止めた本玉という、好対照とも言える内容。ただ、現在の取り組みや課題面では、相似性の高い二人でもある。

「エイジさんの助言で助かりました」と、日比野は試合のターニングポイントを明確に振り返った。コーチの竹内映二と日比野は、10年の濃密な年月を共有してきた師弟。「これだけ長く一緒にいれば、映二さんが言うことの意味は、すぐにわかりますから」と、日比野は相好を崩した。

その“声”が聞こえたのは、第2セットの序盤。シェー・スーウェイ(台湾/同694位/ダブルス2位)相手に第1セットを2-6で落とした直後のことだった。

助言の内容は、「ボディサーブをもっと使うこと」。そして「リターンが直線的になっているので、もう少し膨らませて」の二点。

「そうしたら、面白いようにポイントが取れるようになったので、さすがだなと」

師の戦術眼の確かさに、日比野は改めて舌を巻いた。

もちろん、いかに優れた戦略があろうとも、それを実現するのは選手。最近では、コーチの助言を即座にプレーで表現し、「自分、やるな!」とほくそ笑むこともあるという。

今大会を含め、ここ最近の日比野は、WTA1000カテゴリーで3大会連続予選突破中と好調。ただもちろん、目指すはそのさらに先。次なるステージに上がるカギを、彼女は次のように見る。

「どうしても消極的になってしまう時間帯がある。リードしていると、相手のミスを期待してしまう。そこでもう一つギアを上げられたら、トップ50も見えてくるかなというのは感じています」

その課題に挑む上でも、今大会の本戦初戦には最高の舞台が用意された。

相手は、地元米国の“レジェンド”にして大ベテランの、ビーナス・ウィリアムズ(アメリカ/元世界1位/現487位)。センターコートのナイトセッションに組まれた大一番で、自分の殻を打ち破りにいく。
その日比野から遅れること約1時間。本玉がクレア・リュー(アメリカ/同111位)との予選決勝を6-1、5-7、6-3で制し、本戦の切符をつかみ取った。

ただ試合後の本玉は、勝利にもどこか晴れぬ表情。その原因たる試合を振り返る時には、「気持ちですね」の言葉を繰り返した。

彼女の言う「気持ち」とは、第2セットはセットカウント5-2から逆転され、ファイナルセットも5-0とリードしながら追い上げを許した場面だ。いずれの局面でも、「消極的になってしまった」と不甲斐なさげに振り返る。その原因は「気持ち」。

そして最後、相手の逆襲を振り切れた勝因も、「気持ち」である。「自分には足がある。走って、走って粘ろう」と割り切ったことで、リードを守りゴールテープを切った。

とはいえやはり理想は、自らポイントをつかみ取ること。それは昨年9月から師事し始めた、原田夏希コーチと取り組んでいるテーマでもある。

今大会では、その原田コーチの愛弟子とも言える奈良くるみが、BJK杯(女子国別対抗戦)日本チームのコーチとして現地入り。選手たちのサポートにあたっている。小柄な身体で世界32位に至った奈良の真の凄さは、ツアーに軸足を徐々に移し、トップ100も目前に迫った今だからこそ肌身で実感できる事実。だからこそ本玉は、この日の試合後も奈良に助言を求めた。

「奈良さんには、緊張した時は、どこにサーブを打って次にどう展開するかなどを、はっきり決めた方が良いかもね、と言われました。私は、ぼんやりとしたままのことも多いので、その通りだな…と」

奈良からの言葉を思い返しつつ、本玉は「本当に厳しい世界。誰もポイントをくれないから、自分で取りにいかないと」と、独り言のようにつぶやいた。トップ100は単なる数字ではあるが、今の彼女にとっては、「気持ち」の面でも早く到達したい目標だ。

本戦初戦の相手は、35歳のベテラン、ジャン・シューアイ(中国/同68位)。長くトップ100に定着する実力者は、今の本玉にとって、格好の試金石となる。

現地取材・文●内田暁

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