「知らない人が来たけど何?」“仕組まれた”理事長交代 特養ホーム乗っ取りで7,400万円が消えた計画的犯行のカラクリ【現場から、】

静岡市清水区の社会福祉法人の理事長選任をめぐる“贈収賄事件”。逮捕された男3人は現役の医師、元警察官、そして、有名俳優の元夫というこの事件、元警察官の男が理事長に就任した直後から法人の資金に不審な動きが出始め、あっという間に合計7,400万円の行方が分からなくなりました。浮かび上がってきたのは、賄賂で法人を手に入れ、現金を抜き取るという計画的犯行です。

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社会福祉法違反(収賄)の疑いで逮捕・送検されたのは、静岡市清水区の社会福祉法人の元理事長で医師の男(48)、同法違反(贈賄)の疑いで逮捕・送検されたのは、その後任の理事長で、元警視庁の警察官の男(43)と団体職員の男(52)です。

警察などによりますと、2022年3月ごろから10月ごろにかけて、当時理事長だった医師の男は2人から現金2,000万円を受け取る見返りとして、元警察官の男を理事長にするなどの約束をした疑いが持たれています。

関係者などによりますと、医師の男は、元警察官の男らから「アドバイザリー料」の名目で現金2,000万円を受け取っていたということで、賄賂を偽装するための手段とみられます。この理事長職をめぐる違法な譲渡は、さらなる犯罪の布石とみられています。

<社会福祉法人の運営に詳しい宗澤忠雄さん>
「いや、もう極めつけの稚拙で乱暴な手口だというふうに思います」

<社会部 竹川知佳記者>
「元警察官の男と団体職員の男を警察が最初に逮捕したのは2023年11月。特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人名義の口座から2人が関係する会社名義の口座に移した業務上横領の疑いでした」

2人はあわせて約4,400万円を横領したとして起訴されました。さらに、3,000万円の業務上横領の疑いでも、3月2日に逮捕されています。

社会福祉法人の口座からは、明らかに不可解な金の動きが読み取れます。横領したとされる7,400万円のうち、2,400万円は施設の修繕などを目的に保管されていた資金で、社会福祉法人の口座から2人が関係する会社の口座に移されていました。残りの5,000万円は、介護事業者などへの融資をする会社から介護報酬を担保に借り入れた金で、こちらも2人が関係する会社の口座などに振り込まれていました。

社会福祉法人の現在の理事長と特別養護老人ホームの施設長が3月6日、SBSの取材に応じました。

<特別養護老人ホームの施設長>
「(元警察官の男の理事長就任は)誰?何?みたいな。どうしたの?どうしたの?って感じ。交代間際までみんな知らなかった、知らない人が来たけど何?みたいな」

元警察官の男らが融資会社から借りた5,000万円は返済できないまま残り、毎月30万円の利息だけを払う状態が続きます。

<社会福祉法人の現理事長>
「口座にもともとあった修繕とかするお金なんですけど、抜かれていて、まだ何も返ってきていないので、介護施設を運営するのに新しいソフトを導入するとか、建物の修繕でお金使いたいとかいうのは我慢している状況ですね」

在宅での生活が困難な高齢者に介護を提供する特別養護老人ホームは、行政から支払われる介護報酬も、他の介護施設に比べ、突出しています。

社福法人の行政監査にも携わってきた宗澤忠雄さんは、元警察官の男らは最初から“乗っとる”目的で社会福祉法人の運営に入り込んでいったと推察します。

<社会福祉法人の運営に詳しい宗澤忠雄さん>
「24時間施設ですから、例えば、訪問ヘルパーであるとか、日中だけの高齢者のデイサービスであるとかと異なって、職員の人件費、これが夜勤手当や休日手当分も含めて、ものすごくグロスが大きくなるわけです。お金を抜いたことがバレずに済んできたというような成功体験を持っている可能性があるっていうふうに私は思います」

理事長の変更には、評議員会の開催などが必要ですが、元警察官の男が就任するタイミングでは開催されていませんでした。しかし、会議録は存在し、何らかの方法で作成されたとみられます。社会福祉法人を監督する立場にあった静岡市が気づくことはできなかったのでしょうか。

<静岡市 吉永一監査指導担当課長>
「悪意を持って(法人の運営に)臨まれた場合には、未然に防ぐことは難しい」

市が不適切な理事長の選任などがないかを確認するのは、3年に1度実施される「法人監査」のみ。監視のためにある評議員会が無力化されてしまっていた場合は、防ぐのは難しいと訴えました。

社会福祉法人はもともと、民間の志ある人が自費で運営していましたが、行政の補助金などが投じられるようになりました。しかし、税制が優遇される社会福祉法人の同族経営による“私物化”や資金目当ての「ヤミ売買」が横行し、2016年に社会福祉法を改正。その際にできたのが、公務員と同様に金銭の授受を禁止する贈収賄の罰則規定です。摘発は、静岡県警としては初めて。全国では3例目です。

社会福祉法人は介護が必要な方を助けるためのものであり、今回の事件の一番の被害者は介護施設であり、その利用者です。今回の事件は介護施設は、誰のためのものなのか。もう一度考えるよう投げかけています。

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