TVロケ「トラブルは日常茶飯事」 フジ制作会社「迷惑撮影」騒動があぶり出した「メディアの傲慢」

フジテレビ(yu_photo / PIXTA)

フジテレビの人気番組「逃走中」を手がける制作会社が3月6日、公式サイトで「撮影現場の近隣住民の方にご迷惑をおかけしてしまったことを深くお詫び申し上げます」と謝罪に追い込まれた。SNS上で、撮影場所になったマンションの住人から「家の入り口を勝手に使う」「公道の歩行者通行を妨害する」などと指摘されていた。

マンションの住人は「メディアの傲慢」と容赦なく批判。警察にも通報したという。SNSや、この騒動を取り上げたネットニュースの記事にも「同じことを体験した」と"被害者"だという人たちの投稿が続出する事態となっている。

「このようなテレビの迷惑撮影・迷惑ロケはほぼ毎日のように発生している」。そう語るベテランのテレビプロデューサーが問題の本質を分析した。(テレビプロデューサー・鎮目博道)

●近隣住民トラブルは日常茶飯事のことだ

〈フジテレビの『逃走中』かなんか知らんが、撮影でおれの家の入口を塞ぐわ、敷地を勝手に使うわ、公道の歩行者通行を妨害するわで、道路使用許可証見せてくれつーたら、、、許可されたのと違う場所を占有してるし…指摘しても無視して撮影続けるし。メディアの傲慢さが生き残っていることを確認〉(3月2日のX投稿)

こうした投稿内容について、番組の制作会社は「まいどなニュース」の取材に事実だと認め謝罪した。

このような撮影・ロケ中に、近隣住民との間で起きるトラブルは、実は非常に多い。「ほぼ毎日」と言ってもよいかもしれない。私の実感では、ニュース番組の小規模なロケは別として、大規模なロケを10回すれば、揉めずに済む回数は半分にも満たないのではないか。

経験上、特に「音に関するもの」と「抜け(※後述する)に関するもの」が群を抜いている。

「音に関するもの」とは、撮影場所の周囲からする「大きな音」が撮影に差し障るため、それを止めてもらおうとして発生するトラブルだ。

一般の人が考えるよりも、撮影できなくなってしまうような「音」は街中に溢れている。

ロケ場所そばを走る選挙カー、街頭演説、飲食店のBGM、ストリートミュージシャンの演奏などなど。それらが始まるたびに撮影はストップし、「音の発生源」との間でトラブルの火種になってしまう。

もちろん、ヘリの飛行音や、午後5時を知らせる防災無線の『夕焼け小焼け』など、どうしようもないものもある。

あるとき、料理番組の撮影スタジオに隣接するマンションで建築工事をしていたことがあった。調理する音の収録が必須だが、地中に杭を打ち込む工事の音が大きくて撮影できない。

工事を止めてもらうことはできるはずもないから、泣く泣く収録を諦めたこともあった。収録が飛ぶと、またイチから演者やスタッフのスケジュールをおさえなければならない。それに、準備した食材や、事前に調理しておいた「差し替え用の料理」もすべて無駄にしてしまう。

そして、「抜け」とは撮影の際に、後ろに映り込む景色のことだ。かなり遠くのものまで、この「抜け」に影響する。

テレビ番組では「映ってはいけないもの」がいくつかある。

許可を得ていない通行人の顔が映り込んだらアウトだ。番組のスポンサーと競合する看板や商品もダメ。場合によっては「場所が特定できるもの」も許されない。ドラマなどであれば、「映像の美しさを損なうもの」もダメだし、時代物であれば「その時代になかったもの」も映り込むことは許されない。

そのような「映ってはいけないもの」が画面の中にあると、それを排除しなければならなくなる。「映ってはいけない」ほどではなくて、「映らないほうが美しい」という程度でもテレビマンとしてはそれを排除したくなってしまう。

●アシスタントディレクターが平謝りすることで「収まっている」

「テレビならではの分業制」もトラブルにつながる大きな原因の一つだ。

テレビ制作では多くの場合、「撮影・演出を担当するチーム」と「ロケの現場を管理するチーム」が別になる。

カメラマンと演出のディレクターが優先するのは「撮影がうまくいくか」であって、「周囲とトラブルになるか」は二の次である。

彼らは"うるさい音"がしていれば「止めてこい!」と怒鳴るし、"邪魔なもの"があれば、勝手にどかしてしまう。通行人も止めたいし、大きな機材も路上に置きたくなる。

時には「木の枝を勝手に切った」ということもやってしまうことがあり、さすがにそれは迷惑な撮り鉄となんら変わりない。

カメラマンたちの「わがまま」を実行するのは、バラエティや情報番組などでは、AD(アシスタントディレクター)やAP(アシスタントプロデューサー)だ(ドラマでは「制作部」と呼ばれるスタッフ)。

彼らはロケ場所の下見や撮影の許可申請、トラブル発生にまで対応する。現場トラブルが起きても、ほとんどが大事にならずに済んでいるのは、彼らが平謝りしてなんとか収めているからだ。

お願い事と謝罪に慣れっこなADたちは非常に腰が低い。「ディレクターが店のものを勝手に動かした」「カメラマンが木の枝を無断で切った」としても、彼らが頭を下げ、時には金銭で補償して、なんとか収まっている。

●「テレビの撮影だから仕方がない」は通用しなくなっている

それでも収まらず、トラブルがそれ以上に大きくなった原因は、(1)「口の利き方を知らないADがいた」とか、(2)「時間が予定より大幅に長くなってしまったり、出演者のタイムリミットが迫っていてイライラしていた」か、(3)「ADやAPは必死で謝っていたのに、横からディレクターやカメラマンが余計なことを言って火に油を注いでしまった」か。

このうちのどれかが原因の大半なのではないだろうか。

今回問題になったフジテレビの制作会社による撮影でも、道路使用許可書記載の使用場所が異なっていたのみならず、住人から撮影中断を求められたスタッフによる「一般の方々と我々は違うんです。静かにしてください」などの発言が報じられている。

「無茶をいう社会性のないディレクターやカメラマン」は、かつては多かったが、最近ではかなり少なくなってきている。

それと反比例するように、世間の人たちの「テレビへの許容度」が低下しつつあることは自覚しなければならない。

過去に「テレビの撮影なら仕方がないか」と、現場周辺の方々も比較的許してくれていたことも、最近では「テレビの撮影だからなんなんだ。邪魔なものは邪魔だ」と許されない。その結果、こうした撮影に伴うトラブルは、今も昔もあまり変わりなく発生し続けている。

●「撮影させていただく」という謙虚さが必要だ

テレビ撮影におけるトラブルについて、違う観点から見てみると、日本の行政や地方自治体が比較的ロケに協力的ではないことが撮影トラブル増につながっている側面もあると思う。

韓国のテレビコンテンツがアジアを席巻しているが、韓国政府や自治体がロケや撮影に非常に協力的な姿勢であることはよく知られている。

日本では撮影許可が下りにくく、小規模な撮影では道路使用許可などを得ずに撮影するのが一般的で、そこからトラブルになることもある。

トラブルが起きたフジテレビの撮影も都内だったが、特に都市部での撮影は許可・協力を得にくい。

最近は、地域振興やシティプロモーションを理由として、地方での撮影はフィルムコミッションや地方自治体の協力なども得やすくなってきた。その地域にくわしくて人脈もある人物が間に入ってくれるので、トラブルの発生は比較的少なく済む。

テレビの撮影トラブルを減らすためには、こうした撮影許可の問題なども関係してくる。

だが、やはりテレビマンたちの自覚こそが一番求められるだろう。予算が減少し、撮影が日程的にも規模的にもタイトになる中でも、できるだけ事前の下見を入念にして、近隣に理解・協力を得る努力がどうしても欠かせない。

世の中の仕事に上下はない。テレビの撮影はまったく偉くないし、特別でもない。みなさまのご迷惑にならないように、最大限配慮して「撮影させていただく」という謙虚さが必要だ。

撮影トラブルのみならず、最近テレビをめぐって発生している問題のほとんどは、実はテレビマンが謙虚になれば、だいたい解決するのではないかと私は思っている。

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