[社説]勝連ミサイル部隊 住民の不安に向き合え

 ミサイル部隊を配備すれば、相手側の攻撃目標になるかもしれない。南西諸島への相次ぐミサイル配備は相手国を刺激し、ミサイル軍拡を招く恐れもある。

 住民が不安を抱くのは当然だ。だが防衛省は、いまだに住民説明会すら開いていない。

 1万500人分の反対署名に託された住民の不安や懸念を置き去りにしたまま、配備計画だけが進む。

 防衛省は、うるま市の陸上自衛隊勝連分屯地に新たに、地対艦ミサイルの連隊本部と1個中隊を21日付で編成する。

 車両などの関連装備は10日に搬入するという。

 勝連への配備が予定されているのは、他国軍の艦艇を地上から攻撃する「12式地対艦誘導弾(ミサイル)」。

 南西諸島では奄美大島(瀬戸内町)、宮古島、石垣島にこの部隊が置かれているが、沖縄本島配備は初めてだ。

 勝連に置かれる連隊本部は、これらの部隊を束ね、指揮統制する役割を果たす。

 防衛省は、12式地対艦誘導弾を改良した長射程のミサイルを2025年度から前倒しし配備する計画である。

 敵基地攻撃能力を備えた長射程の改良型ミサイルはいつ、どこに配備されるのか。

 防衛省は今のところ具体的な構想を明らかにしていないが、配備されれば標的になる危険性が一層高まるのではないか。

 実際、沖縄戦でも砲門を開いて米軍を攻撃したら、その数倍も集中砲火を浴び、陣地もろとも破壊された。

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 「島しょ防衛」や「南西シフト」というキーワードとともに、異常なまでに氾濫しているのは「抑止(力)」という言葉である。

 ミサイル部隊配備についての高良鉄美参院議員の質問主意書に対し、政府は「わが国への攻撃を抑止する効果を高めるもの」だと指摘し、こう答えている。

 「ご指摘の『子どもたちの安心、安全な学校生活』及び『子どもたちや周辺住民の安全』にもつながる」

 質問に対する誠意ある回答とは、とてもいえないような言い方だ。

 抑止とは平たく言えば脅しである。相手の攻撃を思いとどまらせるため、攻撃したら仕返しをするぞと脅すことである。

 「抑止力の強化」は「中国の脅威」とセットになって語られる。

 だから抑止力の強化策は国民の中に中国への警戒心や不信感を生む。

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 中国への不信感の高まりが、政府の抑止力強化を後押しする。

 抑止力を過信し、防衛力増強を続ければ、安全保障のジレンマに陥り、地域の緊張を高める。

 東アジアの緊張緩和を図るためには、関係国による信頼醸成の試みが重要だ。

 日米軍事一体化を深化させることが抑止力を高める、と政府は事あるごとに強調するが検証が必要である。

 防衛省の政策の欠陥は、抑止力強化策が地元負担の著しい増加につながるという視点が欠落していることだ。

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