俳優・桐谷健太さんが40代になって思うこと「過去の出来事の一つ一つが、すべて今の自分につながってますね」

40代に入って活躍の場を広げている俳優・桐谷健太さん。今回挑むのは、ダーク・ミステリーの主人公です。コミカルな役からシリアスな役まで自在に演じる桐谷さんが、この新たな役柄にどんな命を吹き込むのか、作品に懸ける思い、年齢を重ねてきたからこそ見えてきた、今の思いについて伺いました。

二極で測れない物事の面白さを演じる

明るくパワフルで、いつも溌剌として、そしてどこか飄々として。俳優・桐谷健太さんのイメージというのは、その抜群のコメディセンスもあって、常に「陽」という印象が強かった。しかし近年、年齢を重ねるとともに、演じる役柄が飛躍的に多彩になっていることに驚く。そして40代に入ってからは主演作も着実に増えている。

3月3日よりWOWOWで放送・配信が始まる「連続ドラマW 坂の上の赤い屋根」で演じる主人公・橋本涼も、これまでにない新たな一面を見せてくれる役柄だ。

橋本は轟書房の編集者。ある日、新人作家・小椋沙奈が、18年前に「坂の上の赤い屋根」の家で起きた「女子高生両親殺害事件」をモチーフに小説を書きたいと企画を持ち込んでくる。橋本が以前、主犯格の男の自叙伝を出したのを知ってのことだ。2人は事件の関係者に取材を始めるが、次第に闇に足を踏み入れ……。

「企画書を読ませていただいたときに、すごく魅力的で刺激的な作品だと感じましたし、自分がこの橋本を演じるとどうなるのかにとても興味が湧いて、ぜひやりたいと思いました。どこか芥川龍之介の『羅生門』や『藪の中』のようなエッセンスも薫るというか、一口に『心の闇』といっても、見る人によって捉え方が変わる作品になるだろうと感じたんです。完成した第1話を見たら、やはり思わず見入ってしまったので、いいものができたなと喜んでいます」

すべての登場人物に何か裏がありそうだという感じが、物語が進むにつれ強くなる。桐谷さんは、どのように人物像をつくるか頭を悩ませた。

「その橋本を演じることに挑戦したいと思ったのは大きいことでしたね。静かに進んで、ある日突然、違う顔を見せるのか、あるいは一見、普通の人間なんだけれども、どこか何か引っかかる違和感があると見せるのか。編集者という職業も、『編集者ならこういう感じだろう』という以前に、『なぜ編集の世界に入ったのか』に着眼しました。

結果、スタッフさんからも『橋本の考えていることがわからなくて怖い』と言われたりしましたが、よい悪い、優しい優しくないなど単純な二極で判断することの危うさも感じられる作品になっているのではないかと思います」

役が成長を促し、成長した自分にまた新たな役が

演じる人物像をつくるうえで大事にしているのは、自身の経験や感覚だ。

「今までいろんな台本をいただいて、直感的にわかる役もあれば、全然理解できないまま衣装合わせで衣装を着た瞬間、『あっ!』とわかったり、『トカゲみたいだな』と動物のイメージで捉えたりすることもありました。でも最終的には、意識するしないにかかわらず積み重ねた自分の経験からつくっていっている気がするんです。それは想像も含めて。その時々の感覚を大切にしていますね」

デビュー以来、仕事のチョイスはすべて事務所に委ねてきたという。

「マネージャーが言っていたのは『そのときの健太が頑張って手を伸ばして届くところの役を振ってきたつもりだ』と。まさにそうで、当たり前に打てるボールではなくて、全身全霊でやってどれだけホームランを打てるか、というような挑戦を常にさせてもらってきたのが、今につながっている気がします。

自分が決めるという自立した姿勢も大事だとは思いますが、それは年齢を重ねてからでもいいなと。事実、最近は自分の意見も求められるようになってきました。自分にはわからない『魅力』を引き出してもらえているのはありがたいです」

デビューから20年が経ち、年齢も40代に入った。さまざまな役柄のオファーが舞い込み、役者としての引き出しが急速に増えているように見える。

「役が自分の成長を促してくれて、許容量が少し広がった自分になる。そして日常を大切に感じながら生きることによって自分という人間の幅が広がり、また新たな役をいただく。どちらが先かわかりませんが、そうした歩みができているのだとしたら嬉しいですね。それが何か『あ、桐谷健太にこの役』と思っていただけるきっかけになるのだとしたら、やはり楽しく歩み続けたいなと思うんです」

遠い将来を思い描くより、目の前の今と向き合う

何か転機となった出来事はあったかを尋ねると「全部なんです」と言う。

「高校のときに大阪のアメリカ村を歩いていたら、美容師さんに『ヘアショーに出ない?』と言われて『絶対出る!』と言って出て。いろんな人に『俺ビッグになります!』みたいな話をしていたら、そこのモデルの兄さんに『じゃあ東京行かな』と言われて、『じゃあ東京行く!』となった。

運よく大学受験に合格して上京し、入学したその日にサークル勧誘のデスクすべてに顔を出して『俺ビッグになりますから。世界取りますよ』と言って回ってたら、先輩の一人が『おまえ、面白いな』と、その日のうちにクラブに連れていってくれた。それでお立ち台で踊ってたら、声をかけてきた人がモデル事務所を紹介してくれて、その後に受けたオーディションで次の事務所が決まったんです。

だから、どれか一つなくても今がない。バタフライエフェクトじゃないですけれども、どんな小さなことも大きな命につながっているのだと実感しています」

だからこそ、大切にしたいのは遠い未来よりも、日々、目の前の出来事と真摯に向き合うことだと思っている。

「今、撮影をしているのだったら、それを充実させて楽しんで、思い切りやっていくことを続けるだけです。気楽にね。そうしたら必ず未来も面白いほうに変わっていくので。だから将来こうなりたいというよりは、今を味わいながら楽しみながら、今日のご飯をおいしく食べたい、それだけです」

しかしただ漫然と楽しんできただけではないことも、その歩みからはよくわかる。チャンスは無駄にせずすべて握りしめてきた志がそこにはある。

「確かにラッキーでしたが、それにちゃんと気づけた自分をほめてやりたい。そう思っています」

PROFILE
桐谷健太

きりたに・けんた⚫︎1980年大阪府生まれ。
2002年テレビドラマ「九龍で会いましょう」でデビュー。
04年の映画『パッチギ!』、08年のドラマ「ROOKIES」でブレイク。
その後も、映画『クローズZERO』『BECK』、ドラマ「ケイジとケンジ」
などに出演。16年「海の声」が大ヒット。NHK紅白歌合戦にも出場した。
近作に映画『首』、ドラマ「院内警察」などがある。

INFORMATION

「連続ドラマW 坂の上の赤い屋根」

18年前、閑静な住宅街にある赤い屋根の家で起きた、娘とその恋人による両親殺害事件。編集者・橋本涼(桐谷健太)のもと、新人作家・小椋沙奈(倉科カナ)は事件をモチーフに小説を書き始める。関係者を取材する2人はやがて黒い渦に巻き込まれ──。真梨幸子による同名原作をドラマ化。

出演/桐谷健太、倉科カナ、橋本良亮、蓮佛美沙子、斉藤由貴 他
原作/真梨幸子『坂の上の赤い屋根』(徳間文庫)
監督/村上正典 脚本/吉川菜美
●WOWOWにて、3月3日(日)午後10時より放送・配信スタート(全5話・毎週日曜放送)

※この記事は「ゆうゆう」2024年4月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

撮影/hananojo スタイリング/岡井雄介 ヘア&メイク/岩下倫之(Leinwand) 取材・文/志賀佳織

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