業法・入契法改正案/買いたたき規制へ、求められる労務費明示

◇発注者の「予見可能性」に目配せ
今国会に近く提出される建設業法と公共工事入札契約適正化(入契法)の一括改正案。明らかになった条文からは、国の審議会で建設工事の発注者と受注者、あるいは下請の立場で関係者らがひざを突き合わせて議論した成果の跡が見て取れる。適正な労務費の行き渡りと、契約変更の協議円滑化への新たな法規制が実際に機能する条件として、受注者の建設業者には見積もり段階での労務費の明示と、契約前のリスク情報の提供の二つを求める。民間工事を念頭に、発注者を含む注文者の「予見可能性」の確保に目配せしたことが共通したポイントだ。
国土交通省が法制化を検討するため設置した中央建設業審議会(中建審)・社会資本整備審議会(社整審)合同の基本問題小委員会は、幅広い利害関係者による合意形成の場となった。解消すべき課題の一つに挙がったのが、特に民間工事の受発注者で知り得る情報が異なるという「情報の非対称性」だ。
法改正では請負額や工期の変更協議を円滑化するため、契約前のルールとして資材の価格高騰や入手困難の「恐れ(リスク)情報」を受注者が注文者に通知することを義務化する。総価一式を前提とする中でも契約変更の適切な協議を促すため、リスク情報の共有で注文者の予見可能性を確保。特に民間工事で受発注者の認識の食い違いを解消する。その代わり、通知を受けた注文者には誠実に協議に応じる努力義務を課す。
適正な労務費の行き渡りに向けた法規制も、同じような構図でスキームを構築した。労務費ダンピングを受注者、注文者の双方で禁止するため、契約前の見積もり段階に着目。特に注文者の違反行為を規制するに当たって、受注者の建設業者が見積書で労務費などを内訳明示し「見える化」することで、その多寡について注文者の予見可能性を確保する段取りを踏む。
中建審が勧告する「標準労務費」は、建設工事の関係者が立場を超えて労務費の適正さを判断するための「ものさし」となる。法改正では労務費以外に材料費と、法定福利費など省令で別途定める「適正な施工確保に不可欠な経費」も同様に内訳明示を促すことで規制対象とする方向だ。
既存規定の「不当に低い請負代金の禁止」に条項を追加する形で、総価での原価割れ契約の禁止を受注者にも導入。労務費や材料費の内訳額で廉売行為や買いたたき行為が認められなくても、ほかの経費を削るなどしてトータルの請負額が著しく低い場合に適用することを想定している。
国交省は法改正を通じ、民民契約を含めた取引全般への業行政の関与を強めることを意図している。国交相に取引実態などについて調査を行う権限を付与。既存の「下請取引等実態調査(元下調査)」と、工事現場などを直接訪問する「モニタリング調査」を法定調査と明確に位置付け、調査内容を充実させる。併せて法規制の実効性確保のため、省内部の組織体制を強化。法案成立に先駆け、モニタリング調査で取引関係の実態把握や指導に当たる「建設Gメン」を今春にも発足させ、本格的に活動を始める。各地方整備局の調査担当者を4月に増員する。

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