無敵の力(3月7日)

 「緊張の糸が張り詰めたまま人間はずっとやっていけるわけがない。癒やしを求めることは必要だ」。東日本大震災から半年たった頃だ。秋田県出身の漫画家矢口高雄さんが、東北の被災地に思いを寄せた▼漫画のヒーローに、避難生活での心の支えを得た方もおられるはずだ。石ノ森章太郎さんの原画などを収めた宮城県石巻市の石ノ森萬画館は、津波被害を受けて休館を余儀なくされた。玄関をふさぐベニヤ板に、1万人分の励ましのメッセージが書き込まれた。復興のシンボルとして、1年8カ月後に再開を果たす▼「マジンガーZ」「デビルマン」…。懐かしさが込み上げてくるのは中高年世代だろう。作者の永井豪さんは石ノ森さんのアシスタントから出発した。不思議な共通点と言える。能登半島地震で、古里輪島市の永井豪記念館が被災した。原画やフィギュアに被害がなかったのは何よりだが、住民の誇りが傷ついたようで心が痛い▼復興支援のため、永井作品3本がネットで無料配信されている。♪空にそびえる くろがねの城―。往年のテーマ曲が勇気を連れてくる。艱難[かんなん]2カ月の能登の地へ、同じ被災地から祈りを込める。どうか無敵の力を。<2024.3・7>

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