【霞む最終処分】(25)第4部 実証事業の行方 所沢市、実施見通せず 「環境省の見通し甘い」

 埼玉県の南西部に位置する所沢市。西武新宿線航空公園駅東口から北に徒歩10分ほどの場所に、環境省が所管する環境調査研修所がある。環境保全に関する人材育成を担う施設だ。周りには病院や保育園が並び、大通りを挟んで住宅街が広がる。ゆったりとした歩道は市民の散歩コースになっている。

 環境省は2022(令和4)年12月、環境調査研修所で東京電力福島第1原発事故に伴う除染土壌を再生利用する実証事業を実施する計画を発表した。省関連施設で除染土壌の安全性を公的に確認した上で、全国に実証事業を展開させる狙いがある。

 計画によると、放射性物質濃度が1キロ当たり8千ベクレル以下と比較的低い除染土壌を芝生造成に使用し、空間放射線量、大気や地下水に含まれる放射性物質濃度を測り、科学的な安全性を確かめる。敷地東側の駐車場近くの土地に20立方メートルの除染土壌を搬入する方針だ。

 飯舘村長泥で進められている農地22ヘクタールを造成する実証事業とは比較にならないほど規模は小さい。それでも、住民の拒否感は根強く、合意形成への道のりの険しさが際立つ。

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 環境省が計画の発表後に所沢市で開いた住民説明会では、担当者が法律に基づく除染廃棄物の県外最終処分の実現に向け「福島県外でも再生利用に取り組む必要がある」と理解を求めた。一方、住民からは「土ぼこりの影響は大丈夫か」「住民の理解や同意の基準を示すべき」などと現時点での実施に反対する立場での意見が相次いだ。「安全なら福島に置いたままでいいのでは」と除染土壌を福島県外に持ち出すことに否定的な声も上がった。

 説明会は事前申込制で参加者は50人に限られた。市内に住む70代男性は「環境省はかなり甘く見ていたのではないか。最小限の関係者を説き伏せれば、事業をどんどん進められると思っていたのだろう」と対応を非難した。

 市内の70代女性は「実証事業の期間が示されていない。これから除染土壌がどのように使われるかも分からない」と環境省の説明は中途半端だと不信感を抱く。

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 環境調査研修所近くの弥生町の町会は環境省による実証事業計画の発表から1カ月後の2023年1月、反対を決議した。同年3月には所沢市議会が「住民合意のない試験は認めない」との決議を全会一致で可決し、市を挙げて拒否する姿勢が鮮明となった。

 実証事業の先行きは見通せない状況だ。市は環境省の計画に対し、「市民の理解が大前提」として動向を静観する構えを見せる。市環境対策課長の前田亘一は「環境省は市民に丁寧な説明を尽くすべきだ」と求める。(敬称略)

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