占い師が不同意性交の疑いで逮捕、元刑事は被害女性の「洗脳」を指摘 同業者に聞く「相談者との接し方」

昨年9月に都内のホテルで40代女性にわいせつな行為をした不同意性交の疑いで、警視庁巣鴨署はさいたま市の60代男性を2月に逮捕した。容疑者が渋谷駅周辺の地下街などで「しぶちかの父」と名乗る占い師として活動していたことから、その〝肩書き〟が注目されたが、この事件はあくまで特殊なケース。実際のところ、占い師は悩みなどを相談する人たちとどのように接しているのか。識者による事件の解説と共に、現役の占い師(鑑定士)に見解を聞いた。

同署によると、容疑者はイベントで女性を占い、ホテルに誘ったとみられており、「あなたの子宮は黒くなっている。マッサージして治してあげる」などと言って体を触ったという。逮捕当時、容疑者は「性的な目的はなかった」と否認している。逮捕容疑となった「不同意性交等罪」は昨年7月に改正刑法が施行された罪名で、暴行や脅迫などがなくても、拒否や抵抗ができない関係性の中で被害者側にとって不本意な性的行為があった場合にも適用される。

この事件について、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は「占い師に精神的な部分を委ねた女性の側が、占い師という立場を利用されて被害に遭ったケース。占いや相談という形で相手の弱みにつけ込んだ卑劣な犯罪」と指摘した。

小川氏は「被害女性はすぐに警察に届けを出したのではなく、別の占い師さんに相談して、『それはおかしい』と言われたことで、『自分が被害を受けていた』ことを認識し、警察に届けたということです」と経緯を説明。さらに、同氏は「占いをするのにホテルの密室を使ったり、マッサージをするなど、冷静に考えればありえないが、相談している人には弱みがあって、相手の言うままに従ってしまうという、ある種の洗脳状態にあったのではないか」と被害者の心理を分析した。

では、同業者はこの事件をどう受け止めたのか。一般社団法人・ソーシャルコミュニケーション協会が運営する「占術事業部 Fortuna」代表の遠井香芳里氏(鑑定士名・ミケ)に話を聞いた。同部では、東京や関西などを拠点とする占い師たちと業務委託している。

「占い師にはカウンセラーの要素があります。占いに来るお客様には悩みを解決したいという思いのほかに『認めてほしい、慰めてほしい、励ましてほしい』という3大欲求がある。そこをうまくカバーしてあげるのが一番なんですが、今回の事件は相手のことを思いやっているようで、自分の気持ちや下心のようなものが優先されてしまったように感じます。正直、占いって、嫌な話ですが、使い方次第で悪用できるんですよ。『こういうふうにすれば相手を誘導できる』ということが分かるからこそ、やってしまった例だと思います」

その上で、遠井氏は「相手を依存させようとするような人は占い師になってはいけない。依存に歯止めをきかせるのが占い師でしょう、なんで鑑定以上のことをやってしまうのか…という思いが個人的にはあります。私たちはお客様と一線を引いてます。『病気かもしれないから、ホテルでマッサージや治療しましょう』なんて事は絶対にあり得ません。それなら、『ちょっと気になるから病院や人間ドックに行ってくださいね』となります。それ以上は踏み込まない。ホテルに誘うなんて心理にはならないです」と強調した。

今回のようなケースの防止策として、小川氏は「ホテルで鑑定などと言われても、家族や友人らに付いて来てもらえれば被害は防げたかもしれない」としつつ、一方で「周りにそういう相談できる人がいないから、占いに頼る人が多いというのも事実」と指摘。遠井氏も「そういうこと(第三者の同伴)ができないんですよ。優しい人、(悩みを)ため込んじゃう人や、自分のことに周りを巻き込みたくないという遠慮深い方が多いと思います」と補足した。

遠井氏は「占い師へのネガティブイメージを覆したい」というテーマを掲げてきた。同氏は「『占い師です』と名乗ると、宗教と一緒にされて『壺とか売らないで欲しい』とか言われたりします。今回の件で、また占い師のイメージが悪くなってしまったかも…と個人的には思っていますが、そうしたイメージを払拭する活動を続けていきます。弊社の占い師は明るく優しく、占いの腕も確かです。大きな企業からも顧問契約、出張鑑定、人事採用補助などのお仕事の案件もいただいているので、徐々に世間的に評価されてきているとも思っています」と手応えもつかむ。

本来あるべき「占い師の立ち位置」とは。遠井氏は「〝教える立場〟と勘違いされがちですが、そうじゃなくて、占い師はマラソン選手に併走するコーチのような存在です。どういう人生に行きたいかを聞いて、そこに行くための最短ルートを一緒に横を走りながら伝える人。『あなたがこうしたいんだったら、一緒に頑張ろうね。何かあったらまた相談してね』と。それで、お客様がその日すっきりした顔で帰ってくれて、来なくなれば、占い師的には一番いいんです。もう悩んでいないということで。『何度もリピーターとして来ないこと』が一番幸せ。便りがないのは悩みが解決して元気な証しですから。まぁ、商いとしては困っちゃいますけどね(笑)」と総括した。

「併走」することなく、「暴走」してしまったがゆえに引き起こされたとみられる今回の事件。一方で、個人や企業などに必要とされている「占い師」という仕事を見直す契機になるかもしれない。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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